Festina Lente2

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ビザンチウム

ビザンチウム」という題名にダマされた。
最初は歴史物か何かと思ったのだ、「キングダム・オブ・ヘブン」のように。
ところが何と言うことだろう、売春宿の名前が「ビザンチウム」とは。
そしてそこに巣くっているのは、吸血鬼の女性。
つまり、生き血を搾り取る場所、「ビザンチウム」ということになる。
美しい名称があんまりだと思ったけれど、主人公の少女は確かに美しい。


そう、楚々とした少女の佇まいが何とも言えない。
どうして彼女が吸血鬼なのか、何故、こんな暮らしをしているのか。
彼女は春をひさぐわけではなく、生活を維持しているのは母親。
(といっても外見は殆ど変わらない若さ)
この親子にはどんな過去があったのかという謎解きも含めて、
主人公のエレノアの切ない恋が展開する。


現代に生きる吸血鬼の、老いて死にゆく人々の孤独、苦痛、恐怖を吸い取る一瞬。
許された糧をすするエレノアの清純さと対比される、母親の悲惨な過去。
聖と俗、その二つの個性を結びつけているのは血の絆。
そして、その絆は追っ手から狩られる理由でもあり、追われる者の絆でもある。
時間から取り残されているように見えながら、そのスリリングな生活の合間に、
恋する相手が不治の病と知って、彼女に残された決断は…。


自分の娘のために吸血鬼になる人生を選ぶ母。
自分の娘を守るために、娘を吸血鬼にせざるを得なかった人生。
自分の恋人の命を守るために、相手を吸血鬼にする。
誰かの命を守るために、人間としての生き方を捨てて生きる。
ビザンチウムという古めかしい地名の中に秘められた、
そう、まるで生きることが秘技であるような吸血鬼の営み。


人はもしかしたら、理解者さえ側にいて分かち合う者があるならば、
「呪われた永き生」も耐えることが出来るのでは?
そんな思い、羨ましさにとらわれた作品。
映画そのものはゴシックホラー、ゴシックの暗い色彩の中の
繊細な青春、痛ましい切なさが前面に出ていて、
郷愁をそそられる、不思議な作品。(2016 3/06補足)