Festina Lente2

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さよなら「もこもこもこ」

ふと気付くと、彼の訃報から1週間経っていたのだった。
(お亡くなりになったのは、3日。享年88才)
仕事の合間、明日一日乗り越えれば週末だ、などと思っていた、
そんな心の隙間。先週の新聞の整理をしながら、
ああ、そうだった、そうなのだったのだと。


もこもこもこ (ぽっぽライブラリ みるみる絵本)

もこもこもこ (ぽっぽライブラリ みるみる絵本)


その人の本は我が娘の涎と手垢にややまみれたものの、
天使のような笑顔を見たいがために、何度も何度も読んだ本。
せがまれなくても、「もこもこもこ」という表紙を見ただけで、
「もこもこもこ」と口に出すだけで、我が家の今は笑いに満ちて、
ああ、子育てってなんて楽しいんだ。
絵本を読むってなんて楽しいんだと、親としてのひとときを
しみじみ味わった、その頃の最も思い出深き1冊。


音の響き、色彩、意味が確かなものでなくても、
様々なものを連想させる豊かな広がりを持つ。
感性を伸ばすための柔らかな発想の世界。
この絵本の読み方は、朗読の仕方は、きっと親の感性を、
読み手の感性を刺激し、聞き手の子どもの、
共に自らの読みを聞く大人の、その心を、脳髄を刺激し、
言うに言われぬ「もこもこもこ」とした存在、
得体の知れぬ何かが心の中に芽吹き、育ち、
果てしなく伸びていったかと思うと、はじけ散るような、
そんな、誕生と成長、死と再生の物語を感じ取ることだろう。


というわけで、我が家では絵本のバイブルのような、
『もこもこもこ』の作者、元永定正氏が亡くなられてから1週間。
心の中で、頭の片隅で、また一つ至福の幼年期の思い出が、
娘と過ごした、母となり親となった日々の、
徳島で過ごした海辺の社宅の日々の、絵本に埋もれた思い出が、
一頁ちぎり取られて、秋の風に舞い散った。
そんな思いさえする、この1週間。


さよなら「もこもこもこ」。でも、さよならじゃないよ。
いつもいつの時でも、この本を読んだ日のこと、読んだ時間、
読み聞かせたあの日あの頃の思い出、娘が字が読めるようになり、
さっぱり絵本などに見向きもしなくなった、その後。
私の絵脂は、ずっとこの絵本がある。
どうして忘れ去ることが出来よう。
どうして捨ててしまったり、直してしまうなんて出来よう。


よしんばよし、この本を失ったとしても、
私の心からわき出るような思い、思い出、感性溢れる泉、
何かしら触発される思いで繰り返し読んだ、
この絵本のことは、絶対失われることはない。
永遠に永遠に。
もこもこもこ。

ココロのヒカリ (みるみる絵本)

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もけら もけら (日本傑作絵本シリーズ)

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