読者でしかない
滅多に芸能人の噂話など職場でしないが、
一月に一度仕事上で会うか会わないの人と、雑談。
専門的な話がてら、ちょいと結婚にまつわる話に。
最初は家族関係の絡みから夫婦の話になり、嫁姑関係に。
家族や子どもに関する物語、そして、いつの間にか漫画の話に。
読書の秋だというのに、漫画からですが。
『カードキャプターさくら』から『蟲師』まで。
『ゲド戦記』や『陰陽師』、『コーリング』で、
アーシュラ・ル・グインの話から、パトリシア・マキリップの名前まで出てくる
マニアックな読書話を楽しんでいた時のこと、
岡野怜子の話が出て来て、彼女の夫が手塚真であることを聞かされた。
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知らなかった。ちょっとびっくりした。
手塚真というと、あの手塚治虫の息子だ。
彼は知っていたけれど、まさか奥さんが岡野玲子とは。
うーん、何と物凄い。というか、家庭生活が想像できない。
マンガの世界の神様の息子、今一つ明確なイメージがもてないのだけれど、
(金髪というか白髪というか、不思議な外見だしね)
何となく『陰陽師』以来、神格化されちゃった感がある岡野玲子。
その取り合わせが、言いえて妙というか何と言うか、いやはや。
いや、想像といっても下世話な想像ではなくて、
二人並んだイメージとして、知的な同盟、同志のイメージは沸いても、
夫婦のイメージが湧いてこないのは何故だろう。
さもありなん、このカップル、このペアというイメージは
「さすがだなあ」と、すんなり受け入れられるのに、
夫婦と言われると、うーむうーむと思ってしまった私って。
いや、単なるお邪魔虫、一部外者の感覚だから
あれこれ言う立場ではないのだけれど、雑談とはいえ、
改めてびっくりしてしまった、ワタシ。
多分、岡野玲子の作品の中に描かれている男女関係、
夫婦関係のイメージをスライドさせて想像してしまうからだろう。
『陰陽師』の中の男女関係、夫婦関係を連想してしまうのだろう。
実際の生活は、作品の中とかけ離れているのは当たり前なのに、
(いや、そうでない人もいるのかもしれないけれど)
何だかそのまま横滑りさせてしまうと、超越的なイメージがふつふつと、
クリエイティブで形而上学的なベールに包まれてしまって、
一般庶民の手に届かない領域に鎮座ましましている感じがしてしまうのは、
何故? 私の個人的な偏見のなせる業?
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手塚治虫没後、一見遠ざかるかに見えるその世界、
しかしながら根強い影響力を持つ世界。
高い壁、広い世界として存在する手塚ワールドの向こうに、
自分の目指すべき世界を夢み、構築している人間は多い。
何がしかかのメタファーとして用いられる領域の手塚治虫
同じように、みんながみんなある領域、ある高みに達してしまい、
それはそれで素晴らしいけれど、多神教の世界のような、
蛸壺状態の極限ワールドを連想してしまうワタシ。
一読者はワープするが如くあっちの世界こっちの世界を覗き見しながら、
物語、漫画の世界に浸ることになるのだけれど、
何だか昔と違って侘しい気持ちがするのはどうしてだろう。
生活に追われているというのに、この年齢で作品世界に入り込むことへの抵抗、
気恥ずかしさ、年齢的な抵抗感もさることながら、
どうして昔からこういう生活からは慣れられないのだろうという、
業(ごう)のようなもの。
文字の中に絵を、絵の中に文字を、メッセージを、世界を読み取る。
読み込むこの作業の楽しさには待ってしまって、幾年か。
なのに、まだ、執着している。いつまでこんな生活を。
そして、ゴシップにも似たニュースにある種の感慨を抱いている自分に、
半ば呆れながら、自分がおばさん化しながらも、
生活と物語世界に引き裂かれている哀しさに、
作り手の持つ、現実にも非現実にも広がる世界の豊かさに、
羨ましさを感じつつ・・・。
そんな様々な作品の一読者であり続けている、
それでいてそんな自分に満足し切れていない、忸怩たる思いに悩む、
決して作り手の側にはなれない、僻んだ感慨を抱かざるを得なかった今日。
そんな菊花の節句の今日。
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