Festina Lente2

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ツタンカーメンの豆ご飯

我が家にツタンカーメンのえんどう豆がやって来たのは何時だろう。
かれこれ四半世紀は食べていると思う。
母が職場から持って来たのではなかったか。
実家の春の庭はオーソドックスな緑の豆と、
ほんのり赤みがかったというか、紫がかった鞘に、
あけてみると何の変哲もない緑色の豆。
童話に出てくるえんどう豆には違いないのに、
あーら不思議。豆ご飯に夕方炊いて、
翌朝見ると、ご飯は真っ赤に染まってお赤飯。
むろん豆も緑から小豆色に変わっている。
一粒で2度美味しい、いや、2度楽しめるツタンカーメンの豆ご飯。


大事に大事に毎年植えている実家だが、
他のえんどうと交配したのか、ややお赤飯の色が薄くなってきたような。
気のせいか、まあ、それほど気にしなくてもいいか。
普通のえんどう豆、つまりグリンピースの豆ご飯と香りが違う。
むっとしないというか、とっても食べやすい。
お陰で我が家の豆ご飯はお握りにして昼に食べていたりすると、
お赤飯お握りを食べていると間違われてしまう。


いつ、どんな繋がりで我が家にやってきたのか。
最初の頃はすう粒の豆だったはずなのに、
毎年二畝ほどこのツタンカーメンのえんどう豆に割いている。
老父は作り過ぎてしまったなあとこぼす。
私達が食べきれないくらい今年は豊作だった。
それで、庭を侵食してくる筍同様今年は人様にお配りすることに。

ニッポンの縁起食―なぜ「赤飯」を炊くのか (生活人新書)

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どさんこソウルフード―君は甘納豆赤飯を愛せるか!

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小さい子どもで稀に、いや、大人でもグリンピースが苦手という人がいる。
我が家の娘もふんだんに豆ご飯を食べさせられたせいか、
もう嫌だと文句ばかり。実家の野菜を消費するためには、
毎日同じ食材を使う羽目になるので、勢いメニューが偏り勝ち。
ツタンカーメンの豆はいり卵などに一緒に使うと、
卵の黄色がくすんでしまうので使えない。
やっぱり豆ご飯、赤飯風豆ご飯が一番。


赤飯なんて徒娘はむくれる。
贅沢な時代に育った人間には、もはや赤飯はご馳走ではない。
鳴門に住んでいる時に、赤飯に砂糖を盛られてお裾分けを頂いた時は、」
かつての塩田地帯のご馳走とはこういうものかと仰天したが、
今の時代でも、赤飯に砂糖でお祭りお祝い事をしているだろうか。
先日はTVで赤飯に饅頭を入れて包み、それがおやつだという番組。
所変われば食べ方変わるで、赤飯がおやつか・・・とびっくりした。


本日、鞘に入ったままの豆袋を4つ持ってウロウロ。
殿方は自分で料理をしないし、豆ご飯は好き嫌いがある。
どなたにお裾分けしたものか。
一つは同い年の同僚に。彼女は味噌まで手作りの料理好き。
今一つは若手で大食漢、作るも食べるも大好きの彼女に。
そしてもう一つは、一見赤飯お握りに見える私のご飯に、
興味津々だった先輩に。


そして最後の一つは職場復帰を果たした後輩に。
彼女は急性尿毒症になりかけてICUから戻ってきた。
自分でも何がどうなったのかわからない、
それほどしんどいとは思っていなかったけれど、
急に調子が悪くなってそのまま入院、病院の中で、
本人曰く何もわからなくなったけれど、
周囲はてんやわんやになったという。


気が付くと体中あちこちに管が通され、
「わかる? 聞こえる? 死に掛けたんだよ」と話しかけられたそう。
その後も意識がはっきりして周りのことがわかるまで、
かなりかかったのだとか・・・。
職場にいる私達は、本当に何も知らされていなくて、
部屋が違うと用事がない限り滅多に行き来しないせいもあり、
年度末体調崩したんだねえと、去年の自分を振り返って思っていたら、
単なる入院どころか命のやり取り、死に掛けていた。


私達には何も詳しいことは知らされない。
1ヶ月では戻って来られないらしいよ、
そういう診断書が出ていたらしいよ、
その程度の情報しか入ってこなかった。
久しぶりに彼女の姿を見てびっくり。
肩を過ぎていた髪がばっさりショートカットに。
でも、元気そう。


ひとしきり四方山話。入院談義。家庭の話。
そう、この年齢になってくると色々あるんだよね。
でも家族にも色々あって、自分のことが後回しになる。
気が付いた時には、何だかおかしいなと思った時には、
まだまだ大丈夫だからと思っていたのに、
何だか世界が一瞬にして崩れ落ちる。
視界がぼやけ、足元が不確かになり、痛みや息苦しさで一杯になる。


気のせい、疲れているだけ。一晩寝たらどうってことない、
誰でも感じているだるさ、けだるさ、やるせなさ。
こんなことでいつもの生活を変えるわけには行かない。
仕事を休むわけには、家事を放り出すわけには、
そんなふうに思ってごまかしごまかし、気付かない振りをして、
心の片隅で点滅する危険信号をやり過ごす。
無意識に見ないようにする。
・・・そのうち、本当に見えなくなる。
何もかもわからないような感覚に陥る。
その時にはもう動けない。


彼女と雑談のひと時、復帰祝いにしてねと
ツタンカーメンの豆を渡した。
お赤飯代わりにもち米を少し入れて炊いてね。
時間が経つと、赤い豆ご飯に変身するから。
健康に良いとされる赤い色、ポリフェノール
身体は自分だけのものじゃない私達、
美味しいもの食べて頑張ろうね。


しんどいとは誰も言わない。
気が付いた時には、誰かが欠けている。
あの部署は、去年1年以上も休んでいた人が復帰し、
やれやれ人数が揃ったと思ったら、彼女が倒れ、
彼も転勤し・・・。バランスが悪い部署は一気に崩れる。
そんなふうにしんどさが凝り固まっている。
職場の中で、部署の中で、ワークバランスは常に危うい。
これで磐石ということがない。


せめて、あかまんま、ツタンカーメンのえんどう豆で、
美味しいご飯を食べてください。
遥か彼方から受け継がれてきた異国の豆の、
不思議な力で私達の食卓が豊かになりますよう。
家族でお膳を囲む幸せを実感できますよう、
美味しく食事ができますように。

しあわせ豆料理

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ビーン・ブック―世界の豆料理「オードブルからデザートまで」

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