Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

『サンクタム』

これは悪い映画ではないが、後味が凄くいい・・・訳でもない。
極限下における人間性の追求、
タフなドラマなので残酷なことこの上ない。
自然相手に人間が出来ることは知れているから。
そこでどうあがいてもどうしようもない、
けれども誠心誠意出来るだけのことをしようと思えば、
「冷徹」にしか受け取られかねないことでも、しなければ仕方がない。


正直言って最初は寝かけた。本題に入るまでが少々冗長。
親子の葛藤も、スポンサーの我が儘も、大事な伏線があるのだが、
背景が洞窟の中だから世界が単調に見えて仕方がない。
それが、究極の場面に変化していくきっかけは、事故。
色んな小さな偶然が重なって、不幸な避けがたい事故に繋がるのだが、
そのきっかけを作ったのは誰かという詮索、原因探しの枠を超えて、
物語は広がり始める。
そこに、その場に集う人間関係が露骨に浮かび上がってくる。


探索途中、水の中でのパートナーの事故死。
外で吹き荒れる台風。外部との連絡の遮断。
上昇する水面、脱出に失敗し地下に閉じ込められるメンバー。
限られた明かりと食料、次々に失われるメンバー。
生存を駆けたサバイバルには脱落者が付きものとはいえ、
心優しき人間が真っ先に犠牲になり、
自ら足手まといにならぬよう姿を隠し、
チームの負担にならないよう画面から消えていく。


凄惨なのは、瀕死の人間を楽にする場面。
それは、後々の伏線にもなるのだが、
疎遠・反目の関係にあって、目の前の出来事だけが
親子の絆を繋ぎ直し、再生させる状況と裏表になっている設定。
リーダーである父親の決断・判断・行動力が、息子を生かす活力。
最終的には理解し合えても、時、既に遅しの感が強かったが。


最後に悪役となり、自分だけが助かろうとする人間の末路。
我が儘や見栄、権力や財力は究極の場面では役に立たない。
装備も心構えも技術もなく、興味本位で訪れた人間。
立ちはだかる自然の恐ろしさ。
美しさと同時に余りにも冷徹で峻酷な地下世界。
日の目を見ぬ世界の、人慣れせぬ世界の手ごわさ。
いまだ人間に犯されぬ世界の、底知れぬ美しさと恐ろしさ。


そこに映し出される人間ドラマにさすがに眠気はぶっ飛んだ。
残念ながら、3Dだからとこその迫力を感じ取れたかどうか。
画面がどうこうというよりは、やはり、自然と人間の対比、
サバイバルの状況が焦点だったろう。
生き抜くこと、あらゆる希望がそがれて解決策が見つからず、
模索する中で、どのように行動するか。


最後まで諦めないこと、究極の選択を迫られ、
生きるために非情になること。
困難が増すにつれて輝きを増す父親の姿と、逆に、
地上では役に立ったものも全てはぎとられ、失い、
無力になって自暴自棄になっていく者と。
「唯一の目的」のために、どこまで必死になれるか。
その凄まじさを描き出しているところがスゴイ。


実際、小さい子供に見せるには恐ろしい画面が続く。
ハッピーエンドとは言えない、ラストまでは息が詰まる。
(『アビス』のようなハッピーエンドは用意されていない)
生きるために何を犠牲にし、何を選択するか。
自然に向き合うとき、人はその冒険心を持ちつつも、
どこまで謙虚に、敬意を払いつつ、冷静に行動できるか。
今までの経験だけですべてを把握できるわけではない、
その状況にどうやって立ち向かっていくか。


久しぶりに厳しい気持ちで映画館を出る。
仕事の山場の後の翌日、気分転換のつもりの時間。
それどころか、ここまで悲惨ではなくても、
いろいろ引きずってきた思いが余計に重くなってしまったような、
そんな鑑賞後のしんどさに、悪い映画ではないけれど、
お勧めしたい気分にはなれない作品、『サンクタム』。
題名は美しいが、聖域に至る者は死を覚悟したもののみ。
そういうことなのだろうか。


神の前に頭を垂れる、自然に敬意を表す、
己が力を誇らず、試されることを厭わず、
ただただ生きることに必死になる者だけが許される聖域、
サンクタム(Sanctum)。


怖い映画だった。
命の母なる水は、大地は、生み出すと同時に奪うものだと、
改めて実感させられた。
震災後の日本のトラウマを、別の形でえぐるような。
そう思わせる映画だった、私にとっては。
地上の聖域は、二度と戻らぬ故郷の、かつての姿。
崩れ去り押し流された彼方。
そう感じさせる映画だった。

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