初めての入院の思い出

TVのウィンブルドンのテニスの試合をチラリと見た。
シャラポワのウェアの背中のフリルがかわいい。
上背があっても、かわいらしく見えるスリムな美人は、
ゲームを知らなくても、ボーっと眺めているだけでも楽しい。
それに対し、ビーナスのショートパンツスタイルは、
機能性重視、来るなら来いって感じで、いかつく見える。
白に限定されるウィンブルドンのウェアも、
コートを見守るギャラリーの様子も、なかなか楽しい。

さりとて、結婚・妊娠・出産・育児と続いてからは、
ラケットを握ることもなくなってしまった。
今始めたらテニス肘どころか、膝を壊してしまう。
短距離のスピードと的確なパスができなければ、
面白い試合の展開は難しい。
チームプレーが苦手な人間には、向いているスポーツ、
テニス、バドミントン、卓球。

昔のように熱心に見ることは無くなったのが、少し寂しい。
生まれて始めて骨折なぞで入院する羽目になった時、
どうしてもライブの試合が見たくて、
カーテンの中でこっそりテレビを見ていた真夜中。
勿論、定時巡回の看護師さんに呆れられましたともさ。
15年も前の話。

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私、「エースをねらえ」リアルタイム世代。
でも、始めて握ったラケットはバドミントン。
中学・高校時代は軟式、何故か大学の選択体育は卓球。
硬式のラケットを握ったのは、20代も半ばを過ぎてから。
もう、シングルスは無理。ダブルスで時々試合。

よりにもよって、テニスクラブの決勝戦で、
1時間以上オーバーしたタイブレークに痙攣、転等。
筋部分断裂（肉離れ）と亀裂骨折。
小さな骨折があんなに痛いとは。
足が腫れると、自分の足とは思えない物体だった。

ウィンブルドンの試合中継は、生まれて初めての入院生活とリンク。
梅雨時の病院でのリハビリを思い出す。石膏ではなくて、
お好みの色を尋ねられ、水色ギブスでぐるぐる巻にされた右足。
足を吊って寝たり、松葉杖の使い方を覚える中で、
男部屋女部屋は、まるで小さな合宿所のよう。

スポーツ整形外科での入院は、命のやり取りに程遠く穏やか。
段差のある2階建ての実家よりも、快適な病院生活。
揃いも揃った世代別、高校生から80代のおばあちゃんまで、
6人部屋で縦割り合宿しているみたい。
退院間際には、懐中電灯でこっそりさよならパーティ。
部屋のみんなが退院した頃、同窓会で飲み会。
入院さえも、ちょっとしたオフ会みたいで楽しかった頃。

人生、雨で待たされることもある。テニスの試合も。
どこで待つのか、雨宿りするのか、しないのか。
傘を持っているのか、いないのか。
人生、雨が降ろうが降ろまいが常に試合中みたいなもの。
自分のコートに、自分独りでで立たなければならない。
♪コートでは誰でも一人、一人きり

サーブもボレーもスマッシュも、自分独りで。
人生というコートには、宗方コーチもお蝶夫人もいない。
「相手の成長を妨げるような愛し方はするな」という、
憧れの恋の鞘当ても決め台詞も無い。
何セットまで試合を続ければいいのかも、わからない。

ベッドの上、走れない足で、コート狭しと駆け回る人を
毎晩こっそり眺めていた夜。
TVでは12度目のデュースと言っている。
人生のラリーは、これまたいつまで続くのかわからない。
相方は、決まっているのかいないのか。
打ち返してくる相手は何なのか。

雨の夜、雨上がりの夜、足底板には程遠い
ギブスの足を持て余したベッドの上。
思いがけない休暇のような入院。差し入れのビール。
無音で、ボールの動きだけ見つめていた真夜中。
あの夜の思い出が、ふと蘇る。
部屋のみんなは元気でやっているだろうか。
年賀状のやり取りも、今は絶えてしまい。

勝つことはできなくても負けないように、
コートに立ち続ける日々。
誰と球を打ち合うのか、誰と共に打ち合うのか、
何に対して打ち返すのか。
メンタルが弱い自分を、いつも思い知らせてくれる試合。

何年経っても、試合が途切れることが無い。
そんな気がしてくる、昨日今日。
ウィンブルドンの試合が見せる、切ない思い出。
足を取られてこけ、ダブルフォルト、ネット、
何があろうと、それでも試合は続行中。

勝てないまでも、負ける訳にはいかぬ日々。
そんなふうに送れているかな・・・。
ブレークポイントを取る時はある？
マッチポイントにはならなくても。
TVの芝生の緑が目に沁みる。
隣の芝生はいつでも青い。

毎日がウィンブルドン。
雨が降ろうが槍が降ろうが、毎日がウィンブルドン。
自分にとっての特別な試合が続く日々。
ベッドの上でギブスの足を抱える日があっても、
ベッドから下りても、ウィンブルドン。
毎日が試合。毎日がコートの中･･･。シャラポワ残念。
TVの画面がくるくる回る。さあ、もう休む時。
真夜中はとっくに過ぎた。お休みなさい。

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