Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

江戸の大坂から雫へ

久しぶりのナカノシマ大学。4月以来。嬉しい今日の場所。
エアコン付きの勉強し易い机と椅子、見晴らしのいい場所。
駅からも近い、大阪城が見える追手門学院大阪城スクエア。
『プリンセストヨトミ』にタイムリーな講義か? と思いきや、
江戸時代の大阪の話。つまり、大阪が大坂だった頃の暮らし。
本日の講座名は「大坂町人的城下町極楽ライフ」
講師は追手門学院大学 国際教養学部 永吉雅夫氏。
折しも夕暮れの大阪城が美しい。


  


ナカノシマ大学は4月の楽器工房巡り以来。
あの日は老父の誕生日。春の盛りだった。
今日はと言うと、猛暑に溶けるナメクジの心境で営業後、
ようやく街中まで辿り着いた。JRは延着するし、間に合うかひやひや。
そのせいかどうかわからないけれど、パネリスト一人欠席。
Ipadデビューという講師の操る画面は、時に? だったりしたが、
資料を駆使した説得力のある今日の話は、とても面白かった。



私が知る今の大阪はこの会場の窓から見えるような、
上の写真のように、美しい町ではない。
ごちゃごちゃセカセカ苛々した、殺伐とした大阪。
もしくはちゃらんぽらんな、真面目に受け答えする奴がアホと、
肩透かしを食らわせるようなやり取りがなされる大阪。
ある時は京都まがいにやんわりと皮肉たっぷりに毒づき、
ある時はヤクザまがいに乱暴な言葉で相手をひるませ、
抜け目ない駆け引きのために相手の足元を掬う言動も厭わぬ、
そういう面々、場面、状況にばかり遭遇することが多いので、
生まれも育ちも大阪の片田舎という生育環境には至っては、
甚だ劣等感が大きい。


ゆえに、両親の影響が大きいのだろうと。
なかなか周囲との違和感が大きく、幾つになっても馴染めぬのは、
自分は大阪の人間ではなくて、宮城県人二世だから?などと
半ば諦めつつ自分のアイデンティティなるものを形成してきたが、
・・・要は普通に生活しているようで、心はどこか根無し草。
そんな私が今日耳にした江戸時代の大坂人。
思いのほか、随分雅びであったようだ。
東夷(あずまえびす)の江戸の侍から見れば。


というわけで、資料として提示されたのは大田南畝蜀山人)の日記。
(江戸への手紙をまとめたもの)
今で言うところのお役人として、江戸から大坂に派遣され、
2階のある家に旅宿、仕事の傍ら大坂の風物を書きとめた日記。
それによると、大坂は風光明媚で2階からは大阪湾はもちろん、
淡路・須磨の辺りまで、堺の海は言うに及ばず。
六甲・生駒の山々も、大川・淀川の流れも町の景色と共に、
なかなか素晴らしいものであったようだ。
四天王寺の名前も見られる。


当時の大坂の人は暮らしもゆったりのんびりしていて、
言葉遣いも立ち居振る舞いものどかで、みやび。
江戸とは大違いだったらしい。服装も所作も比較して、
江戸者の荒々しさみすぼらしさは、恥じ入るばかりのお粗末さ。
さすがに天皇を抱く古来王城の地は、京都・大坂。
歴史の違いが現れているのだろうかと、感じていたよう。
(それでも商人は算盤と天秤を離さぬと書かれているから、
船場商人は当時もしっかりがめつく稼いでいたのだろう)


遊郭よし、女よし、食べ物よしと書かれていることから、
単身赴任で仕事に明け暮れているというよりも、
羽を伸ばしつつ仕事を片付けていたらしい。
何しろ時勢を読んで、文章も絵も嗜み、漢学の素養深く、
二足のわらじで活動していたやり手の南畝。
頭の切れも人一倍なら、興味関心も人一倍。
貪欲に上方文化を堪能、吸収していたのだろう。


特に今日の大坂の描写で面白かったのは、大坂の町の昼寝。
街中はみんな昼寝で午後は静かだったよう。
おまけに朝寝も好き。夜は遅くまで起きてお喋りに興じ。
大坂は宵っ張りの朝寝坊の町で、それも東夷にはびっくりだったよう。
まるで、南欧シエスタのよう。
しっかり寝て、美味しく食べて、女性を愛で、夜遊び。
仕事はいつ? 

  



そんな楽しい話の中に、気になる話。
一つは「大阪全停止」は将軍が亡くなった時、
歌舞音曲などを自制することだったらしいこと。
一つは江戸時代の地震。その時の被害を事細かに記録した
資料を見せられたが、船や家屋、男女大人子供の別まで、
細かく被災者の記録がなされている中に、
被差別部落のことも記されていたこと。
それは、一般の被害の犬の死亡数の記事の後に。


今ひとつは「心中」の話。『曽根崎心中]』などをはじめとして、
近松門左衛門たちが取り上げた以上に、心中事件は多かったらしい。
しかし、実際は面白おかしく芝居の中に取り上げたゆえ、
相乗効果で大阪の心中が広がっていったということを、
南畝が指摘し憂えていること。


今のメディアの過剰で節制の無い報道姿勢と共通している。
そういうことを取り上げるから、真似するものが出てくる。
そういう姿勢で取材するから2次被害が増える。
今も昔も変わらない、こういう部分。
文筆に携わった大田南畝こと蜀山人であるからこそ、
意識したことなのだろう。


故に、女性の美しさを褒めながらも、芝居小屋は悪所
役者俳優タレントそのものは美男美女でも、芸能界は悪所なのと同じ。
スキャンダルを食い物にして稼ぐ輩は多い。
そんなことを連想しながら講義を聞いていたら、あっという間に1時間半。
惜しいかな、もっと聞きたかったが外は既に暗い。
大阪城のイルミネーションを綺麗に撮りたかったが、見事に手ぶれ。



この後、夫婦二人で本日の余韻を楽しみつつ、
楽器工房巡りで4月に歩いた界隈へ夜の散歩。
一軒の居酒屋に招かれるように入って、晩御飯。
量もお値段も良心的。素敵なお店でした。雫。


    

  


初めて入った店がお酒も料理も美味しくて、寛げると嬉しい。
暑くてただならぬ毎日だっただけに、体はばてている。
こんな日に出張プラス、ナカノシマ大学はハードだったけれど、
ご褒美ご褒美、自分にご褒美のオン・ザ・ロック
良い学びの夜、お疲れ様でした。


    

  


大田南畝・蜀山人のすべて―江戸の利巧者 昼と夜、六つの顔を持った男

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一話一言 (日本随筆大成)

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