Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

古典も作文も

去年のことは覚えていないが、一昨年は憤慨して文章を書いた覚えが。
http://d.hatena.ne.jp/neimu/20070317/1174159465
高校入試問題如きで、と思うかもしれないけれど、
娘も将来こういう文章を読むんだなあと思いつつ、
これが入試に出てくる内容なのだなあと思うと、やっぱり嫌悪感。
もう少し文章は選べないものなのだろうか。
それとも出題者は自虐的な皮肉屋なのだろうか。
或いは設問のみに意識が行っていて、主題が適切か不適切か、
そういう全体的なバランスには気を配らないのだろうか。
一緒に一度、受験する大勢の中学生が読む文章がこれか?


使われていたのは『醒睡笑』の中の有名な話。
―小僧あり。小夜ふけて長棹(ながざお)をもち、庭をあなたこなたと振りまはる。坊主これを見附け、「それは何事をするぞ」と問ふ。「空の星がほしさに、うち落とさんとすれども落ちぬ」と。「さてさて鈍なるやつや。それほど作がなうてなる物か。そこからは棹がとどくまい。屋根にあがれ」といはれた。お弟子はとも候へ(弟子はともかくと云う意)、師匠の指南ありがたし。
 星一つ見つけたる夜のうれしさは月にもまさる五月雨の空―


私が僻んでいるのか? これを笑い話、楽しい話、
滑稽な話として受け取れないという事が。
たぶん設問のせいだと思う。
・・・「作」とはここでは「工夫」のことである。
  本文中で坊主が工夫として述べているのはどのようなことか。
  現代の言葉で十字以内で書きなさい。
  答えは「屋根へ上がること」・・・


師の教えを真面目に聞いた小僧を可愛いと思うべきか、
この小僧にしてこの師ありと、愚かしさを笑うべきか、
弟子はともかく師匠の指南ありがたしという、皮肉や当てこすりと取るべきか。
どのような読み取りをすればいいのかわからないけれど、
「作」=「工夫」=屋根へ上がること
こういう単純な読み取りや置き換えを訊く事が、古文の設問か?
解法なのか? 何だか引っかかりを感じる。


他の設問もかなり易しく、高校入試レベルってこんなものだっけ?
自分たちもこういう内容で教えられたっけ?と首をかしげる
中学の教科書ではもう少し高度な内容やっているはず。
現代文の範囲がもう少し高尚な内容であるにも拘らず、
古文になるとどうしてハードルが余りにも低い?
選ばれてきた文章がこういう内容になる?
一生に一度の高校入試の問題なのに?


古典を学ぶ国語の基礎力があるかどうか確かめる為ならば、
「鈍・指南・五月雨」の読みや意味を尋ねたり、
この話の面白さ、笑えるところはどこかを尋ねればいいのに、
「工夫」というよりも、この場での愚かしさを「作」と捉えずに、
即物的な解答を求めているのがとても気になる。
内容を問わず、添えられた和歌を問わず、
古典の基礎力を問うには設問が不適切な気がする。

猫の手と猫舌の足―江戸の笑いを読む〈10〉

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江戸のこばなし (ちくまプリマーブックス)

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今回は現代文も読みやすいエッセイを選んだばかりに、
語句の使い方や展開が曖昧なままの内容を、
こんな設問でいいのか? と引っかかるものがあった。
「腐っても鯛」とは言わないが、一応文学部出身なので、
ついつい文章があると読んでしまうけれど、老眼鏡がなければ読めない
小さい字の羅列、新聞の出題欄に答を見ながら、むっつりしてしまう私。
本当に高校教師が作っているのだろうか?
それとも中学校の教師が作っているのだろうか?
この設問で何が訊きたいのか?


将来自分の娘も受験に遠からず巻き込まれるかと思うと、
英数理社はともかく、国語ぐらいならみてやれるかも・・・なんて、
甘い考えを持っているかーちゃんの頭を悩ませる、というか、
はてな印で一杯にするような設問があると、苛々むかむか。
親馬鹿と言おうか、文学少女のなれの果てといおうか。


こういう文章、気晴らしで読むのもいいかもしれないけれど、
入試に関してはもう少し別の文章を選べない?
もしくは設問の内容をどういう力を問いたいのか、
内容に即して訊く形に出来ない?
単純に受験テクニックで解きましたね、はい、できましたね、
読めてますねっていう読み、古文に関してはやめて欲しい。


それとも私の娘の世代の入試は「にほんごであそぼ」世代だから、
古典に関して造詣の深い、もう少し洗練された出題になる?
とまあ、ぶつくさ私が語ってみたところで、
大阪府以外の他府県がどんな出題をしているか知らないけれど、
センター入試でさえも過去の出題と重ならないように出典を探す、
なんて事をやめるようにしたんだから、もう少し名文出せば?
繁盛亭がある大阪だからって、笑い話や滑稽譚を出すのならば、
もう少し読んでよかったねえ、意味深だねえというものを出してよ。


とはいえ、今回は出題傾向が例年と違っているらしい。
設問も、作文も。例えば今までは題名を与えて書かせていたのに、
今回は、「あなたが大切にしたいと考える気持ちは心がけや態度などを
表す漢字を一字考え、後の条件に従って別の原稿用紙に300字以内の文章を書きなさい」
さて、皆さんも出来ますか?
作文の条件は、「大切にしたい気持ちや心がけや態度などを表わす漢字一字と、
その漢字を選んだ理由が書かれていること」


理由を書く。なるほどね。英作文みたい。結論を書かせてから、
何故ならで始める文章。SinceやBecauseを使って書けと教えられた、
昔々の記憶が蘇る。漢字一字を考え・・・と訊かれると、
話題になった漢検協会を背景に毎年選ばれる「今年を表す漢字」を連想。
自分の心情や生活態度に希薄な思春期の若者に、
自分の大切なイメージを漢字一文字で書かせる・・・ねえ。
今時の中学生がどんな字を選んでくるか、知りたい。


何しろ知っている漢字は限られている。
自分の心情を表す漢字ならば、更に限られてくる。
気持ちや態度をはっきり出したくない年頃、
理想や憧れに近付きたくても近づけない、
アンビバレンツな年頃の人間が、何を大切にしているか。
とにかく、「書ける漢字」「書ける内容」は限られている。
知っている世界が限られている場合が多いから。


どんな事を書いているんだろう。読んでみたいね。
娘の気持ちをもてあまし気味なかーちゃんとしては、
中学生が大切にしたい気持ちや心がけ態度などなどに、
どの程度「お役所向け」に綴ってくるか、読んでみたいね。
知りたいね。古典も作文も、出題意図を知りたいね。
どういう答が出てくると想定しているのか、
専門家の意見を聞いてみたいね。

醒睡笑―戦国の笑話 (東洋文庫 (31))

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化政期 落語本集―近世笑話集〈下〉 (岩波文庫)

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