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分銅惇作の名を見つけ

懐かしい名前をネット上で見つけた。例によって訃報欄。
忙しくてチェックしなかったり、忘れていたり、
そんなことはしょっちゅうだけれど、
トリックで有名な作家が無くなってそちらに気を取られていたら、
高校・大学時代お世話になった先生が、身罷られていたのを知った。
非常に珍しい名字なので、ずっと記憶に残っていた。
同時に、この先生の名前は学生時代の思い出に繋がる。


日本文学、古典が専門とはいえ殆ど日本文学を読まない学生。
かろうじて韻文程度、気が向けば読む。詩が一番好きだったが
近代文学を専攻しなかったのは、先生がいなかったから。それだけ。
韻文関係は古典の先生のみ。当時から日本文学科はマイナー科目だ。
卒業後も自分で読んだ数少ない近代文学関係の本の著者。
分銅惇作先生の名前は懐かしい。


何故かしら、分銅惇作と見ると吉田精一の名前を連想し、
小西甚一と繋がる。高校時代に買わされた分厚い古典の参考書、
その他の教科とは別格の分厚い問題集。
つまり、2月受験シーズン、受験勉強の思い出に繋がる。
直接教えを請うた訳ではない、お目に掛かったことも無い。
されど、私と同じ世代であれば、受験生ならば、似たような問題集、
同じような参考書、そういうものにお世話になったと思う。


例えば「金田一」の字を見ただけで、国語辞典を連想するように。
蛍雪時代、赤尾の豆単、標準問題精講、大学への数学、チャート式、
自由自在、傾向と対策、しけ単・しけ熟、赤本、荒巻鉄雄の英語、
旺文社、受験研究社、数研出版、高校で買った物以外、
それほど沢山買えなかったあの頃。
問題集の著者・編者は面識が無くても、影響力大。
ある意味その本と相性が合わないと、勉強がはかどらない。


そして受験勉強というと、模擬テスト、大学受験ラジオ講座
余裕のある人間は「100万人の英語」も聞いていたかもしれない。
予備校に行く費用も時間も無い人間は、深夜放送で鍛えたラジオ耳を、
ラジオ全盛の時代にふさわしい講座で勉強したものだ。
「基礎英語」「続基礎英語」「中学生の勉強室」がNHK
高校時代は、ブラームスの音楽も懐かしい「大学受験講座ラジオテキスト」
色んな先生の語り口も、真面目に聞かなかった私には記憶の彼方だが、
テキストは読むだけでも楽しかった。解説や解法も詳しかった。
理系だったくせに、最終的に文系学部に進学した家人は、「寺田の数学」や、
英語のJ・B・ハリス先生が懐かしむ。

近代の文章

近代の文章

宮沢賢治入門

宮沢賢治入門


懐かしい名前を見て思わず検索すると、同じように懐かしんでいる人の
ブログを見つけた。

日本語教師・奥村隆信 ひとり語りのこちら、
記事 小西甚一先生、ご逝去
   分銅惇作先生、ご逝去逝去
やっぱり直接習った方々は思い入れが違う。
でも、その当時の空気、雰囲気、思い出に何かしら似通った、
共通の思い出を見出して、色々数珠繋ぎに記憶の断片が蘇る。


今から振り返れば、ラジオ講座の先生方、問題集の先生方、
そうそうたるメンバーだったんだよね。
今でも実家を探せば、何冊か出てくるはずだ。
当時の問題集も捨てずに残しておいたはず。
その手の世界では、かなり高価に取引されているとか。
(よく考えると、受験問題集を捨てないでいるのはかなり自虐的な気もする)


学生時代、好きで選んだのに打ち込めなかった文学を、
文学らしい文学の世界を遠ざかった今でも、
若く無防備な感性で、何処まで広がっているのかわからぬ世界を
覗き見するように学んでいた頃。
その頃を懐かしむスイッチが一人の名前から蘇る。
その、無知なる知の冒険の時代、若き頃の思い出が蘇る。


思えば、知らず知らず多くの人に御世話になりながら
何も返せぬまま、別れていくことよ。
新聞の片隅に載る筈もない、無名の人間である私、私達。
市井の片隅で、ささやかな生活を営む私達。
私小説的に綴る公開日記のブログでさえも、匿名の彼方にある私。


同じく、普段読ませて頂いている、訪れている様々なブログの方々も、
書くのをやめる、筆をおくだけでなく、
ある日突然フェイドアウトしてしまうこともあるのだな、
自分もその中の一人なのだなと、改めて意識させられる。
直接会ったわけでもない。単なる問題集の著者じゃないか、
ラジオ講座の講師の一人じゃないか、そんなふうに割り切ってしまうには、
余りにも懐かしい青春の思い出と結びつく御名前。
その方が、親の世代の人が、だんだん遠ざかる。
その人が世間に与えた影響の大きさは、目に見えないものだ。
けれども、パソコンで繋がるのとは異なる、
あのラジオが生活の一部だった時代。


私達はいつの間にかリスナーからブロガーになり、
共に聴く仲間から、一体何に変化したというのだろうか。
そんな事を考えながら、いつの間にかあっという間に時間が過ぎる。
若くても年老いていても、同じだけ過ぎていく時間のはずなのに、
その重みの、その中身の、その思い入れの余りの差に、
苦笑しながら過ぎていく。

セブンティーズ―1970年代のこと。懐かし、新鮮ストーリー (Vol.1) (Cartop mook)

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素直な戦士たち (新潮文庫)

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