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マリー・アントワネットの首飾り

どこで怪我をしたのかわからない。
気が付いてみれば半袖の左腕には、30cm以上の蚯蚓腫れ。
どこで引っ掛けてきたのか、血が滲むほど何本も痕があるのに、
とんと記憶が無い。1日の終わりになって痛み出した。
研修から帰宅したら日付が変わる直前。
ぼーっとして夜食ならぬ、間食。


BS深夜の洋画劇場で始まったものは、
ベルサイユの薔薇」リアルタイム世代には懐かしい、
マリー・アントワネット関連もの。
今、DVDになったばかりの思春期の少女、等身大
マリー・アントワネット」とは全く視点が違う作品。


王制に泥を塗り、王家滅亡の引き金を引いた大事件。
フランス革命の一端を担った、「王妃の首飾り事件」の
首謀者、ジャンヌ・ド・ラ・モットが、
バロア家の血筋を背景に「主人公を張る」物語構成だ。
歴史サスペンスというよりも、誰に力点を置いて
時代の真実を心的事実に染め上げるか。
回想する形で語り手をナレーターにして、
お決まりのサンドイッチ形式、回想とその後。


ジャンヌ役を見て驚いた。
何故って、細身に仕立てているけれど
あの名作「ミリオン・ダラー・ベイビー」で
アカデミーを取ったヒラリー・スワンクだったから。
映画ではボクサーとして、いかつい雰囲気、地味な服装、
だからこそかえって切ない女性らしさが漂っていた。
それとは異なり、没落貴族の末裔として貴婦人にして詐欺師。
失われた家名、名誉、領地、幸せな思い出を取り戻そうと
悪戦苦闘する姿を、腐敗した王侯貴族と織り混ぜて描く。
アントワネットは「添え物」として描写される映画だ。

マリー・アントワネットの首飾り [DVD]

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ミリオンダラー・ベイビー [DVD]

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マリー・アントワネット (通常版) [DVD]

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バスチーユの雪の庭で、王妃は問う。
「何故、こんなことを。私があなたに何をしたというの?」
「無視なさったからです、お声も掛けていただけなかった。
 傷つけるつもりは無かったのです」
紆余曲折を経て、裁判に掛けられたジャンヌは語る。


爵位も家名も家系も住む館も領地も両親も、名誉も奪われた。
そのジャンヌの心を思いやることのできぬ王妃は、
首飾り事件の裁判に負け、国民を無視し続け国体を傾けた、
強欲と散財の象徴として裁かれ、ギロチンの露と消える。


晒し者にされ、焼きごてを押され、脱獄後英国に渡るジャンヌ。
回想録で仇花を咲かせ敢えなく散る彼女。
「名誉は家名にあるのではなく、人の心の中にあったのです」
その人の心に思い及ぶことのできなかった王妃。
人の心を操って、満たされぬ思いを埋めようとしたジャンヌ。


鼻っ柱の強さと何とも言えぬ独特の目力を持つ、
ヒラリー・スワンクの演じる女性は、
金髪だろうがブルネットだろうが、常に報われぬ女性像。
本当に得たいものに手が届きそうで、届かない。
彼女が望むものは現世では得られぬもので、
心の中にしか求めることができない。


その人の心の中にしか、求めることができない。
目に見えぬ傷を埋めることができるものなど無く、
自分自身の中に見出すことができなければ、
永遠に手に入れることはできない。
それは、誰にとっても同じ。


人の心の中には、自分がそうありたいと思うものがある。
現実に、手に入るか入らないかは別として。
理想、夢、愛、友情、名誉、
求めすぎれば、流砂に沈みそうだ。
心の中にも砂嵐は吹き荒れる。
自分自身を見失うほどに。


砂で埋まった心の砂漠に、花を咲かせのは難しい。
あなたはオアシスを求めるのか、
自らがオアシスになるのか。
王妃の首飾りのダイヤは、夜空の星の輝き。
心の闇を照らし、きらめく。
人の欲という陽炎立つ砂漠の夜に、星は輝く。


蕭然と風が渡る。
主人公、舞台役者、歴史上の人物も去って行った後は
誰もいない砂漠に戻る。
王妃もジャンヌも、その心の中に何を抱いていたのか。
何を見出していたのか。誰にもわからない。

王妃マリー・アントワネット―青春の光と影

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ラルース図説世界史人物百科〈3〉フランス革命‐世界大戦前夜

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