ばあばをオルセーに

美術館に足を運ぶ人なら、最終日に足を運ぶなどという
「バカ」はしないのが普通。
斯くいう私も、今までそんな暴挙に出た事は無い。
が、どうしても家族全員揃わない。私達3人ではなくて、
ばあばが「うん」と言わないのが、最大の難関だった。
家に引きこもりがちな実家の母を、引っ張り出す決め手になったのが、
「あんなに行きたがっていたオルセー美術館の絵が見られるよ。
　最終日だから、行かないと後悔するよ。」

そう、最終日。行かないと後悔する。
せっついた挙句、動く気になってくれたのだ。
私や家族だけなら、何とか都合を付けられる。
しかし、年相当に老いて来た実家の母。
いわゆる、色んな症状が出始めた。
一番の問題は、外出しなくなったこと。とにかく出かけたがらない。
知らない人に会うことや、新しいことに見向きもしなくなった。
[

もちろん、今までと殆ど変わらない所も多い。
良くも悪くも元のままの所、ではあるが。
引きこもりまでは行かないが、進んで買い物にも行こうはしない。
自転車に乗れなくなった。家族の車にしか乗れなくなった。
道がわからなくなる。(全くではないが、時々そうなる)
庭木と草花の手入れには執着しているが、
湯浴みをしたら、18・19時台に寝床に入ってしまうほどなのだ。

自慢じゃないがてきぱきし過ぎていて、というか正論を吐く人で、
側にいても安らぎを感じる事が、なかなかできない人だった。
年を取ってきて丸くなったなと思ったのも束の間、
丸くならずに「欠けて」きてしまった。

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親の「ぼけ」に気づいたら (文春新書)

編物、縫物(洋裁･和裁)、刺繍、パッチワーク、
針もミシンも何でもござれ。
布団も綿を入れて作れるし、着物の洗い張りだって出来る。
インスタントではないクリームソースを作って、
カリフラワーにかけて食べさせてくれた母。
パン作りやクッキーなどは、オーブンが無いから作らなかったものの、
仕事の傍ら何でも手作り派の、バリバリの昭和一桁生まれ。
　　　　　　　　　　　　　

私が小学校時代の12年間を除き、65歳まで現役で働き、
近所の大学で何講座か聴講。男女共同参画事業に首を突っ込み、
地元サークルでは傾聴ボランティア。
料理、百姓仕事、庭木・草花の手入れ。
苦労人で、「何でもできる人」の娘に育てられた私は、
何も出来ない不器用な人として、大きくなった。(笑)
曰く言い難い過保護の賜物、意に沿わぬ成長？を遂げた娘の私。

｢現状維持は、世の中が進歩しているのだから退化の一歩だ｣と
常日頃のたもうていた母が、
その母が、美術館に行こうとしなくなってしまった。
美容院に行く道もわからない（時が増えてきた）
映画館にも行かない。自転車にも乗らない。
化粧もせず、外出着にこだわろうともせず、過ごす事が増えた。

自宅の周囲と庭の中だけが、全世界になりつつある。
新聞は読みながら赤線を引っ張っていても、
内容は余り頭に入っていない･･･みたい。
とにかく気難しくなる一方。何を、どう話したらいいものか。
(向こうからすると、私が話さないと思っているのかも)

今朝、おしゃれもせずに車に乗って出かけた、ばあば。
同じ絵のコーナーを「見ていない」と、何度も回ろうとするばあば。
なのに、解説書片手にメモを取って見ようとする、ばあば。
居留地倶楽部のビュッフェランチでも、借りてきた猫のよう。
席を立って、自分で好きなものを選ぼうともしなかった。
帰りの車に乗せた途端に疲れたのか、すぐ眠ってしまったばあば。

彼女がにこやかになるのはどんな時か？　側に孫がいる時。
ええ、唯一孫が、私の娘が心の慰めのようです。
（私？　･･･蝶になれない芋虫が葉っぱを食い荒らしているって感じ？）
彼女が昔のようにしゃきしゃきするのは、どんな時か？
私達の落ち度を見つけて、愚痴を言ったり叱り倒したり、追及する時。

さて、今日のオルセーの感想は？　ばあばは何も言わない。
うん、まあいいよ。一緒に外出できただけでも。
久しぶりに外で一緒にお食事できたし。それも、神戸だしね。
暖かくなったら、もう少し長い時間一緒に出かけようね。
私は嬉しかったけれど、・・・一緒に外出できて、さ。

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