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『ランボー 最後の戦場』

何しろ帰宅するまでにその気になればシネコンが二つも。
よくまあ、禁欲的に映画を見ないで過ごしている。
これでも緊縮財政なのだ。今までのようにほいほいとは見れない?
でも、レディスデー。仕事は残業。19:10からの上映に滑り込み。
マーケットで出来合いの握り寿司をつまみながら、目の前。
殺されて、殺されて、殺されて、殺されていく人の山。虐殺死体の山。
冒頭からこんなシーンばかりが続く。


シルベスター・スタローンの強烈なファンではないが、
デビュー作『ロッキー』をリアルタイムに見て来た世代としては、
気にならないわけが無い。でも、ロッキーはとうとう、
映画館では最初の作品以外見る事はなかった。
ランボー』シリーズもそう。最初だけ映画館で見た。
私は戦闘映画は苦手。正直言って、アンデッドと戦う
バイオハザード』よりも、生身の人間同士が殺しあう、
戦闘シーン、戦争映画、その場面に直面するのが嫌なのだ。


だから、スタローンの作品の中で気に入っているのは、
『ナイト・ホークス』のようなもの。『クリフ・ハンガー』の類。
この手のアクションものならまだ受け入れられる。
今回の鑑賞は、還暦を過ぎた彼に対する一種の儀礼的度合の方が高い。
何しろ体を張ってアクションをする歳ではないのだから。


この夜、レディスデー。館内には10人もいなかった。ランボー最期の戦場。
先に観ている家人からの情報違わず、私の苦手なシーンの連続。
『キリング・フィールド』『プライベート・ライアン』を足して2で割ったような。
全くやりきれない残酷な場面が続く。青少年に見せる内容ではない。
この残酷さを描かなければ、反戦や平和活動には繋がらないのだろうか。


そして、映画の中でも無邪気に活動する人々への皮肉が描かれる。
キリスト教精神・ボランティア精神にのっとった人々の、
呆れるほど無知で純粋な平和願望。善意や理想の彼方行き着くまでの過程を、
何も知らないのだろうかと思えるほどの、単純明快さ。


主人公ランボーは自らを語ることなく、必死で活動。
無目的に生きるか、目的のために死ぬか。
傭兵部隊とは異なり、無償で命を懸けて守りたいものを守ろうとする切なさ。
血みどろになっているのは、その体ではなく心なのに。
誰も気付かず、彼に労わりや癒し、直接的な感謝がもたらされる事は無い。


自分たちが置かれている世界の過酷な状況から逃げ出すすべを持たない人々。
彼らの能天気な無邪気さ、理想主義を見ていると、腹立たしさの余り、
状況が悪ければ見捨てて帰ろうと判断している傭兵たちの方が、
よっぽどまともに見えて仕方が無い。
狂気の沙汰としか思えない危険な援助活動。
それは、実質子供染みたヒロイズムでしかないのではないか。
そんな、皮肉がありありと感じられる。


自分の血に塗れることなく、他人の血を浴びることで、
やっと現状を認識し、理想の儚さ、自らの無力さ、無垢な罪深さを意識する女性。
薄い金髪の彼女を見ていると、恐怖映画の血まみれの主人公『キャリー』を連想。
彼女のお姫様的な良心的発言に応えようとしているランボーの方が、
お人よしであり、より痛ましく嘆かわしい。


救出される側、救出する側の決定的な違いを、露骨なまでに見せ付ける場面。
認識の甘さ、実力・戦力・権力・行動力のなさ。
しょせん救出活動は国を挙げての政策的なものではなく、
教会側の潤沢な活動資金を背景にした個人的な救出作戦に過ぎない。
国の為でもなく、自分自身の為にというが、
結局は頼られる側は、どれほど報われていると言うのか。


女性の一言から「何も変わらない」はずの世界が、
反乱軍の攻勢で変わったように描写されているものの、
家人曰く、「辺境の一反乱軍の勝利が国全体を動かすとは思えない」
あっさりと切り捨てられてしまった。


故郷に帰るランポーは、何を期待して故郷に臨むのだろう。
余りにも殺戮の続いた後で、穏やかな牧場・農園の景色は、
彼を受け入れて癒す事のできる、
これからの人生を支えて余りあるものだと言うのか。
今更この風景をこの映画に据えてどうなると言うんだろう?


映画が特撮とCGの賜物で作られているとしても、虐殺シーンは忘れられない。
人間が人間をどのように扱うか、アウシュビッツのように、
焼き討ちのように、焚書坑儒のように、かくも人間が愚かしく、
限りなく残酷になれることの証明する映画。
非常事態に抗う救世主なんて、現実にいやしないから成立する映画。


そんな映画館を後にして、お土産のアイスを片手に帰宅する。
当たり前の幸せな夜。全く世界は皮肉でささやかな平和に満ちている。
悲惨でいかんともし難い不幸せを目にしない、
傲慢なまでの平和に守られて盲目になっている。
哀しいまでに当たり前に幸せな、平凡な夜を過ごして、
今日もまた、時間が流れる。

主よ、人の望みの喜びよ~バッハ:管弦楽名曲集

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フォーレ: レクイエム

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