Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

ビタミンF

ビタミンA、カロチン、色の濃い野菜。にんじん、かぼちゃ。
ビタミンB、神経系統に作用する。整形外科のイメージ。
ビタミンC、レモン、果物、お肌にいいもの。
ビタミンD、骨を作る、カルシウム関連。
ビタミンE、お肌の潤い、血行促進。
ざっとそんなイメージ。けれども、ビタミンFって?


仕事絡みで知った『ビタミンF』を読んでいる。
何を今更と思われる方も。そう、確かに有名作だし。
ひねくれものの私は賞を取った作品を敬遠する傾向がある。
ほとぼりが醒めてからゆっくり読むことの方が多い。
題名は人目を引くので覚えていたものの、
そのみんなから覚えられやすいネーミングのあざとさが、
どうしても心に引っかかってしまう、私。


確かにいい作品が集まった短編集かもしれない。
でも、読み辛い。どうしても自分の生活、子ども時代、仕事内容、
様々な部分、リアルタイムな部分も過去も未来も重なっていて、
リンクしていて、実に悩ましい。
仕事柄、仕事に関係する話には近づきたくない。
本を読むときは別世界にいたい。そういう本能で避けていた短編集。
そして仕事絡みで読む羽目になった今回。
やっぱり「この手の話」でしたか。予感的中。
だから周囲の評判もあって無意識に避けていたのだと、
自分の「直感」は正しかったのだと、(情けなくも)思ってしまう。


親の立場、子の立場。
有名なアニメで「真実は一つ」なんて言っていたような気がする。
それはある側面から見れば一つかもしれない。
切り口を変えれば真実は複数だ。
親の目から見れば、この立場からすれば、他人から客観的に判断すれば、
それぞれの言い分・見方・感じ方があるので、一様に括る事は難しい。
カッコよく「真実は常に一つ」なんて言い切って
カメラ目線でにっこり笑うことなんてことは、日常生活では出来ない。


そんなことをしみじみ感じさせてくれる、
切ない思いが広がって、解決の出口が無いのを、
NHKのドラマのようにご想像にお任せしますの手法、
曖昧模糊の中にそれぞれの自己努力と可能範囲で解決策を感じ取って下さいと、
読み手の感性を試されるようなそれぞれの結末。
自分の生活の触れられたくない部分にいきなり触られたような、
苦みばしった現実の生活を、文字上で実感させられる『ビタミンF』の世界。


お互いのことを思うがゆえに本音で話せない。
本音で話せば傷つけあうことがわかっているから話せない。
愛憎を分かち合った間柄、血を分けた間柄だからこそ、
はっきりさせたいこと、許せないこと、わかりたくないこと、
出来れば知りたくなかった事柄に愕然とさせられる。
相手を思う真心がさらに相手をえぐる。
人間関係の綾、引き際、腐れ縁、察し、労わり、かんぐり、諦観。

ビタミンF (新潮文庫)

ビタミンF (新潮文庫)

エイジ (新潮文庫)

エイジ (新潮文庫)



『ビタミンF』のキーワードは七つ。
Family、Father、Friend、Fight、Fragile、Fortune、Fiction。
いかにも、という感じの含みを持ったビタミンFたち。
確かにどれもキーワードになりうる存在感。
今の私には最も大切なFamily。大事であるがゆえに重たい。
Father、父親であること、父として存在していること、父性、
Friend、友人、親友、大切ではあるけれど、大人となった今、
どこか遠い存在。非日常的な感覚。


Fight、心の中にくすぶっている思いは、現状打破のための戦い、
Fragile、私の世代では「こわれもの」と訳すのが自然。
Fortune、クッキーの中に入っているのは幸運? 不運?
このキーワードはFutuerのFだという説も。どっちでも。
未来を開くのは、ほんのちょっとした運かもしれないから。
でも、私にはこの話はビタミンのように効くというより、
少し憂鬱。


そして、小説そのものは架空の物語、だからFiction。
しかし、読み手である私たちが限りなく近づくことの出来ない、その世界。
現実を写し取りながら、現実よりもリアルに心の中を描き出す、その世界。
故に却って受け入れがたい現実のようなリアルな架空の世界。
逆に現実よりも受け入れやすい架空の世界だったりする。


仕事で、仕事を離れ、苛立ちの中。純粋に読書活動ではなく、
チェックし、分析し、必要な部分を細くする作業の中で、
切り刻まれるようにして読まれる作品の一つ。
沢山の話の中の一つに、一つの作品とつながる周囲に、
自分の生活を、足場を、環境を、繋がりを、あれこれ全てを、
投影して、ため息をつく。


こんな読み方が、私の心のどんな滋養になるというのか。
『ビタミンF』の世界。
短編集の題名からして、効くのか効かないのか。
私の心に、私の心に。
ビタミン、F。私にとってはFuanのF。不安のF。
FumanのF。不満のF。
F? H? ビタミンF? ビタミンH? 
イズレニシテモ、生活に何かが欠けている、そんな中での読書。
効き目ははてな

ビタミンF

ビタミンF

流星ワゴン (講談社文庫)

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