Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

『海街diary』と『怖い絵』

対処療法の服薬は良く効いている。哀しいくらいに。
歩けるのは嬉しいが、根本的な解決には至っていない。
ただし、出かけなければならない予定がある時、
普通に歩けるのは誠にありがたい。
家人はボルタレンなんかに頼って生活を始めたら、
今に肝臓に影響が出るぞと嘆く。
肝臓はもう他の薬にも影響されているだろうが。


治療に必要な薬はどんな薬でも、体にとっては薬であり毒だ。
必要悪。そんな言葉が頭の中を巡る。
とにかくやっつけ仕事。いや、本当は必要だとわかっていながら、
ぎりぎりになるまで手を付けられなかった文書の作成に入る。
一日のルーティンワーク、明日のための資料を打ち込む。
全く泥縄作業に明け暮れている。
追い詰められないと、重い腰が上がらない。
頭が回らない? 文書作成から逃げている。
書けば書くほど、当初の予定とはかけ離れていく。
こんな筈ではなかったのに、思うように書けず苦慮。


焦ってどうなるものではないが、時間に追われる。
出かけなければ遅れる。せっかくのワークショップ。
電車で読むのも、研修の合間の息抜きも「怖い絵」の話。
単なる芸術品としてではなく、その背景を読み込む。
何も知らないで絵を見るのではなく、時代を、
画家の置かれた境遇を、その絵を描かせた人物を、
描かれた人物に流れる血の重さを知った上で見る、絵。


ワークショップの休憩の合間に、気持ちを切り替えるために、
すぐに別の世界に意識を飛ばしておく。
余計な延長戦をしなくてもいいように。
雑談にかまけて余韻を噛み締めることなく、
心の蓋を閉め損ねることが無いように、帰り道は別の本を読む。
ワークショップの余韻に浸り過ぎないように。
やっと出た。吉田秋生の『海街diary』の3巻目。

探究この世界 2010年2-3月 (NHK知る楽/月)

探究この世界 2010年2-3月 (NHK知る楽/月)

「怖い絵」で読む世界の歴史 (知的生きかた文庫)

「怖い絵」で読む世界の歴史 (知的生きかた文庫)



1巻目は『蝉時雨のやむ頃』、2巻目は『真昼の月』、
今回は『陽の当たる坂道』それぞれの題名も素敵だが、
しばらく続いたハードな内容の連載、男性が主人公のアクション、
S・Fハードボイルドがミックスした内容ではなく、
下手をすれば陳腐なワイドショー的な日常生活を、
単に女性の目から見た日常生活ではなく、
どの年代から見ても切実な思いに浸れる世界に仕上げている。


自分たちを置いて去っていった父親。片親だけ繋がった妹。
両親との縁が薄く、祖母に育てられた3人姉妹とその異父妹。
鎌倉を舞台にした話なのに、何故か山形から物語が始まる。
海街は山から見た景色の中に見出されていた。
妻子を捨てて田舎に暮らした男性が偲んだ景色は、
帰る事のできない懐かしい街に似た景色。


父の思い出を持たない子供。母の思い出さえ持たない子供。
大人になったからとて自分の気持ちをどうこうできない。
男と女の子とは身内でも口を挟めない。
小さかろうと大きかろうと、感情の波に揺すぶられて、
日常生活が様々な色合いを湛えながら、時には煌き、
時には濁り、滞り、混ざり合い・・・。


絵画の中の一枚に凝縮されるような、そういう「怖い絵」でなくても、
日常生活の中にふと現れる人生の真実、どうしようもない陥穽は恐ろしい。
ぱっくりと口を開け、人を一気に引きずりこむ。
誰もが当たり前に越えていけるようなこと、
成長過程だ、思春期だ、青春だ、そんな言葉で軽々しく乗り越えられる、
それが日常生活ならば、誰も苦労はしない。齷齪もしない。


小説とは異なる漫画の世界で、切なくなるほどの「家族」の在り方、
きょうだい、姉妹、恋人、友達、親子の在り方。
それを誰がどうこうすることも出来ないまま、
なるようにしかならないと思いつつ、
修羅場だなあと呆れつつ、いつの間にか通り過ぎていく、
折り合いを付けて繰り返される日常。
同じ事の繰り返しに見えるようで、確実に変化している日常。


あっさりと読み過ごすことが出来ず、何度も繰り返し呼んでしまう。
様々な『怖い絵』野中に封じ込められているのは、
人間に共通する歴史や、普遍的な特徴だけれど、
海街diary』に描かれている生活は、もっと私達に身近な、
まるで自分や知り合いのことに置き換えられているような、
そんなオムニバス小説を読んでいる、そんな気持ちにさせられる。


15年ほど前に描かれた『LOVERS' KISS 』の登場人物が、
カメオ出演するようにチラホラ描かれているのも、
往年のファンとしてはわくわくする楽しみではある。
娘も川原泉萩尾望都木原敏江に続き、吉田秋生も好きになったよう。
無論、小学校4年生に刺激が強すぎる作品はナイナイしてあるので、
おいおい色んな作品を読ませよう。


ワークショップの合間に肩が凝らないよう、頭が疲れないよう、
ほぐすためにも一見軽そうで、読み応えのある作品が癒してくれる。
文字が大きく読みやすい本、絵の多いものばかりの読書が増えてきたのはご愛嬌。
読書用眼鏡なしで読めるものが中心ですからね。

海街diary: 陽のあたる坂道 (3) (フラワーコミックス)

海街diary: 陽のあたる坂道 (3) (フラワーコミックス)

海街diary(うみまちダイアリー)2 真昼の月(フラワーコミックス)

海街diary(うみまちダイアリー)2 真昼の月(フラワーコミックス)

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃