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旭山動物園物語

家族でやっと見ることの出来た『旭山動物園物語―ペンギンが空をとぶ』。
なかなか見に行く機会がなかったのは、上映時間のせいだ。
子供向け家族連れを想定しているせいか、遅い時間からやっていない。
15時ぐらいで終わってしまう。我々の活動時間帯と外れているので、
他の予定が終わった後に、夕食を兼ねて見るなどということができない。
そのため、何も予定が無い日を待っているうちに今日になってしまった。
真昼間から映画館、本当に我が家では珍しい。


色んな所で評判を聞いていたので、期待していたのだが、
実際は思っているような感じではなかったし、
自分が期待しているような鑑賞が出来なかった。
娘も家人もそれなりに、泣いたり笑ったり満足していたようだが、
私には深い感動・感銘がやってこなかった。
というよりも、集中して物語の中に入っていけなかった。


たぶんに冒頭シーンのせいか? いや、甲虫類が苦手なのではない。
そういうものにひたすら熱中する子供、何も言わず掃除する母。
その関係性だけで、職業病に火が付いたというか。
父親不在の家庭? 父性の喪失? 反動として職場のサブ父性の嵐。
引きこもりがちで人との付き合いが下手な苛められっ子。
映像の中、顔を見せないままの母親。
観客の想像ににお任せしますというよりも、不気味さが目立つ。
幾ら最後の手紙でフォローしたとしても、子供の目からは
身近な母はどのような視線で捉えられていたのだろうかと・・・。
苛められていたわが子を抱きしめる事も出来ず、傍観するように
もしくは凝視するようにその場に立ち竦んでいたのかと思うと。


おそらく映画冒頭の掴みが、私にとっては良くなかった。
他の人にとってはどうかはともかく、私にとっては。
映画の伏線に絡まって隠されているものが、主題よりも大きく響く。
そんな感じでとても見辛くなってしまった。
母子・人間関係、いじめ、トラウマ、ひきこもり、熱中、
発達障害、成熟と未成熟、遣り残した課題。
そういうキーワードに付随する様々なものが、私の脳内を一気に占めた。


その結果、余り知らない主人公役の青年よりも、
周囲の配役、ベテランで個性的な面々に気を取られてしまった。
ベテラン過ぎて、個性が強烈過ぎたといってもいい。
それぞれが役柄をしっかり演じれば演じるほど、
どうしても別のものが透けて見えてきてしまう。
重なって見えてきてしまう。
その動物園の飼育係だけに集中して見ることができない。


例えば、長門裕之演じるチンパンジーの飼育係。
2世誕生に躍起になる姿に、職業意識と愛情がないまぜになり、
その過剰な愛情が、動物の妊娠中毒を検討する姿勢すら失くさせる。
心配の余りうろたえる彼に、西田敏行演じる園長が、
チンパンジーの夫婦の仲むつまじい姿を見せて、
「大丈夫だから、無事に生まれてくるから」という下り、
親子・夫婦や周囲の気持ちが錯綜している関係を思わせる。


更に、認知症が進んでいるにも拘らず、医師に見せているのかどうか、
話題になった長門裕之の妻、南田洋子との夫婦関係を連想した。
老人性の鬱ではないか、自分だけで世話をするにしても限界がある等、
女性紙に取りざたされていた妻と彼との関係。
「大丈夫」という台詞に涙する彼の演技が、彼の日常生活と重なって
見えたような気がする言えば、大層失礼に当たるのだが、
そういう風に役柄以外のものが透けて重なって見えてしまうのだ。

「旭山動物園」革命―夢を実現した復活プロジェクト (角川oneテーマ21)

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魔法のどうぶつえん 旭山動物園写真集 (Pen BOOKS)

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戦う動物園―旭山動物園と到津の森公園の物語 (中公新書)

戦う動物園―旭山動物園と到津の森公園の物語 (中公新書)


彼の夫婦関係に、認知症の母とそれを認めたがらない父、
我が家の老親の事が連想されたのは言うまでも無い。
故に、色々な事が気になって映画に集中できない。
また、動物の夫婦愛が強調されるシーンを監督として撮っている、
マキノ雅彦こと津川雅彦は、妻朝丘雪路との別居宣言をしている。
むろん彼の方から一方的らしいと、これまた婦人紙に。
その背景には彼のおもちゃの経営不振。負債の為に自宅売却云々、
何処まで本当か書きたてられていた。
娘の幼い頃、家人の実家近くのそのおもちゃ屋で買い物した時、
偶然にも津川雅彦のサインを積み木の袋に貰っている。
そんな事を思い出してしまい、映画に集中できない。
子供に夢を与えようとした彼が、この作品を作ることで、
子供たちにメッセージを託しているのか、何なのか。


西田敏行にしてもそう。
動物園の園長という役柄上の派手なネクタイなどなくても、
ただでさえ個性的な、ある意味アクの強さのある俳優の彼。
しょっちゅう変わる動物柄のネクタイ同様、
今までの役柄を思い出してしまう。『釣りバカ日誌』のはまちゃん、
『女太閤記』で「おっかあ」を連発していた秀吉、
おろしや国酔夢譚』の凍傷で片足を失くした漁師、
毎週聴くラジオ文芸館の朗読で、様々な役柄を読み分けている彼。
脳内に色んな彼が湧き出てきて、映画に集中することができない。
色んなものが透けて見えてくる感じで、邪魔になる。


先日読んだ恩田陸の『きのう世界』には、
見たものを見たまま覚える特異な能力の持ち主が、
地図を見ただけでその上の立体図、地下の様子まで見て取れるようになり、
自分の意識が保てず頭痛に悩む場面があるが、
そこまで行かなくても、知っていること見聞きしているものが邪魔して、
様々なものが透けて重なって見え、目の前にあるものに集中できない。
自分が抑え切れていない、不安定感を覚えてしまう。


おそらく人間ばかり出ている映画であれば、こういうことは無かったのかも。
なまじ、動物園の中の動物達が出ているだけに、
どうしても比較対照して見てしまうのだろう。
景色ではなく、動物達と人間。動物対人間。
対比され見せ付けられる役者達の個性、人間臭さ。
その人個人を深く知るわけではないので、見てきた役柄に影響される。
オーバーラップして見てしまう。
動物に動物を重ね合わせてみることは無いのに。


岸部一徳にしてもそう。ゴリラの飼育係として、繁殖に失敗どころか、
メスのマリに良かれと思って離れようとしたばかりに、
マリを死なせてしまう彼の役柄に、岸部が俳優として認められた作品、
『死の棘』の夫婦関係を重ねて見てしまう。
そしてその連想に、我ながらやるせなくなってしまう。
むろん彼も様々な作品に顔を出している、渋い俳優だから好きなのだが。

おろしや国酔夢譚 (文春文庫)

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死の棘 (新潮文庫)

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きのうの世界

きのうの世界

通院時の待合室で見る女性週刊誌のように、頭の中がごった煮になる。
邦画やドラマを見ることは殆ど無いというのに、一体今日はどうしたことか。
これは動物園再生の映画だったか? 何かが違う。
問題的の作品であることには間違いない。
新しい狼の森が完成した昨年。日本最北の動物園に集う観光客。
上野をも凌いだ実績を持つ、動物園の中の優等生に輝く。
しかし、簡単に赤字が順調に減っているわけではない。
投資した分を回収するのは大変なことだ。


地方財政、財政難、議会、予算の取り合い、選挙、駆け引き、取引。
動物愛護団体市民運動、お役所体制。
生態系と環境についての知識、啓蒙活動。種の保存。
職場での人間関係、古参と新参、仕事への取り組み方、仕事での悩み、
果たされなかった夢、事故死、殉職、動物と人間との関係、
動物園の存在意義を巡って様々なエピソードが展開する。


25年飼育係を勤めて絵本作家になった実在の人物をモデルにした、
柄本明演じる飼育係を見ていると、私のような人間は、
自分の年齢のせいもあるのだろうが、若かりし頃の夢を思い出してしまう。
人は果たすことの出来なかった若かりし頃の夢を、封じ込めて生きている。
苦楽を共にした仲間に別れを告げてでも、最後に手にしたチャンスに賭ける
彼の姿に、残された自分の時間をどのように生きようか、
何につぎ込んで生きたいか、重ねて見た人も多いのではないか。
自分自身を振り返ったのではないか。


動物園でキャリアを重ねていくものもあれば、生活費を稼ぐ為に
仕事に就く者もいるだろう。むろん動物嫌いでは大変だろうが。
人間と向かい合うように動物に向かい合うことは、
ある者にとっては楽で楽しく、ある者にとっては難しい。
そして、その逆も。


野生動物よりも寿命を永らえて生きる事が、100%の幸せとは言えないが、
少なくとも乱獲から守り、未来への地球号というノアの箱舟に乗せるため、
種の保存に寄与しているとは言えるだろう、動物園。
ペンギンをとばすのは、ペンギンの素晴らしさを、
野生動物の秘められた身体能力を誇示するためではない。
狭い檻の中でさえ、必死に生きようとしている命をいとおしみ、
人もまた見えぬ折の中で必死に生きようとしている、
その命あるものの尊厳をお互いに認め合う為に、あるのではないのか。


動物園は、生あるものの素晴らしさ、生きざまを通して
幼い頃から命あるものの姿を胸に刻ませる為にあるのではないのか。
その為にこそ・・・。
透けて重なるものの向こうに、やっと目が向いてきたようだ。

旭山動物園のすべて~動物たちの鼓動が聞こえる [DVD]

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旭山動物園のつくり方 (文春文庫PLUS)

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