Festina Lente2

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主治医との別れ

患者本人のプライバシー。
子供を保護する保護者の立場ならまだしも、
泣いたり笑ったり不安になったり腹を立てたり、
一生病気と付き合っていくに当たって、
人には見せたくない自分をさらけ出せる。
信頼に足る大切な主治医の存在。
もっとも、色んな病気ごとに主治医がいるわけで、
何時でもどこでも、どんな病院にも、
あらゆる病気に対応して、主治医が存在するわけではないことは、重々承知している。(そんな贅沢な確保はできない)


患者の側に生活があるように、医師の側にも当然生活がある。
ずっとお世話になった歯内治療科の先生は、
初めてあった時は独身で、次に結婚されて名字が変わり、
全ての治療が終わった時には、出産を控えての最後の診察。
きっと今頃は、赤ちゃんが生まれているかもしれない。
患者が病院と縁が切れず、何年も付き合わされるのは、
医者としては不本意な部分もあるのかもしれない。
健康を取り戻したら、後は自己管理。
用もなく近づくところではない、病院。


家人の入院から丸5年が過ぎ、主治医と会うのは家人のみ、
診察そのものは個人のプライバシー。
非常事態か? と思われるときだけメールで連絡、
しかし、そのさばけた先生も病院を移る。人事異動。
新天地を目指して? 派閥争い? 自分の専門を生かして?
思わず下世話な想像をしてしまう、自分に分からない世界。
一体どうなっているのか、想像もできない。
しかし、ここはけじめとして挨拶に出向いた昨日、
家人の診察に付き合うこと5年ぶり。共に訪(おとな)う。
半ば礼節と同義の義務感、半ば感慨深く、対面。


でも、久しぶりにお会いする先生は以前よりも若返り、
(眼鏡姿ではなくなったせいか)、
古巣を後にする気満々の軽やかさに満ちているように見えた。
重篤な病人、患者に接することが多く、研究や診察、
後進の指導と様々な役職、自分の時間はどこにあるのか、
そんな忙しさの中で、以前よりも若い印象を受けるほどの
主治医のありように、少々混乱。


一体どんなふうに年月を重ねてこられたのか、
髪型も表情も若々しいのは、別天地への助走が始まっているから?
当時世話になった婦長もいつの間にか、この1年の間にいなくなった。
懐かさ半分、疎ましさ半分、家族としては複雑な心境。
病院、その診察室、落ち込みのどん底
説明、ムンテラとやらを受けた個室、
色んな景色が頭の中をくるくる回る。


本棚の釘に無造作に掛けられた聴診器、
沢山のガイドマニュアル、専門書の類、
何故かフットサルのポスター。

診察室へお入り下さい 第二巻 ことばの点滴いたしましょう

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「娘の小学校の入学式は見られますか」「見られますよ」
「卒業式は?」「・・・・」「・・・・?!」
「長生きをすれば色んな薬が出来てきますから、治る可能性は高くなりますよ。慢性管理が大事です」
・・・そういう問題で割り切れるほど、一般人が病気を受け止められるとでも?
降って湧いた天災でしか思えないのに。


そんな憤りだけの毎日からどれ程の月日が流れたのだろう。
医学の発達の恩恵を受けて、丸5年はつつがなく、
これからもこのペースで行ってくれれば御の字で。
振り返ってみるとたったの5年、されど5年、まだ5年。
主治医とのお付き合いは、これで終わってしまうのだろうか。
「後のことは、○○に伝えておきますから」
しかし、家人とて何時までも同じと頃に勤務するはずも、
出来るはずもなく、転勤族の私たち。


よくわかる医療面接と模擬患者

よくわかる医療面接と模擬患者


磁石の針はどこを指す? 治癒や快癒という方向を目指して、
嵐を乗り越えていければいいのだが、そうはいかぬ。
必ずしも漕げば宝島に辿り付けるとは限らぬ。
人生は、毎日は、落とし穴だらけのファジーな未来。
サルガッソーの呪いに絡め取られそうな不安を感じつつ、
あれもこれも杞憂に過ぎないと強がり方の一つや二つ、
何時でも懐に抱えていないと、
「泣くのは嫌さ、笑っちゃお」と大海原に乗り出していけない。


磁石の針はどこを指す? いつも北を目指すとは限らない。
いつもあるべき場所を、定位置を指すとは限らない。
その時その時で選べるベストを指してくれていればいいのだけれど、
人間のすること、人間に与えられる運命、神様の思し召し、
いつもベストが与えられているかどうか、こなせるかどうか、
分かったものではないから、磁石を当てには出来ない。
100%頼り切るわけにはいかない。
いつかまた、どこかでお世話になるはずの、
こういう形でご縁を持ってしまったことへの、
運の良さと割り切れない哀しさと、ない交ぜになった思いで、
5年ぶりの挨拶を終えて帰った昨日。


時間は流れていく。生者必滅、会者定離
「また、アドレスはお知らせしますよ」
本当だろうか。さばけた先生。
何時でも連絡できる。そう思えるから、それがお守り代わり。
今までそうやって乗り切ってきた。
そうして新しい病院に移っても、そうなの?
そうやってお守りを渡してくれるの?


家人の新しい主治医は4月から。今の先生のお弟子さん。
でもそれから先は? 依存心が強いと呆れられるか。
不安なまま、どうしても不安なまま、
そして、5年間の感謝と共に診察室を離れる。
一月は行く、二月は逃げる、三月は去る。
先生、お世話になりました。

患者参加の質的研究―会話分析からみた医療現場のコミュニケーション

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患者力―弱気な患者は、命を縮める (中公文庫)

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