親子で一心寺シアター

実は演劇が好きだ。劇団「四季」のファンクラブにも入っている。
ロンドン・ニューヨークは劇場通いが目的で行くようなものだ。
しかし、それは遠い過去。２０代から３０代の頃の話。
結婚、出産、子育てともなれば、観劇はなかなか難しい。
いまやっと、娘が大きくなってきて、子供向けの劇には行くが。

実を言うと、プロの演劇もいいが、アマチュアが好きだ。
というのは、「アマチュアのアマチュア」に関わった時期があったから。
たったの５年間だったけれど。
私の唯一演劇時代。関西一円の小劇場を見て回り、
未来を夢見る若者に加わっていた５年間。
本業以外に打ち込めるもの、
若者の「無から有を創り出す力」にあやかり、
胸をわくわくさせていた時代、あれから１０年以上たった。

進化する劇場―舞台の裏側は面白い (シリーズ アーツマネジメント)

CARAMELBOX SOUNDBOOK - OPENINGS

演劇。舞台。脚本。演出。スポットライト。フェイドアウト。
人生は舞台。緞帳が上がる。音楽。ナレーション。ダンス。
舞台の上では別人。現実に何が待っていようとも、今だけは。
手ごたえのある濃密な空間と時間を、手に入れるのはこの一瞬。
脚本から広がる世界、プロット、役作り、メイク、衣装、変身。

そんな世界を時にはこっそり、ある時はガンガンにミーティング。
読み合わせ、チェック、素人だからできる無謀な試み。
言葉の中から紡ぎ上げられた世界を、ひたすら見守る。
体を張った演技に入るまで、そして終わった後、
宴の後を締めくくる時が仕事。

若い魂の横で揺らいでいる自分自身、
少しずつ蒔いた種が、何時しか自分の背を越え伸びていく
その嬉しさ、その寂しさ。
もはや夢は追えないと諦めている自分と違う、
その心の健やかさを一齧りさせて貰っていた頃。

舞台はいつも、夢を見せてくれる。一期一会の世界だから。
２度と同じものは見られない。何度公演があっても、
そのとき一度限りのライブ。だから人生と同じ。
似ているようで違う、一度限りの関係。役者と観客。
俳優というよりは、アクトレスの彼女たち。

今回の公演はミステリー、占い、親子・夫婦、愛人、怪盗、
色んな絡みがあり過ぎて、２時間は長い。
もう少し脚本と演出をスリムに絞って欲しかったけれど、
７歳の娘が、クライマックスの部分でちゃんと泣いていたから
成功だね、エンロールはできていた訳だ。
「この思いの浄化を願う。五つ巡った聖なる中央で」

おませな娘よ。君が泣いていたのは、実に複雑な夫婦の過去と現在、
これからの未来の部分なんだけれど、その影にあった不倫まで
わかって観ていたのかな？　ギャグには大笑いしていたね。
この家族に、このプロットに、少女マンガ的なお笑いに、
乗せられながらも、ちくちく心が痛む。

おませな娘よ、君を産む前は「妻」や「母」になれるのか悩み、
臆病にも、人生を投げていたかーちゃんだ、実は。
君を産んでからは、こんな「親」でいいのかと悩み、
ま、「案ずるより産むが安し」だったのは幸いだけれども、
実に家族という庭には、悩みの種ばかり芽吹くよ。

被るべきペルソナはわかっていても、被りきれるとは限らない。
演技ではなく、心からその役であるということは、
その役であり続けるということは、
一人何役もこなさなければならないということは、
実に、不器用なかーちゃんには大変なことなんだ。

たとえば、叱ったり怒ったりするだけでなく、
優しく甘く、理解力と包容力があり、ユーモアに溢れ機転の利く
料理と掃除と洗濯が上手で、いつもニコニコしていられる、
肝っ玉かーちゃんでいることは、なかなか難しい。
体型だけは、実にどっしりしているのだが・・・。

言わせてもらえば、メイクも衣装も無しに、
役割だけを次々にこなし、舞台を飛び回るのは大変なんだ。
君は女の子で、かーちゃんの娘で小学１年生、
音楽教室と水泳教室に通っている一人っ子、
じーちゃんとばーちゃんの、目の中に入れても痛くない孫娘。

うん、実は君の役も本当は年齢の割に大変だね。
言わせて貰えば、君も少しは愚痴るだろう。
かーちゃんばかりじゃないよと、自己主張する年だよね。
ラブシーンで泣いているのを「見つからないように泣いていたのに、
気づかれてしまった」と、悔しがり恥ずかしがる君は。

君が君であるように合わせて、かーちゃんは成長できているか。
役柄に応じていられるのか、相手役になっているのか、
時々不安になる。だって、みんな私を追い越していくから。
そう、君もいつか私をずっと追い越していく。
今日、公演しているみんなが成長していったように。

かーちゃんは、君の舞台をひたすら見つめる観客になる。
今よりも、ずっとずっと。

CARAMELBOX SOUNDBOOK - Endings

20th ザバダック