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Liuteria BATO

さて、16日(実は老父80歳の誕生日)に出かけたナカノシマ大学
楽器工房巡りの記事も3日目となった。今回はバイオリン工房。
もっとも今日紹介するLiuteria BATOは、
初心者用のセットバイオリンからイタリアオールド・
モダンバイオリンまで取り扱う弦楽器専門店。



楽器店というと楽器しか売っていないと思っていたのだが、
実は作ったり修理をしたりできる場所であるということは、
全く念頭になかった私。売る人=作る人、直す人という構図は、
さっぱりも描くことができなかった。しかし考えてみれば、
販売元が道具のメンテナンスを保証するのは当たり前の話。
でないと、楽器人口の裾野は確保できない。



BATOという語感も最初何を意味するのか分からなかったが、
漢字で書くと馬戸。楽器工房のイメージからすると、
さすがにバイオリンを扱うご縁があったのかとも思われる。
(弦は馬の尻尾の毛を使うから、という発想は単純すぎるかな)
ガラス張りのお店は外から作業をしているところが見えるので、
まるで手作りのケーキやパンを売ったりするお店のように、
ショータイムと言えば大げさだが、穏やかな臨場感が溢れている。



耳をすませば』ではないけれど、バイオリン工房と聞くと、
そこに名器製作を夢見る若者のイメージが・・・。
かつて読んだ本にはバイオリンの歴史というものが書いてあって、
ストラディバリウスだのアマディだのの薀蓄が。
イタリアはクレモナの工房、魔法のニスの話、
現在の科学をもってしても分析できない調合、
そういうエピソード満載の本は小学生から中学生にかけて、
私の心を豊かにしてくれたものだ。
付録で付いていた赤いソノシートに耳を傾け、音楽を聴いた昔。



まさに映画の世界をイメージするかの如く若き職人が。
父が開いた店を息子達が守る、そんなLiuteria BATO
父は日本に初めてストラディヴァリウスを紹介した老舗で修行、
息子は本場イタリアはクレモナで修行、看板職人として活躍。
オーダーメイドの楽器製作に切磋琢磨する毎日とか。
店内の写真にはそのクレモナのポスターや、師匠である人の姿。



ちょうど店内にはヴァイオリンを嗜む女学生が訪れており、
店内は華やか。おまけに馬戸氏がティゴイネルワイゼンを披露、
何とも贅沢な空間と相成った。


 

 



まさにその馬の尻尾を捌いて弦を作ろうとしているところ、
何色ものニスの瓶、奥深き音楽の世界、楽器の世界の書籍、
様々な木片、何本もの弓、そういう店内を眺めていると、
道路に面したモダンなガラスの店内は日本ではないような感じ。
こんなイケメンのお兄さんたちがいるなんて、ホント映画の世界。



かつて読んだ本には、その秘伝のニスはバイオリンの木を守り、
もちろん音色をも守り、いつまで経っても柔らかかったとある。
指で押しても、いつの間にか元に戻るほど柔らかかったと。
師匠のクレモナスタイルを受け継いだ息子さんの楽器は、
赤みがかったニスが特徴らしい。



女性の体にもたとえられるヴァイオリンのボディ。
選ぶ時も目利きはそのバランスの取れた美しさを重視するという。
何しろ買い付けに行く時は、弦も張っていない状態を見るそうで、
鍛え上げられた勘で楽器を選ぶのだそう。
名器は元より名器ではなく、弾き込まれて歳月を掛けて名器となる。
大切に扱われて鍛えられて奏でられる音色を想定して、
若い楽器を買い付けるのが商売の醍醐味らしい。
弾き手の為の「楽器の仲人」として存在する楽器商の存在。
作り手同様、奥の深い世界だ。



トークショーの時に、弾けば弾くほど音色が良くなり、
価値が上がる楽器の為に投資してみてはという話があったが、
家人のバイオリンを唯の一度もまともに聴いたことが無い私。
日本の習い事の裾野は小学生から中学生まで。
受験戦争で有るか無しかの才能なんぞ、消し飛んでしまう。
教養や嗜み、趣味として日常生活に浸透するほどでもなく、
実際に楽しむ時間も無いほど生活に追われている。
音楽に費やしたはずの時間と情熱は雲散霧消が現実だ。



私のピアノにしても同様。情けない話ではあるが、
細々と「聞き手」として存在できるだけでもましな方だと・・・。
音楽を愛していても、音楽にのめりこむことができない俗物には、
少々肩身が狭く感じられる工房の熱気や雰囲気。
憧れの世界は手に届く所にあるのではなく、
ガラスの向こうにあるのだと実感させられた瞬間。
哀しいかな、現実。

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