Festina Lente2

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娘の素朴な疑問

子供の知的好奇心をいかに伸ばすか。
それは周囲とのやり取りだろう。
子供にはその発達段階に応じて、あれこれと尋ねる時期がある。
指差し期、これ何? あれ何、それ何、どれ? 
これどういう意味? どんな仕掛け? どうなっているの? 
次第に質問は複雑になってくる。
親の方ものんびりは構えていられない。
なかなか答えるのに大変だ。何しろ、複雑なことを
「わかりやすくやさしく教える」のは難しい。
               


いまだに大学での講義が面白くないのは、
もともと、教えるためではないからだ。
知的好奇心のある、モチベーションの高い学生が
集まる時代でもないのに、旧態然とした独りよがりの、
専門馬鹿丸出しで悦に入っている研究者が、
とりあえず、教壇に立っているからに過ぎない。
もっともそんな人は人気が無いから、大学側の企業内努力として、
昨今、人寄せパンダ的な芸能タレント教授や講師も珍しくない。
研究者は教師ではないが、心ある人は興味を引くための
良心的な講義をする。それは純粋に人を惹きつける。


それはともかくとして、こちらは子供の疑問に答えるプロではない。
しかし我が子がかわいいから、何とかして答えようと四苦八苦する。
思うに、虐待家庭で知的発達を促すのは難しいだろう。
人の顔色を伺い、本能的に恐怖や服従を学ぶ状態、
基本的な人権を無視され続けるネグレクトで、
心身ともに栄養不足の場合、健やかな子供の成長というものは、
残念ながら親の手によって阻害されている。

              

子供社会にいじめが極端に増えて、
社会全体における、コミュニケーション不足が問われるなら、
子供に背を向け、親がケータイに夢中になり、
子育てシミュレーション、たまごっちに子供を預け、
「早く」「いそいで」「どうしてちゃんとできないの」
「しっかりしなさい」の命令形だけで育てているからだろう。


相手軸ではなくて、自分の都合で子供を動かすのだから。
そんな家庭環境、教育環境で相手を思いやる会話や姿勢を
もっとも身近な親から学ばない子供が、
外で同じことをしてきても、別に珍しくも何ともない。
無意識のうちに、親の行動パターンを模倣する。
自分がないがしろにされた分、相手に同じことをする。
相手に同じ思いを味合わせて、自分を納得させようとする。
意識的にも無意識的にも、自他ともに復讐する。


話を元に戻して。
小1の娘が色々尋ねてくる。答えに窮することも増えた。
また、テレビっ子のせいで、変に語彙が豊富だ。
今朝ちょっとつまみ食いしてから仮眠後の、朝の食卓で追及された。
「私の大事な紫蘇にんにく食べた容疑者は、おかあさん?」
おいおい、かーちゃんは容疑者かよ。どこでそんな言葉覚えてきた?
訊くと、「名探偵コナン」だという。さも、ありなん。納得。
ちなみに誰に似たのか、紫蘇にんにく、梅かつおにんにく、ちょろぎ、
もちろん梅干が大好き。(早く大きくなってママと飲みに行こう)


昨夕は地下鉄の中で、娘がリュックから取り出した学校図書
学習漫画世界の伝記「クレオパトラ古代エジプト最後の女王」を
読んでいた時のこと・・・。突然尋ねられた。
「どうして女の人が少ないの?」「ん? 何のこと?」
裏表紙をめくって娘が言った。「ほら・・・」

               
そこに並んだ日本の伝記の人名18人。人選・順番が今一つ不明。
武田信玄 織田信長 豊臣秀吉 卑弥呼 聖徳太子 紫式部 
源義経 坂本龍馬 春日局 平賀源内 徳川家康 足利義満 
源頼朝 平清盛 空海 聖武天皇 西郷隆盛 足利尊氏 
・・・女性、僅かに3人。おまけに、この人選でいいのか?


「納言ちゃんやコマチちゃんは、どうしていないの?」
漫画「枕草子」好きの娘は、定子ちゃんと仲のいい
(清少)納言ちゃんがお気に入り。
コマチちゃんは「おじゃる丸」に出てくる女の子だが、
まあ、小野小町も娘の頭の中では有名人らしい。
「ねえ、他に有名な女の人はいないの?」

学習漫画 日本の伝記 卑弥呼 邪馬台国のなぞの女王

学習漫画 日本の伝記 卑弥呼 邪馬台国のなぞの女王

マザー・テレサ―貧しい人のために生涯をささげる聖女 (学習漫画 世界の伝記)

マザー・テレサ―貧しい人のために生涯をささげる聖女 (学習漫画 世界の伝記)



「えーとね、昔の女の人は、親子兄弟、夫、恋人以外に
本名を教えなかったの。だから、いろんなことをしても
記録に残っていないから、本に書けないんだと思うよ。」
しかし、娘は納得しない。
「どうして名前を教えちゃ駄目なの?」
「どうして、男の人の記録は書いてもいいの?」
「女の人はどんな活躍をしたの?」えーとえーとですね、・・・。


「千代はどうなの? テレビでやっているよ。名前もあるよ。」
しまった・・・。テレビっ子の娘はNHK功名が辻」が好きだ。
今日も最終回の再放送を見ているくらいだ。本放送を見ているくせに。
千代と一豊のラブストーリー兼夫唱婦随、
            いや、もとい、婦唱夫随!?
のお陰で、「淀君」や「北の政所・ねね」も覚えた娘。
そう、確かに、この時代の女性の名前は残っているよねえ。

新装版 功名が辻 (1) (文春文庫)

新装版 功名が辻 (1) (文春文庫)


ご存知の方も多いだろうが、ジェンダーフリーの勉強会・研修会で、
よくあるワークに「歴史上の人物の中で女性を挙げる」というもの。
そう、学習漫画だろうが歴史の教科書だろうが、
無意識のうちに社会的性差を、子供の頃から刷り込まれている。
思い出せる女性は少ない。習ってないし記録も少ない、本も無い。
素朴な知的好奇心は、ジェンダーフリーを知らなくても、
書かれた人名から「疑問」を自発的に生み出している。
これは凄い、そして恐ろしい。そして情けない。
・・・きちんと答えられない自分自身が。


そう、私はジェンダーフリー教育を知らない世代。
社会的性差当たり前の世代。「ジェンダー」というものを知識として、
「後付け」でセットした世代である。
しかし、男女混合名簿で育ち、性差を意識することの少ない今の年齢で、
彼女は疑問を母親に投げかけてきた。
これは、母親の私にとっては衝撃である。
             


ちなみに、この出版社の学習漫画「世界の伝記」39人中、
女性は、ヘレン・ケラー ナイチンゲール キュリー夫人 
マリー・アントアネット クララ・シューマン アンネ・フランク 
マザー・テレサ クレオパトラ ジャンヌ・ダルク  
アガサ・クリスティー モンゴメリ マリー・ローランサン 
ジョイ・アダムソン 13人である。3分の1が女性。
活躍は多岐に渡るものの、この人選は・・・?
しかし、日本の伝記の女性は僅か3人。全体の6分の1だ。
世界の伝記がこの人選なら、日本の伝記だって、余裕。
まだまだ女性を取り上げることは可能だと思うが・・・。


全く見事な知的刷り込み技術。 さすが、愛国心やボランティアを
教育改悪法に盛り込もうとするだけのことはある。
履修問題に口出しして沙汰しても、入試改革に手をつけることはせず、
弱者切捨てで、自主独立を促す建前だけは立派な、増税と非福祉国家
夫婦別姓問題は消し去っても、復党はあっさり呑む党内離婚政党。
産婦人科絶滅寸前の少子化社会を担っているだけのことはある。
この隠れたカリキュラム。


はっと気づかされる瞬間。負うた子に教えられる。
娘の読む漫画の1ページの人名から、考えさせられる。
娘よ、君の生きていく未来の為に、かーちゃんは何ができるか。