ホタルと舞おう - Festina Lente2

ほ、ほ、ホタル来い。こっちの水は甘いぞ♪
懐かしい歌がこだまする、緑滴る少年自然の家の一室。
そう、私は初めて来たが家人と娘は２度目。
本当なら去年の５月の連休にファミリーキャンプのはずだった。
私が憩室炎再発で入院し、共に楽しむことができなかったので、
是非訪れたいと昨年から計画していた。
それがこのファミリーキャンプ、ホタルと舞おう。
大阪でも自然に恵まれたこの地域は、民家の周囲の田んぼ、
小川に飛び交うホタルを眺めることができる場所。

大阪は縦に細長い土地なので、面積が狭い割に海あり山あり。
和歌山･奈良に接する土地は自然に恵まれ、
なるほど山々、稜線が国境となるのも然りという場所。
今では自然が残った場所が広がる。
市内からでも小１時間程度で来られる上に、
この自然の家の施設のそばには、閉校した小学校跡が
温泉施設になった「ほの字の里」。その泉質は山を下った所にある
有名な水間寺に奥水間温泉の泉質と同じ。
透き通った柔らかいお湯に、大阪の奥座敷、バーベキューも出来るし、
元小学校の体育館内ではスポーツも出来るとあって、人気がある。

本当にちょっとその気になれば、こんなに静かで空気の美味しい所があるなんて。
なのに、毎日あくせく仕事してばてて落ち込んで、書類が溜まって、
出張も研修も何もかも嫌になって、もっと早くに来るんだった･･･。
人気の施設で予約時機を逸すると、なかなか宿泊できない。
娘のためにも私達のためにも、他の人々、ご家族お子さんと接する機会が必要。
息抜きだけではなくて、幾つになっても新しい体験、社会生活訓練が必要。
そして、今日、「ホタルと舞おう」の企画の最初は
夜歩くコースを明るいうちに歩いて散策。
これが思いのほかアップダウンがあって、運動不足の人間にはきつかった。

杉･檜・あすなろ・栗・モチノキ・スイカズラにホタルブクロといった
野山の草木･草花を眺めながら歩く。残念ながら植物には疎いが、
（色んなブログで勉強させてもらっている割に情けない話）
ボランティアの方々が一緒に歩いて教えて下さる。
かわいらしい樅ぼっくりの赤ちゃん、柿の実の赤ちゃん。
私だって、どくだみや楠はわかる。何より嬉しかったのは、
治療の甲斐あって匂いが復活している今日この頃、
（健康だった頃とは比べられないものの）
栗の木の匂いを嗅ぎながら、水を湛え空を映しこんだ水田の脇を、
のんびり歩いて周り、空気の美味しさを満喫できたこと。

以前の私だったら、もっと様々な複雑な香りを嗅ぎ分けることができた筈。
そんな考えに囚われたら少々落ち込んでしまうけれど、
自然の中で、特徴のある強い香りはわかることが判明して、一安心。
散策後、昆虫の話を聞き、豪華なバイキング料理に舌鼓。
よその家族と円卓を囲んで団欒のひと時。
スケジュールは少々キツキツだが、念願の蛍鑑賞会へ。

２０時のピーク前に橋の袂に来てしまい、少々待たされたものの、
少しずつその数を増して、あの独特の点滅を始めた蛍たち。
飛び交いながらゆっくりと光の交信が移動する。
あるいはずっと一定の場所を守るように光り続ける。
触ることができるほど近づけないのが残念な橋の上。
田んぼのあぜ道に移動して、やっと間近に眺めたホタル。

「あくがれいづる　たまかとぞみる」憧れ、魂、さ迷い出でていずこへ。
源氏ボタルのおおらかな点滅は関西がいらちで早く、関東はゆっくりだとか。
そうなのかな、そうなのかしら？　この点滅の仕方は方言と同じで、
中部地方を境に変化するらしい。ホタルの世界にも方言があるなんて。
私と夫が四国徳島で見た美郷村の蛍の思い出に酔っている時、
娘は蛙が怖いと大騒ぎしている。ウシガエルの鳴き声よりも、
カジカの鄙びた風情のある鳴き声が響いているというのに。

夕方見かけた白いホタルブクロに、本当にホタルを入れることができる？
帰り道ほんのりと闇の中に浮かぶ花を見ながら思う。
キャーキャー騒ぐ娘、大騒ぎする子ども達、ホタルを見せたい（見たい）
一心でキャンプに来ている親御さん達。その中の私達。
みんなどんな思いで今日の夜を過ごしたのだろうか。

賑やかな大きなお風呂。ちょっとした茶話会の夜。
大人はビール、子供達はジュース。
ジンジャエールもあったのでシャンディガフにして飲んでみた。
自然の家の方、大学生のリーダー、初めて会う家族。
ひんやりと冷たい山の空気、２段ベッドの８人部屋を占領。
六甲の散策よりも２往復の散策で足は疲れた。
純然たる山道や土の上ではなく、アスファルトの道は疲れる。

夜は更けて、夢の中でホタルが飛び交う。
草花がまぶたの裏で、踊る。
木々の香りがもやになって絡みつく。
柔らかな夜の空気が私達を包む。