Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

ピアノと社会見学

娘は朝からハイ。いや、昨夜もハイ。何故か、調子がハイ。
何しろ普段はぶつぶつ言いながら練習しているピアノ、
どういうわけか、昨日は2時間余り弾いていた。
途中休憩もしていたけれど、何だかいつもより色々弾いていた。
まあ、木曜日はたかだか30分といえど個人レッスンの日だから、
ちゃんと練習していないといけないのだけれど、
それにしてもいつもと様子が違う。
熱心? いやそういう雰囲気とは少し違うような・・・。


夜も10時前になってやっとやめようかという雰囲気。
田舎の都会に住んでいるので、近所迷惑を心配せずに
ピアノに向かうことができるのが幸い。
それにしても、それにしても・・・?
娘が嬉しそうに楽しそうに言う。
「お母さん、ハノンって凄いねえ、
 この頃物凄く指が速く動くようになったんだよ。」


どうやらえっちらおっちら弾いていた曲が、というか
「えっちらおっちら」から「すらすら」に近いような感触、
手応えでも感じるようになってきたのか。
自分で思うように指が動かない歯がゆさを感じるようになってきたと同時に、
自分の思い通りに指が動く楽しさ、弾き応えを感じるようになってきたのか。
だとしたら、しめたものだ。そうなれば、有難い。


自分なりの理想、あらまほしきイメージに到達したいという欲が、
どのように練習すれば、どんな風に指が動くかを実感できる。
そんな体験を何度も何度もして、いつの間にか指は自分の一部、
意識して動かすことのできる体の一部として成長し、
最後には意識せずとも動いてくれている一部になる。
そして、心は曲のイメージを指は忠実な再現者として、
メロディを、確かな音を、豊かな自分の音を奏で始めるのだ。


運動も勉強も何事も基礎が肝心、反復練習は退屈でつらい。
画家がデッサンで引く何万本もの線、描く形。
小学生が感じ練習帳のマスを埋めて覚える、漢字・語句の多さ。
朗読から体得する言葉のリズム、抑揚、トーン。
加減乗除、単純な計算をこなす先に取り組む文章題。
何事にも助走が必要、高く飛び、速く走り、遠くまで行くために。


ピアノだってそう。年中・年長・小1・小2・小3と5年目。
私も背伸びして『乙女の祈り』なんか弾いていた頃。
君だって、娘よ。欲を出して色んな曲を弾いてみる時だ。
君だって、娘よ。自分の指や感性に合った曲を弾いてみたくなる時だ。
流行の曲もいいけれど、下手に弾けば指が荒れる。
スタンダードが、基本に忠実が、弾くことに対してタフな指を作る。


楽しければいい、面白ければいいでは済まない時がある。
何をどうしてもやりこなし、やりおおせて、完璧でなくてもいい、
ある一定のところまでやってみないと見えてこないことがある。
それはかーちゃんが大人になって、仕事もそうなんだと思えるように。
子供のときの勉強だって、運動だって、ピアノだって同じ。
ある一定のものが見えたり聞こえたりわかったりするのに、
感じるようになることさえも、地道な過程が必要。


心にも体にも基礎体力が必要なように、その反復練習。
それにいくら時間を掛けてきたかで、決まるものがある。
その繰り返し、単調な雨垂れがいつかは穴を穿つ。
ある一瞬、何もかも飛び越えてしまったようにみえるもの、
わかるもの感じるものがある。そして、その瞬間、
今まで苦しかったことが嘘のように感じられる。
まるで涼しい風に吹かれて、一服しながら
来た道を行く道を峠から見ることができるように。

全訳ハノンピアノ教本 全音ピアノライブラリー

全訳ハノンピアノ教本 全音ピアノライブラリー

バーナムピアノテクニック(1)

バーナムピアノテクニック(1)


「ハノンのお陰で随分速く指が動くようになったしねえ、
 色んなリズムが弾けるんだよ。バーナムなんか楽々になってきた。」
ふうん、そんな感じ方をするようになってきたんだ。
まだまだ楽譜が読めずに、嘘八百弾いてみたりするけれど、
そういう感触を、手応えを感じて指が軽く動くようになってくると、
色んな曲を弾くのも楽しくなってくる。
沢山字が読めると、読む速度も上がり色んなお話が読めるように、ね。


というわけで、いつもは「あー、今日は個人レッスンだ」と
憂鬱な顔をしている娘が朝からハイだ。
と思っていたら、え? 今日は社会見学? お弁当いらない社会見学?
みんなでバスに乗って、M大学の食堂で500円で好きなもの食べる?
最近の社会見学って、大学の学食体験なの?
だから、食いしん坊で外食が大好きな君、
今日の社会見学が楽しみで、それで、朝からハイなの?


昨夜の感激を引きずって朝を迎えている私が、親馬鹿だったのか?
まあ、いい。機嫌よく学校へ行って、ピアノに行ってくれれば。
そして夕方、個人レッスンの終わる時間に職場からピックアップに行く。
すると、受付の人と娘が妙な顔をしている。
愕然とする。娘が開口一番。「今日ねー、レッスンお休みだった」
「はあ?」「私、先週連絡聞いていたのに、忘れていたみたい」


弾ける弾ける楽しいと、指が動くとハイに2時間余り練習して、
楽しい楽しい社会見学の後にレッスンに行けば、お休み。
・・・一瞬かーちゃん、脱力。職場から急いで直行して来たのに。
娘は1時間足らず、算数ドリルをして自習していたとのこと。
(これがまた、全然解けていないので、かーちゃんがっくり)
それにしても、まあ、誰に似たんだかねえ。
このあわてんぼで忘れっぽいのは・・・。それは、私。


昨日グループレッスンの時に、家に電話を入れて
「おかーさん、お財布忘れたからお家から持ってきてね」と連絡。
財布無しに職場に行ったかーちゃんです。
このあわてんぼうというか、忘れっぽく妙にハイな性格は
紛れも無く私に似たのかも・・・。
子供時代、こんなふうだったかしらんとは思うけれど。


牛乳屋さん、大学、食堂で好きなものを選んで学食体験、
それからバスで、この地域の大きなため池を見学に行ったそう。
春先はたしか宅急便の運送会社を見に行ってたなあ。
社会見学とはいわず、町探検とかいう教材だったっけ。
で、何を食べたわけ? 
「えーと、かしわの唐揚げ甘酢あんかけとね・・・」
食べ物の話題で盛り上がる。誰に似たんだか、ねえ。
紛れも無く私譲り。


「あのね、大学は中には入れなかったけれどチャペルもあったよ。」
そう、そこには小さいけれど立派なパイプオルガンがある。
そこでクリスマスコンサートをする。小さい時に見せたけれど、
君は途中から退屈して寝ちゃったんだよ。ハンドベルの演奏も。
でも、チャペルがあるのに気が付いたんだね。
では、今年は聞きに行ってみるかな、久しぶりに。
あの時一緒に聞きに行ったおばあちゃんは、もう無理かもしれないけれど。


今、君が弾いているガボットサラバンドも、
あのパイプオルガンで弾けば、さぞかし昔めいて素晴らしいだろうに。
当時の音色を想像してハイになる私。これしきのことで気分高揚。
娘の弾くピアノが、昔の楽譜から未来に繋がる音を紡ぐ。
その音色を想像して、思い込みの強いかーちゃんはハイになる。
そんな木曜日の夕暮れ。とっぷりと暮れている。

ベスト・バロック100

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名器の響き 鍵盤楽器の歴史的名器(再プレス)

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