Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

『ブロードウェイ・ブロードウェイ』

それは私にとっては、何か痛々しい思い出と共に見た舞台映画。
コーラスライン』何故ならば、自分のコンプレックスを刺激する、
そんな内容があまりにも多すぎるから。
皆さんは、この作品にそんな感慨を抱いたりはしないのでしょうか?
私は、それぞれの登場人物に何かしらどこかしら感情移入してしまう。
勿論それを目的に物語が作られているのだけれど。
会話、独白、回想、質問、振り返り、それぞれの人生の物語。
夢、きっかけ、競争、挫折、渇望、忸怩たる思い、慙愧、希望。


今から思えばあの作品の中に、重ねてみてしまう場面、
エバンゲリオン』と同様のラストを見出す。
まるでエンカウンター・グループのまとめ、最後の部分。
ファシリテーターが導き出すままに繰り広げられる、
それぞれのグループの人間の内面、人生のモチーフ、上澄み、汚泥、
硬結のように「しこって」いる物。煮凝った思い。
歯を食い縛った奥から、やっとのことで搾り出すようなもの。


『ブロードウェイ・ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』
一粒で二度美味しい柳の下のどじょう映画。
再演されることになったミュージカルの名作、『コーラスライン』の
オーディションをそのまま映画としてドキュメンタリーに描く、
コーラスラインのためのコーラスライン的な手法によって作られた映画。
かつてのマイケルベ・ネットのように、ダンサー達の話を録音するだけではなく、
今回はその都度その都度のインタビュー形式で、映像と肉声が錯綜する。


ダンサーのための映画、ダンサーを愛する人の映画、
ダンサーの世界を少しでも知りたい人のための映画、
ダンサーという人間を理解するための一つのステップ、
ブロードウェイで生きていこうとするダンサーをリアルに見つめる、
ダンサーを仕事として選んだ人間の在りようを目の当たりにする、
自分の仕事に打ち込んでいく情熱、生き様に引き込まれる映画、
『ブロードウェイ・ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』


いい夫婦の日をのんびり過ごすために選んだ映画。
かつてミュージカルを見るために出向いた、ロンドン・ニューヨーク。
仕事の合間に飛び込む別世界。色んな作品を見たけれど、
残念ながら、『コーラスライン』はロングランが終わった後で、
本場で舞台を見ることが叶わなかった作品の一つ。
舞台裏、オーディションを扱う、メイキング以前のメイキング
という部分に当初、抵抗があったのは確か。

コーラスライン [DVD]

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音楽やミュージカル、バレエ、ダンス、自分には到達できない世界。
人は憧れを持って、その世界をほんの少し垣間見るために足を運ぶ。
劇場に、舞台に、映画館に、ホールに、しばしの夢、新たなる現実、
洗練された世界、迫力に満ちたエネルギー、臨場感と感動を求めて。
コーラスライン』に付随して、マイケルベネットのことを思う時、
どうしても別の人物達も連想してしまう。
天才と呼ばれながら、夭折といってもいい死を遂げた人達。
例えば、みんな同じエイズで世を去ったアーチスト達。


天才バレエダンサーだった、ジョルジュ・ドン。
彼のボレロ、そう、『愛と哀しみのボレロ』を思い出す。
フレディ・マーキュリー。あの精力的な歌声とコンサート。
クイーンをクイーンたらしめた彼を思い出す。
キース・へリング。いまだに数多くのデザインが様々な場所で使われている。
アメリカの地下鉄から世界中に広がって行った、
彼の絵、色と線とデザインは一度見たら忘れられない。


そして天才ダンサーから天才コリオグラファーへと、
私生活を盛り込み、それぞれのダンサーの物語を録音し、
ワークショップを開き、声から体、ダンサーという特殊な人間が使う、
体という言葉、動きという言葉を練り上げ、一つの作品に昇華させた。
ダンサーの体の動き、リズム、表現はすべからくその人自身を表す。
他人から振付けられたものであっても、それは個性的なそれぞれの肉体の、
躍動・息遣い・ステップ・眼差しによって饒舌に語る存在となる。


コーラスライン』は、台詞も含めその歌もダンスも、時に寡黙で、
時に雄叫びを上げ、囁き呟く内心の声、欲望、怒り、戸惑い、歓喜
感情そのままに繰り広げられる、吐露されるエンカウンターグループ。
ミュージカルの中に盛り込まれた心理的なワークショップそのものだ。
それを、螺旋2重構造のように絡めて製作された作品。
『ブロードウェイ・ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』
初演当時を知る人間が語る思い、レッスン風景、オーディション、
世代を超えてダンサーとして息づく遺伝子、プライド。


そして今は亡きマイケル・ベネットが語る。
彼の生きていた当時を、再演を支える人々が語る。
彼の残した作品にまつわる様々なエピソードが、伝説となり、
コーラスライン』を再び蘇らせる。
そして、私はその作品に接することで、当時の時代、空気を思い出す。
多感な若かりし頃、そして今まで。


生きてきたことを振り返りたくなる日々。
まだ、何も為していないことに落ち込む日々。
されど、オーディションに臨むダンサーの若さは失えど、
熾(お)き火や埋ずみ火の様に隠れていながらも、
熱く滾るものが自分のうちに在ることに気付かされる。
普段忘れようとしたり、意識しないでいようとしているものが。


一人一人の言葉が取り上げられることなど、普通ありえない世の中。
その中で人は語り、歌い、踊る。自分の言葉を紡ぐ。物語を。
人生を。誰も代わることができない自分自身の人生を。
私は目の当たりにする、この作品の中に見出す。
自分の心に届く言葉を。様々な人の言葉を、生き様を。
胸が痛くなるほどに。

A Chorus Line (1975 Original Broadway Cast)

A Chorus Line (1975 Original Broadway Cast)

Chorus Line / N.C.R.

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