Festina Lente2

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ストライダーへの憧れ

「最初の一歩」という遊びをご存知?
そうそう、あの、幼稚園や小学校でよくやる。
最初の一歩、の掛け声で思い思いに動いて前進。
鬼は1から10まで数えて振り向く。
その瞬間に動いて、鬼に指摘された人はアウト。
鬼に繋がれてしまう。指と指で。
上手に前進した人が、鬼に繋がれている人を助けるため、
近づく、繋いだ指を切る、逃げる一歩手前。
この遊び、今でも結構生き延びているらしく、
娘のDS「友達コレクション」の中にもあった。


あの最初の一歩。少ししか動かない人、大きく動く人。
鬼に「でん」する楽しさ。目標に少しずつ近づくスリル。
最初の一歩を大きく踏み出すか小さく踏み出すか。
計画、作戦、性格が現れる一瞬。
最初の一歩。そしてその次に踏み出す一歩。
一歩の連続が歩みとなり、歩幅の違いが進む距離の違いとなり、
どこに一歩踏み出すかが方向の差となる。
今から思えば、奥の深い一歩であったなあなどとしみじみ。


仕事を進める上で、時間のある時にどんどん進めておかないと、
先を見越してやっておかなければならないことと、
直近でないとできないことと、物事の性格上一気に片を付けるもの、
時間を掛けて丁寧に緻密に積み上げていくもの、
予定とにらめっこしながら、計画的に進めていくもの、
様々な方向性を持つ仕事を同時進行しなければならないわけで、
あれもこれも行わなくてはならないのが仕事。
一つ一つ片を付けてとか言うが、そうならない、出来ない場合も多い。
切りのいい所まで一気に進みたいと思っても、思い通りになるとは限らない。


忍の一字。黙々と歩み続けなくてはならない。
そんな時、私は思い出す。ひたすら荒野を歩き続けるストライダーを。Strider・・・日本語では「馳夫(はせお)」と訳されていた。
大学時代に読んだ『指輪物語』のアラゴルンの別名。
今でこそストライドという単語は日常会話でも出てくるけれど、
当時は珍しい単語で、陸上関係の用語か何か? 
そんな感じで受け止めていた英単語だった、ストライド


馳せる。思いを馳せる。馳せ参じる。古めかしいイメージ。
指輪物語』を訳したのは、外国文学をいかに子供にわかりやすく、
イメージとして持たせるか苦心惨憺した瀬田貞二
トールキンの意向を受けて、各国の言葉に意訳。
ストライダー、Striderは「馳夫(はせお)」となった。
他の人々の名前がどのように訳されていたか、
日本語訳を読んだ後、原文を斜め読みして余り記憶に残っていない。
アラゴルン、彼だけがその役柄といい使命といい、運命といい、
「馳夫(はせお)」にふさわしいように思えてならなかった。

文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)

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指輪物語 第1部 旅の仲間

指輪物語 第1部 旅の仲間


自分の心の中に、思春期後期の自分の心の中に、
彼のような人に傍にいて欲しい。
彼のような人物に慕われるような、そんな自分でありたい。
そういう夢想が広がっていたに違いない。
また、自分自身がストライダーを化して、使命を帯び、
耐えがたきを耐え忍び難きを忍ぶ、余りにも渋い生き方、
人生そのものに、わけも分からず心酔、憧れる年頃だったからだろう。


それでも、仕事が忙しく息切れしそうな、
背負わされ任され、体よく押し付けられ、うんざりしながらも、
なけなしのプライドと使命感でえっちらおっちら、
一瞬で投げ捨てられるもののために、長期間掛けて準備し、
或いは東奔西走して取り揃え、一つの資料に纏め上げ、
その甲斐なく死者累々の惨状の如く投げ捨てられていく、
仕事の僅かの隙間、一部、断片にかかずらわっている。
そんな仕事人としての徒労を思う時、
ストライダー、Striderとしての在り方、生き方を思い出す。


人間としての人生。報われぬ時間の長さ、報われる当ての無さと
やりきれなさを打ち消しつつ、邁進する信念の強さ、凄烈さ、
理想として追い求める世界、愛する人、自分の在り方。
そういうものを思い出す。
馳せ参じるのは、何のためなのか。
この一歩、日々の取るに足らぬ一歩に執着しつつ、
歩き続けるのは何のためか。


心の一歩。精神力で計る距離の一歩。最初の一歩。
どこにどんな風にどれだけ足を伸ばせばいいのか。
現実には、足底筋膜炎で痛む足を引きずりつつ、
見た目よりも足を支える力優先の無骨なスニーカーに足底板を入れ、
歩きたい方向、距離、目標、理想を思い定めつつ、
時には心身の痛みに耐えかね、気は心と思いつつ落ち込み、
体の不調に引きずられ、進歩のかけらも無い自分にうんざりし、
大人になり年を取るとは諦観上手になることと、
納得せざるを得ないこと多く、それでも、まだ夢見る。


新しいことがやりたい。
新しいことを始めたい。
まだ見ぬ新しい方向に向かいたい。
最初の一歩を踏み出したい。
そんな風に思う時、心の中にいつも思い浮かぶ。
歳月をものともせず、歩き続ける存在。
彼方へ彼方へ。
その一歩を、踏み出す、踏み出し続ける強さを持つ人。
Strider。


自分のストライドを、一歩を思う。
梅雨の晴れ間のひと時。

The Fellowship of the Ring: The Lord of the Rings: Part One

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