Festina Lente2

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真珠とミイラ

シュールな一日。仕事、会議、整骨院、歯科、展覧会、イタメシ。
極力仕事は視野の外へ。家人に言わせれば、
品質管理不十分・不安定な、「後ろ向きの仕事をしている」状態。
ま、体調管理ができてなくて、睡眠確保難しくて。
首の動きは何とか、でも、どうしてこんなに頭が重いのか。
自分の頭を支えるのが苦痛、腕まで痺れるような気持ちの悪さ。
待ち焦がれた週末、逃げるように職場を後にする。
歯が1本割れて折れただけで、話すのにも食べるのにも支障。
気になって仕方がない。痛みも違和感も首の凝りも、頬の疲れも。


歯科大附属病院は、14:30を過ぎると他科紹介ができない。
気休めに前回レントゲンを取っていたものの、
やはり縦に入ったひび、この左下の差し歯は無効、
どうやら抜くしかないらしい。
また両端3本削り倒してブリッジ? それともお高いインプラント
とにかく削ってやり直す事に関して抵抗大。
今、何とも無い所まで新たに削って負担を掛ける訳だから。


相談しようにも他科は掛かれない。予約の取り直し。
差し歯であろうと無かろうと、神経の無い歯はミイラと同じだという。
先生曰く、神経と同時に歯に栄養を運ぶ血管が無くなると、
歯は乾燥したミイラ状態で口腔内にあるようなものらしい。
参ったねえ、この口腔内カルシウム。
保育園の歯科検診時説明会では、「歯は目に見える内臓」と習ったが、
私の歯は臓物を抜き取られた即身仏状態であったか。
五穀断ちならぬ、歯の根が揺らいで断食? 
不本意な食生活と痛みのせいで、気が滅入る。


鬱が入っている私のグレーな脳内では、もはやミイラの歯が、
カサカサに乾いて横たわっている。いや、歯のミイラが。
神経を取られて削られても痛くないが、根太が揺らぐとさすがに疼く。
点滅するのは娘の真珠のような歯。赤ん坊の頃に生えてきた乳歯、
そして今永久歯に生え揃おうとしている、生きている歯。
みずみずしい歯。ミイラではない本当の本来の歯。

歯の健康学 (岩波新書)

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17時前の都会に、歯のミイラと食生活の未来を共にする私。
私の内部にありながら、既にミイラ化している歯。
物忘れの度忘れ、肩や背中に降り積もった怒りと苛々。
嘆いてもせん無いこと、歯が自分の歯でなくなるなんて。
遅かれ早かれまた抜歯だって。
大人だから泣きたく無いけれど、泣いてしまう。
もう、歯のミイラとも共存できない状態。私の口の中。


きっとこんな風に1本、又1本と歯が減っていくに違いない。
8020運動なんて言われる度に、落ち込む。
ミイラの供養に、眼から心に麻酔をかけてしばし沈黙の時間。
帰宅途中に寄り道、一人になる癒しの時間を求めて、
17時を過ぎても開いている都会のデパート内ミュージアムへ。
中村征夫写真展「命めぐる海」〜都会の海から聖地の海へ〜

ジープ島

ジープ島

中村征夫 海中2万7000時間の旅

中村征夫 海中2万7000時間の旅


真っ青な海の中、色とりどりの珊瑚、魚、白いカモメ、砂浜。
どこまでも続く海と空の間、、ぽっかりと浮かぶ島。寝そべる犬。
スコール。生きて動く柔らかいもの達。あれは触手、イソギンチャク。
ヒトデ、カニ、サメ、コバンザメ、クマノミ、魚・魚・魚。
外国の海、日本の海。東京湾、大阪湾。青い海、ヘドロの海。


私は想像する。歯のミイラの潤いが取り戻せるような青い海の底。
私は素潜りする。心の海の中、思い出の中、真珠貝を探す。
生きている歯を見つけて、口の中に運び込めるように。
いや、真珠は真珠貝、真珠のように輝く子供の歯。
深海に煌く魚の歯、しっかりと獲物を捕らえる歯。


自然界、海の底で歯がない、それは捕食活動停止状態。
身を守る為に、生きて行く為に歯は必要。
魚も歯のミイラと共に生活するのは難しいだろうに。
いや、生きている魚は神経なんて取らないから、
歯のミイラなんていない。よね?


静かな音楽、落ち着かせてくれる映像。海の色、景色。
どこかに沈んでいく。ゆらゆらと揺れている。
波と一緒に、藻と珊瑚と触手と一緒に、
自分も青く白く染まっていくような世界。
仕事を忘れ、歯の痛みを忘れ、違和感をしばし忘れ、
ミイラと共に海の底、静かな散歩のひととき。


母なる海の景色を見つめつつ、かーちゃん、
今後の治療のことを思い煩う。
お金よりも何よりも、頭痛や肩凝りを悪化させぬ、
真珠のように煌く歯を求めて、展示の写真の間を彷徨う。
今しばらく、漂っていたい。
最近何かとめげやすく、
心がミイラになりそうな私が潤うまで、ずっと。

海中奇面組 (ベスト新書)

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水中の賢者たち

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