Festina Lente2

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心は余震の円の上

その時、会議中だった私は船酔いのように気分が悪くなった。
無駄だと思える、徒労としか思えない、時間の浪費、
会議、会議、会議にうんざりしていた。
血圧が上がり眩暈がする、ちょっと半端じゃなく気分が悪い。
そう感じていたら、みんな眩暈を感じて気分が悪いと口々に言い出した。
それが、職場で感じた地震の最初だった。
揺れているというよりも、眩暈から始まる、
自分自身が静かに崩れ落ちていくような感覚が走った、
その瞬間、大変なことが起こりつつあった。


地震のことをビジュアルにあらわしている地図があった。
何も知らなければ、様々な色の円が消えては現れる。
何だかモダンアートのように見える浮かんでは消える円の数々。
でも、実際は、日本が揺れて揺さぶられて、
日本列島全体が眩暈を起こしているような、
そんな様子を映像化している地図だった。
http://www.japanquakemap.com


しばらくしていると、地図の時計がその時間に近づいてくる。
そして、その後は一体どれほどの円が描かれているのだろう。
日本が東北を中心によろめいた、眩暈を感じて手を突いた、
そして、もっと大きな円が運んできた波が、
その幾多の円によって増幅された余波と共に、
多くの人々が暮らす土地を何度も揺さぶり倒し、押し流し、
悉く奪い去っていってしまった。

不安の概念 (岩波文庫)

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とにかくやってみよう──不安や迷いが自信と行動に変わる思考法

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この余震が続いていた時、私は連絡が付かない田舎を不安に思いつつ、
知り合いの出る舞台の招待券を片手に、娘と久しぶりに出掛けていた。
お彼岸を10日後に控えたこの寺院は、大阪の草の根文化を応援、
若者に演劇スペースを提供し続けている。


 


半年に一度はそのアマチュア舞台の熱気を覗きに訪れていた。
それは、10年以上経っても繋がりを持ってくれる、
本当に貴重な舞台人と観客との付き合い。
純粋に演劇を楽しむ、その日を心から楽しんでいいのかどうか、
複雑な思いで過ごしていた先週の12日。



それはニュースを聞いて映像を見て、何も出来ないと、
近づけず、連絡も取れず、何も出来ないと、
思わず開き直ってしまったかのような、外出だったけれど、
その後の1週間は、仕事と父祖の地の惨状に
心引き裂かれる思いだった。
あれから1週間以上経って、ようやくその時の写真を見てみた。



娘と二人で裏寂れたドイツ料理を出すバーで食事を取り、
小さな神社でお参りし、いつもと変わりない町の景色、
普段立ち寄らない美術画廊で、白黒の樹木が立ち並ぶ写真展を眺め、
夕闇の散歩を経て、帰宅した。


その後、1週間余り前から、
世界は天変地異の様相を呈して、日常を解体してしまった。


それでも、私は被災者ではない。
安全な日常を送っている。このギャップ。


舞台の中は非現実的な世界、日常を忘れる世界だったはずなのに、
この舞台以降、見聞きすることは悉く、非日常、
現実にはあり得なかったことにして欲しいことばかりだった。
どこまでが現実でどこまでが悪夢なのか境目の無い。
そんなこんなで、連休だといわれても現実感が無く、
今日は久しぶりにどこにも出掛けずに家に居る。
仕事も無く何もせず、ボーっと、じっとしていたい。
そんな気持ちのまま。

メンデルスゾーン:無言歌集(全48曲)

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老子の無言

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