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マイレージ・マイライフ

もしも医療費でマイレージが溜まるなら、我が家は相当なもんだと思う。
家人、両親、そして私、娘の歯科矯正費も含め・・・。
取れてしまった本歯の仮止め、結局接着することは叶わず、
主治医が削るために、全く別の仮歯を作ってもらい嵌めて貰う羽目に。
うんざり、やれやれのお疲れの2時間。
主治医の代わりに見て下さった先生もお疲れ。


最初接着したら口腔内異常警報。
全く高いのなんのって、噛めるどころではない。
一体噛み合わせはどうなっているの?
付け方のせいなのか、位置か、セメント?
何なのか、全く別の被せものを嵌めたかのよう。
結局それを外すのに涙が出るほど痛い思いをし、
主治医抜きにむやみに削るのを避け、仮歯を装着。
一昨日の苦労は何だったんだろう。虚しさが広がる。


気分転換に、通販横流れアウトレットで娘の春夏服をゲット。
明日海洋キャンプから帰ってきた娘への新学期のプレゼント。
家人と待ち合わせて、久々に夫婦で映画。『マイレージ・マイライフ』
物語の主人公は飛行機に乗りホテルに泊まりレンタカーを借り、
どんどんマイレージを貯めて、1千万マイルが目標というツワモノ生活。
従って普通の結婚生活など眼中には無い。
1年のうち322日の出張では、自宅に居る時間など微々たるもの。
そんな彼が新入りの指導をしながら、お楽しみの相手、
気に入った相手と「家庭」を夢見た時、
何が待っていたか・・・。


癖のあるギャグや悪役のイメージが、がらりと変わって、
今回真面目で哀愁さえ帯びた中年男性に。
と言っても、ジョージ・クルーニーは自分より年下で、
少々ショックを受けてしまった。手っきり年上だと・・・。
それはともかく、人生にとって大事なものは何か。
自分には持ち運び可能な一つの鞄しか残されていないなら、
何を入れるか、何を捨てるか。人生における取捨選択。


主人公の仕事はリストラ屋。このご時世にと思ったが、
映画の企画撮影自体はこの不況が始まる前からだったらしく、
映画が現実を先取りした形になったとか。
事実は小説よりも奇なり、ね。
面と向かって相手と話をする時間を取りながら、
ショックを和らげ、未来に向けての展望を少しでもという、
(それは営業上の見せ掛けに過ぎない場合も多々あるだろうが)
首切宣告業。直接の上司から言わずに、他者からの宣告。
この仕事って・・・。


ネット世代の新人は、出張旅費を節約するために、
仕事をシミュレーション・マニュアル化したオペレーター処理、
主人公の出張生活は、マイル到達目前を控え風前の灯と思えたが・・・。

マイレージ、マイライフ (小学館文庫)

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マイレージ、マイライフ [DVD]

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首になった経験は無いが、毎年の人事面接は余り好きではない。
権力を握りたいと思わないわけではないが、人事は苦手だ。
人間関係と上下関係は微妙な問題を含み勝ち。
接触れずに世の中を渡っていくことは無理だが、
出来るだけすったもんだの回数を減らしたい、というのが本音。
しかし、仕事上、相手に駄目出しをせずに過ごすなんてありえない。


いきなり目の前の相手から「君はこの職場に居場所が無くなった」
「ここでは不要な人物になったから、別の場所を探したまえ」
なんて面と向かって言われた暁には・・・気分悪かろうなあ。


何を持って不必要と判断されたのか、
誰と比較して、どんな理由で、
納得いくまで説明して欲しいと思うだろうか、
それとも問いただす気力も失せて頭の中が真っ白に?
まさか、黙って泣きながら帰ってそのまま自殺?
暗い怒りに燃えて帰宅して、暗闇で上司を待ち伏せ
・・・それはともかくとして、
映画の中でリストラ宣告請負会社が怯えていたのは、
失業者となった元社員がどのような行動に出るか。


家庭、収入、家族、自尊心、遣り甲斐や生き甲斐を、
人生のあらかたの部分をつぎ込んできた仕事や職場に裏切られる。
今までと同じように明日を迎える事が出来ると思っていたのに、
失業保険が切れるまでびくびくしながら生活する。
貯金やローン、子どもの進学、医療費、老後資金、
安定した生活の基盤が音を立てて崩れ、これから先どうしたらいいのか。


思い悩む人間を目の当たりにした新人女性は、
リストラがシミュレーションで解決できる、即物的なものでは無いと気付く。
主人公自身も新人指導とアバンチュールを楽しむ中で、
姉の別居問題、妹の結婚式に出席するうちに、
落ち着いた暖かい居場所を求める気持ちが、自分に芽生えたことに気付く。
しかし、自分が今までの信念を翻して行動した時に、
アバンチュールの相手には子供も家庭もあったとわかり・・・。
そう、何かが欲しいと望んだ時に得られない。


バックパック一つに詰められるものは何か?
一人でも寂しくない身軽な、行動力に満ちた、転石苔むさずの人生?
人は何時までも若いままではいられない。元気で、快活で、
活動的で、社交的な、心身ともに健康で経済的にも恵まれた、
そんな人生なかなか送れるものではない。
マイルを溜めて、そしてエグゼクティブになる。
それは他人が自分をどう遇してくれるか、目に見える形で知りたい。
認めてもらいたい心の裏返し。


マイレージを貯める。ポイントを貯める。
そして、それは何のため?
そのマイレージを何に使う? 
映画の最後、自分の貯めたマイレージを、
妹夫婦の新婚旅行の為に譲る場面が、心ほのぼのとするものの、
彼自身が使うことなく貯めてきただけたと思うと、物哀しい。
そう、出張で使ってきた自分自身の時間、労働報酬、
それは何のために誰のために使うべきものだったのか。


「貯める」のはよりよく使う為だったはずなのに、
貯めるだけの人生、貯めるだけが人生の目的になっている。
そんなことは・・・世間ではよくある。
目的達成のために手段を選ばなかったり、
周囲が見えなくなり、何が必要か全くわからなくなったり、
ただ組織の使い勝手のいいコマにされてしまっているのを、
意識したくない余りに、仕事中毒になってしまう。
定年退職後は、燃え尽きて存在価値がなくなってしまいそうな、
そんな人生。


医療費でマイレージが貯まるなら・・・。しかしそれは妄想の世界。
そんなもの、たまらない方が良いに決まっている。
健康で誰も医者に掛からず、よく見える目、匂いのわかる鼻、
味わう事のできる口と舌、しっかり噛める歯、痛みの無い体、
1千万マイル貯めるよりも、自然のままの自分の体、
ありのままの健康体が欲しい。
むやみに人の手の入らぬ、加わらぬ自分の手足、体が。
ストレスになるほどのメンテナンスが必要よりも、
当たり前の普通の自然な・・・。


主人公のように、スマートで粋な生活を送っているわけではない。
そのエグゼクティブなやり手が、手に入れたくても入れられない、
そんな物を持っている、と思う。
健康はともかくとして、娘、夫、家庭。
1千万マイルでは買えない自分の大切なもの。
それは、鞄一つに入れて運べる物ではないが。
本日映画と映画の谷間の歯医者。
コララインからマイレージまで、
ボタンの魔女からマイライフまで、
色々考えさせられた、弥生も最後の金曜日。

マイレージ、マイライフ オリジナル・サウンドトラック

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Up in the Air (Movie Tie-in Edition)

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