『アリス・イン・ワンダーランド』
『アリス・イン・ワンダーランド』を見る。
今週中に見に行かないと、近所の上映が終わってしまう。
久々のレイトショー。
ジョニー・デップの21世紀版『シザー・ハンズ』とでも言えばいいか。
人造人間の時は愛する人を両手で抱きしめる手が無かった。
今回もラストシーンで「ここに残れよ」なんて囁く事ができただけで、
結局、アリスを自分のそばに引き止めることはできなかった。
寂しそうな哀しそうな何ともいえない複雑な顔、
白塗り隈取りメーキャップしているからこそ誇張される顔。
やるせない表情をさせれば、天下一品のジョニー・デップ。
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久しぶりにワンダーランド(アンダーランド)にやってきたアリスは、
みんなのことを覚えてはいない。おまけに、再会を楽しむお茶会の時間も無い。
この世界の「救世主」たるべく運命付けられたアリスを、
追っ手から隠すためにあっという間に縮み薬で小さくさせる帽子屋。
アリスにとってはわけのわからないことだらけ。
自分の意思も何もかも通らないまま、何が起こるのだか・・・という展開。
『シザー・ハンズ』の時も、びっくりするほどの器用さで鋏を操っていた。
そういう役どころゆえに、またもてはやされ利用される哀れさも引き立ったのだが、
今回も同様、帽子屋としての腕前を駆使して器用に小さなアリス用服も鮮やかに作る。
そんな役柄のジョニー・デップの帽子屋。
小さ過ぎるアリスをティーポットに隠しつつ、必死に守ろうとする。
けれども、やはり直接抱きしめることはできない。
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小さなアリスを帽子に載せて旅をする。
もしくはでかすぎるアリスを仰ぎ見る。
アリスを逃すためにわざと捕まる。拷問にも耐える。
アリスに誰よりも執着し、愛し、大切に思っている帽子屋、ハッター。
器用で、白の女王様御用達、お抱えの帽子職人・・・というが、
白の女王は、帽子なんぞ被るような髪型ではない。
誰も必要としないほどの明るさで光り輝いている。
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帽子職人は誰に帽子を作っていたんだろう?
素朴な疑問。宮廷の人々?
ファッション、流行、おしゃれ、権力への憧れ、追随、模倣、仮装。
帽子屋は本当は誰に憧れているのだろう。
適わぬ恋を夢見ているのは、本当の自分を殺しているのは誰なのだろう?
エキセントリックであろうとするのは、正気で直視できない現実があるから。
そんなキャラクターを演じるのに、ジョニー・デップはうってつけかもしれない。
お互いがお互いの半身であるというのに、いがみ続ける姉妹。
姉と同じ権力への欲望、DNAを持ち続けている妹。
そのことに嫌悪しつつ押し隠し、高潔であろうとする恐ろしさ。
愛されること美しいことを当然として受け入れている隠れた高慢。
畸形であること、自分の周りに本当の愛がないこと、
両親の愛は妹へ注がれていたこと、
ひがみねじくれた思考と嗜好が渾然と一体になり、
ヒステリックに権力に固執する赤の女王。
無垢であろうとすることも、またひとつの畸形なのだと感じさせる、
禍々しい白さを放つ、白の女王。
ファンタジーの中に織り込まれた現実の人間関係、
現実の世界から解き放たれた妄想、あるいは空想、あるいは逃避。
19歳のアリスは思春期の迷いを抜け出そうと行動をするが、
常に「私にはできない」「私は違うアリス」と叫び続けている。
小さくなったり大きくなったり、自分の心、勇気の度合い、
好奇心や興味で変化する自分のエネルギーをもてあましながら、
夢の中でファンタジーの中で、本当の自分探しをするのは、
箱庭やコラージュを駆使しながら繰り広げられる心理療法、
カウンセリングの世界に似ている。
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混沌とした世界で、死と再生を繰り返し、
自分を創りあげる物語。終わりと始まりを繰り返し、
本当の自分も違う自分も新しい自分も死んでいく自分も、
生まれ変わるだろう自分も、これからの自分も、」
全て自分だということを再確認していく旅。
それを、ひとつの具象として描いたに過ぎない、
今回の『アリス・イン・ワンダーランド』。
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監督が妻と友人を映画に出したかったといえば、みもふたも無い。
そうかな、創造の、インスピレーションの、創作意欲の、
共同戦線の向こうにある人間関係、エネルギーの源なんてそんなもの。
誰かといたい、仕事したい、ともに充実感を味わいたい、
その場に一緒にいたい、過ごしたい。
その観点から言えば、仕事への創作意欲と個人的な興味関心が、
離れ過ぎていないのは、労力としては経済効率的に良好。
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アリスがどんな人生を送るかって?
この物語が書かれた時代、女性に活躍の場は少なかった。
二律背反の清らかで毒々しい時代、爛熟期のイギリス。
そこで、アリスはアリスらしく老いていくことができるかどうか。
老いるアリスを周囲が観たいと望むか。
アリスは永遠に冒険し続ける乙女心の象徴のように存在する。
たまたま今回は、アリスよりも帽子屋に焦点が当たっているけれど、
役者の力量からすれば、仕方の無いこと。
3Dの映画にする必要は無かっただろうと思う。
実験的な試みが製作過程に必要ならば、それもよし。
本来のアリスの物語を知らない人には、もったいな過ぎる。
寓意や寓話の楽しさを知らない人には、空疎なゲームにしか見えない。
そんなアリス関連の作品に、3Dを持ち込んだとて何になろう。
そんな気もしながら、映画館を後にする。
もう2度と若返ることのできない自分、
もう2度と帽子屋のような人間に会うこともできない自分、
そんな老いてしまった自分を再確認しながら。
現実の映像よりも奥深い、心の中の世界に、
自分だけのアリスを、ワンダーランドを求めることを、
強く再認識した夜。
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