Festina Lente2

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ナーバスな21

21日、特別な日。4月21日、私の誕生日。
7月21日、家人の誕生日。そして、10月21日。
2年前、家人転院記念日。
人生色々あるけれど、これは忘れられない。
しかし、家人は何も言わない。だから、わからない。
爽やかに冷え込んでくるこの時期、
本来ならば、金木犀の香りに癒されるはずのこの時期
21日、特別な日。心がささくれ立つ日。


忘れたくても忘れられない悪夢、
地獄の釜の蓋が開く音が・・・聞こえる気がして、
苛立つ。哀しいよりも腹が立ち、戦うよりも興醒め、
尊敬より侮蔑、愛情より同情、信頼より不信、
語りかける言葉より、ひたすら耳を塞ぐ日々。
銀杏並木が色づき、散り果て、樹形が目を突き刺す。
その時まで、心に巣食う暗闇。


病院へ行く道も帰る道も、迷路のようにくるくる。
困惑・混乱・混沌とした毎日が、
季節と数字と共にフラッシュバック。
去年より確かに「まし」ではあるものの、
21、21日、誕生日が別のものを連想させる。
なんてっこったいの日々。いつになったら減感作できるものやら。

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

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七つの怖い扉 (新潮文庫)

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初期治療と急性期、そして慢性疾患の管理。
告知とその後。さすがに凹んだ。そして1週間、転院。
それから丸2年。嘘のような平穏な日々。
現状維持という「有り難い毎日」を、意識し無い様に毎日。
どうしても意識してしまう毎日。
知ってしまえば、知らない日々には戻れない。
「これは夢」だと叫んでも、夢ではないのだ。


毎日が卵の薄皮で包まれたような、そんな危うさ。
殻は、もうヒビが入っている。
確かなように見えていて、実は不確か。
元気に過ごしてはいるけれど、何も確かなものが無い。
そんな風に思い詰めてしまうと、どうしようもない。
形の無いものでも、確かな物があるというのに、
毎日生活していても、不確かでしかない現実。


人は世界の中に、見たいものを見、聞きたいものを聞く。
信じたいと思えば、思うことができさえすれば信じられる。
それが不確かなものであっても、信じる気力さえあれば。
確かなものを目の前にしていても、信じることができなければ、
信頼できなければ、受け入れることができなければ、
何一つとして、受け止めることはできない。
許すことができない。赦すことができない。
「ゆるす」ことができない。
自分に対しても、人に対しても、ゆるすことができない。


夢を見るのが難しい。せめて、夢を見ている振りをする。
愛を伝えることが難しい。だから、抜け殻でも被り続ける。
希望がある、という事にしておけば、人生前向きの演技。
偽物、ばったもののモチベーションで、乗り切る。
無いよりもまし、大根役者でも舞台には立てる。
だから私は「特大の練馬大根役者」になって、人生を欺こう。
人一倍、真面目に熱心に真剣に過ごした代償を、
人一倍、滑稽なほど無様な顛末が待っているだけなら、
納得など、しはしない。
そんな物分りの良い人間になって、性善説では生きられない。


頑張っていることを、頑張っていると認められない。
当たり前のこと、誰でもそうやって生きている、
当たり前のこと、そんな風に受け止められている、毎日。
当たり前に頑張っているけれど、頑張れなくなる。
普通に生活しているのが、普通だと感じることが良いことなのか
悪いことなのかわからなくなる。
完璧に取り繕われているだけではないのかと、うんざりする。


生活できることの、贅沢さに、狎れている自分へのやましさ。
望まずに与えられている試練と幸せ、時間。
その贅沢さを有り難くも感じ、辛くもなる。
何も感じずに、気付かずに過ごせれば良かったのに、
その贅沢さは許されない。生きて行くことは理不尽。
この先がわかっているようでわからない部分もあるから、
希望。と言うならば、
ジリ貧になっていくことさえ前向きに受け止めろと?


砂時計をひっくり返しながら、毎日が過ぎていく。
胸の奥深くまで、新しい空気が入っていかない。
原稿用紙はいつでも白紙のまま、
それなのに重ねられて束ねられて、21行目。
今まで書いたことのない21行目を書いている。
20×20ではない、自分達だけの原稿用紙の升目を
どうやって埋めていけば良いのか、迷う。


この時期、この季節、この日、この記憶を、
少しずつ折り畳んで、小さく折り畳んで仕舞いたい。
用意された寝床に、体を休めることができず、
一晩中起きていなければ気がすまない、焦燥感を
チリチリ、火花の瓶詰めにでもしてしまいたい。
21日、特別な日。感じて、考えて、きりきりして、
通り過ぎていくのを待つ日。早く、日付が変わるように。


この節目は、心を奮い立たせるよりも萎えさせる。
だからこそ、強気にはなれない自分を、認める。
開き直れない自分を、仕方がないと思う。
誰も同じ気持ちにはなれないだろうと、開き直る。
21、たまたま21日だったのだろうけれど、
とてつもないハードルとして横たわる、21日。
10月の21日。

七つの黒い夢 (新潮文庫)

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ナイトメア―心の迷路の物語

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