Festina Lente2

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名前の意味

ほんの数年前の大惨事だというのに、世間から忘れ去られているのか、
アメリ同時多発テロの事件の日、グラウンド・ゼロ
そういう言葉、聞かなくなった。それが平和な毎日の証拠なのか、
何も気にせずに流し、流されてていく毎日のせいなのか。
映画のような、まさかの光景が広がったあの日だというのに、
ニュースでも新聞でもそれほど話題にもならない。
まして職場で話題にもならない。


そんな今日、彼女は自分の名前が気に入らないとぼやく。
親はどうしてこんな名前を付けたのだろうと。
履歴書に名前を書いていてもつまらない。
こんな名前あまり聞いた事もないし、字だっておかしいとぼやく。
確かに余り見ない字だけれど、そうかな? 本当にそうかな?
変な名前かな? 「栞」という名前は?


今日の彼女に限らず、自分の名前のが好きじゃないという人は多い。
そのくせ、自分の名前の意味を知らない。由来も漢字の意味も。
漢字ではなく、平仮名の名前だって親がこだわって付けただろうに。
嫌いも何も、最初から名前に意味も見出せず誇りも抱けない。
それって不幸なことだと思う。命名、意味のあることなのに。


本に挟むぺらぺらの栞なんて、何の意味もない。
ただの紙切れなのに、どうして親はこんな名前を付けたのか。
どうせなら、読みやすい字にしてくれたらいいのに、
友達も滅多に読めない字を名前にしなくてもいいのに。
彼女はぼやき続ける。私に、同意を求めたいのかな?


提出される書類には、必ず姓名きちんと書くよう指示。
自己紹介や長所短所、何も言えず書けない人も多い。
丸暗記棒暗記でオリジナリティのない言葉ばかりいう人も多い。
言うに事欠いて自分の名前は嫌いだという人に限って、
自分の名前の意味を知らない、想像できない、もとい、
親からきちんと聞いていないし、自分から尋ねたこともない人も多い。


字画にこだわって変わった名前が多い。読めないので、
振り仮名は必ず書いて欲しい。当て字も多い。
それをオリジナリティと受け取るべきか、
親の自己満足でしかないとみるかどうかは別として。
私などは頭が古いせいか、例えば「未夢」という名前、
「いまだ夢見ず」という否定に受け止めてしまうの。
やっぱり字画優先でイマドキの命名
それとも若い人には通じる名前?

折々の栞

折々の栞

話は戻って、「栞」の何が不満?
「読んだ本に挟む紙切れ」という本人の言葉は即物的過ぎる。
いや、別に漢和辞典引いて調べろとは言わないけれど、
若い頃、愛読書に挟む栞は手作り。大切な贈り物にわざわざ選び・・・
それなりに「栞」に思い入れのある人間は、こだわる。
今でこそ図書館の貸し出しレシートを挟むだけ。
愛想も色気もない栞生活だが。


読んだ所まで忘れないように、印として用いる栞。
大切な所にわざわざ挟む栞。
昔は木の枝を折って、道案内の目印とした「枝折り」。
自分が進んできた道を確認する為に、
後から来る人が迷わないよう、
次に通る時にも間違えないよう、
心遣い・気遣いの形、
安心できるよう、記念になるよう、
道しるべとして、栞。


へえ、そういう意味があるんだとちょっとびっくりした様子。
でもね、それは辞書的な意味で、私が親なら、
私があなたの親ならね、栞っていう名前を付けるとしたらね。
娘であるあなたの誕生は、親にとっては一生忘れられない。
夫婦である自分たち、母親となった自分にとって
新たな人生の歴史の1ページ。
死ぬまで忘れたくない大事な日。
自分達を母と父にさせてくれた娘、
自分たちの家族の道しるべとなる娘、
愛の記念として心に刻む目印としての、娘。
そんな私達の娘、栞よ。
そういう意味があったのかもしれないよ。

文学の花しおり

文学の花しおり

手紙、栞を添えて

手紙、栞を添えて

 

子ゆえに道に迷う時もある。親なれど、道に迷う時もある。
自分の過去と未来、人生の道しるべとなる娘に、
平仮名ではなく、しっかりとした「栞」の字を選んだ親御さん。
どんな思いで名前を付けたのか、単なる画数占いであって欲しくない。
そう思っている私。彼女はどんなふうに受け止めているか、
たった一文字の背景にどんな思いが込められているか、
どんなふうに考えてきたのか知らないけれど、
紙切れ一枚という軽さで、自分の名前を受け止めて欲しくない。


名前一つにこだわる訳では無いけれど、
今日の「栞」のように、忘れられない存在、忘れられない日。
今日は、多くの人命を犠牲にしてビルに旅客機が突っ込んだ日。
ワールド・トレードセンターに突き刺さった旅客機ごと、
世界中に同時多発テロの恐怖という、栞が突き刺さった日。
小枝ではなく、人命を賭して印がつけられた日。
私の心の中では、かつて旅したニューヨークのビルが
崩壊していく世界の前触れのように折り取られ、
忘れられない1ページになっている。


単なる名前の意味ではなくて、どんな意味で命名するのか。
名前を付けて、その社会に存在するための命を与える。
今日のキーワードが「栞」だとするならば、
名付けられるべき今日、記憶すべき今日は?
名前一つにお喋りをしながらも、脳裏に閃く栞、
世界の景色の中に挟んで、閉じる。
仕事の合間、「今日は9月11日」と1人ごちる。

しおり

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