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娘と『ホビット』を見る

ホビット
この言葉を懐かしいと思う向きは、世界中に増えているのだろうか。
指輪物語』ではなくて、『ロード・オブ・ザ・リング』という名称で、
全世界に知れ渡った有名な一大叙事詩とも言えるファンタジーは、
まだまだ記憶に新しいだろうか。
だからこそ、『ホビット』は待望作であり、画面の懐かしい顔ぶれと、
お馴染みの景色、もう一度聴きたかったメロディと共に、
繰り広げられる「中つ国」の世界に浸りに来る人は多いと思うのだが、
私の周囲ではこの映画について話が出来る人がいない。


この映画が公開される前に、もう一度復習として読んでおこうと
本棚を探してすぐに出てくる所が「我ながらさすが」なのだが、
読む時間を確保できなかったというか、
じっくり読み直したら、若かりし頃とどれほど印象が違うか、
この世界・・・というのが、知りたいような知りたくないような。


お懐かしいイライジャ・ウッドのフロドが出てくる所も、
あの誕生日の日のシーンに繋げて、物語を作る心憎さ。
ファンはすぐさま「この世界」に心を馳せることが出来る。
魔法使い、ガンダルフ、エルフの王、女王、そして、ゴラムことゴクリ。
美しく気高い存在とその対極にあるものもまた、再び。


今回の主役達、ドワーフがいささかかっこよすぎるのだけれど、
この世界の住人達は命を落とさない限り、実に長命なようで、
ある意味羨ましく、いやいや、その勇ましさとタフさによるもの、
今の時代の人間と普通に比較してはならぬとは思いつつ、
まさかのこの映画、三部作。
途中の良い所で終わってしまう。
私は分かっていたけれど、何も知らずに付き合わされた娘、
「え? どうしてこうなるの?」と驚き顔。


単純に諸悪が眠りから目を覚ます、その前哨戦。
かつての父祖の地を取り戻すための、辛く厳しい道のり。
ドワーフたちの戦いは、壮大な『指輪物語』の輝かしい幕開け、
ある意味、本論を導く華麗な仕掛け花火宜しく打ち上げられ、
繰り広げられた世界。全てはここから始まると言ってもいい。


だから、映画化されるべくしてされた、人々が待ち望んだ。
ある程度時間をおいて、かつてのファンが懐かしむべく、
新たなファンが育つのを待ち。
なかなか心憎い演出というか、創作・制作・企画側の姿勢、魂胆。
また、擬人化された、シンボライズされた存在が、
降りかかる悪、災難、厄災の全てを象徴であると分かってみると、
余りにも奥が深く、意義深い。


欲に囚われて欲が災厄を呼ぶ、ドラゴンの襲来。
火種くすぶる地下の王国。
ああ、今の政治情勢、天災・地震に脅かされる日本、
一般の人々に隠されたものがざわめく、うごめく、怪しい気配。
物語の中に限ったことでは無いじゃないか。
そんな思いに囚われる。


ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈上〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)

ホビットの冒険〈下〉 (岩波少年文庫)


トールキンってどんな人?」お、そう来ましたか。
娘よ、そういうことに興味が持てるようになったんだね。
私がこの物語を知ったのは、大学時代まで遡る。
そうだねえ・・・。
親子の会話は、かろうじて読書や映画を通じて。


緑なす世界、映画の中の美しい景色、私の心の中に広がる、
かつて旅したイギリスの景色、大学街。
そこで学究の徒であった言語学者が、複雑に入り組んだ壮大な、
余りにも壮大過ぎて迷路のような物語世界を
どのように創り上げていったのか、憧れと尊敬を抱いた、
あの頃の思いが蘇る。


娘よ、物語を紡ぐ人の背景は物語と同じくらい面白いのだよ。
そして、ガンダルフは誰にでも訪れる。
冒険は災厄にも似て突然に。
人生はそういうものだと、かーちゃんはようやく思い始めて、
納得できる年齢になってきた。
もっとも、冒険を冒険だと思わぬ人もいるけれど。


人生は見えている以上のものだし、見えていない部分も必要。
誰もが心の中にドラゴンを飼い、葛藤を昇華させるか、
黒い影として一生を脅かす存在として宿すかは、その人次第。
誰もが輝かしい心を持ち、仲間を得、旅を続け、
魔法のようなめざましい変化を遂げられる訳ではない。


娘よ、いつか君は知るだろう。
物語を紡ぐのは、自分自身だということを。
映画の中に人が入っていくのは、その片鱗を確かめに、
味わいに行くためだと。
物語を読むのは、自分と重なる部分を感じるためだと。
自分自身を更に奥深く探検する為なのだと。

映画 ホビット 思いがけない冒険 オリジナル・サウンドトラック

映画 ホビット 思いがけない冒険 オリジナル・サウンドトラック

Hobbit: An Unexpected Journey

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