Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

真夏の真昼の崇禅寺

昨日に続き出張の二日目。本当にここは昼食を取る場所がない。
せっかく見知らぬ土地に来たら、そこでふらりと外食を。
そんな風に思っている私にとって、何も無い駅前は困ってしまう。
駅の名前から色々ありそうだと思うのに、何もない。
考えてみれば、浄水場付近の桜並木の道ではないかと気を取り直し、
記憶を辿ってスーパーマーケットを見つけて、買い物。
地図を頼りに駅名となっている寺へ向かった。

  


幸いなことに、墓参の為の休憩所には屋根も椅子もあり、
誰もいない閑散とした所でささやかな昼餉を摂った。
聞こえるのは蝉時雨ばかり。これでも昨日に比べれば曇り気味? 
いやいや十分に暑くてたまらない昼下がりの崇禅寺
昨日のこれまた寂びれた寿司屋で仕入れた情報。
細川ガラシャの墓があるという崇禅寺
これは行かずばなるまいと来てみたのだが、
本当に人がいない。それほど有名ではないのだろうか?


実は敬虔なる信心は持ち合わせていないが、実家は曹洞宗
この寺もそうだと知ってびっくり。確かに名前からして、
禅宗の寺だし、最初は墓地のある駐車場側から入ったが、
後でわざわざ観に行った閉じられた正門には、
初めて目にした「葷酒山門に入るを許さず」の石碑。うむ、間違いない。


平成の御世に立て直された寺院はモダンな雰囲気の石庭を持ち、平明な佇まい。
その殆んどが戦災で失われたのだろうか、
僅かに残る昔のままの石の観音像や地蔵、お稲荷様。
寺院の庭の片隅に祭られている。


お目当ての細川ガラシャの墓と称されるものは、
寺院の裏手の奥まった所にあった。
足利義教公の首塚(中央)
徳叟亨隣大和尚の墓(右)
細川ガラシヤ夫人の墓(左)

  


数奇な運命を辿った殉教者。名家に生まれ、
智将とも謀反人とも言われた人を父に持ち、
絶世の美女として名高く、夫忠興の嫉妬と束縛に悩み、
関が原の戦の前に人質として敵の手に掛かるよりも
死を選んだ気高い女性。
むろんキリスト教では自殺は許されない。
よって夫の命の自害ではなく、家臣に胸を突かせ、
屋敷に火を放たせたという、壮烈な最期。
ザビエルの弟子が骨を拾ったのだそうだ。
その時世の歌。


ちりぬべき 時知りてこそ 世の中の 
          花も花なれ人も人なれ



確か、サクレ・クールのモザイク天井に描かれた殉教者で東洋の女性は、
このお玉こと細川ガラシャではなかったか。
(大昔の旅行中の、うろ覚えの記憶です)
何しろ、オペラにまでなって、マリア・テレジア
マリー・アントワネットエリザベートにまで感銘を与えたぐらいだから。


私は知らなかったが、この寺の境内にて卑怯なる者の手で
命を落とした江戸時代の武士、遠城兄弟の墓もあった。
先に殺された弟の敵を討とうとして兄も返り討ち。
正義がいつも勝つとは限らない。
ここは、報われぬ悲惨な最期を庶民が守り伝えてきた場所。



崇禅寺の墓地で思いがけずも見つけたものは、
戦災を今の世に伝える犠牲者の碑だった。
平成17年に建てられた「東淀川区戦没者之碑」
大阪は勿論空襲を経験し、多数の犠牲者を出した。
貴重な歴史遺産とて戦災を免れえず、
当時の村や町から出征した人々の殆んどは帰ってこなかった。

  
  
  
  


江戸時代の墓石も残る古い墓地。
昔の道しるべもそのまま残されている。
静かに青もみじが揺れ、赤い百日紅が咲いていた。
そして、最近の新しい墓地の奥まった所に、
こんなものもあったのだった。

  
  
  
  


鳩の気配に奥へ行けば、夢殿風の建物。
永代納骨堂。十一面観音像は聖徳太子の作とか。
中に安置されている仏様に逢う事は叶わないが、
確かに小さな聖徳太子像が芝生の上に。
そう、鳩が羽を休めていた蹲(つくばい)に目が行かなければ気づかなかった。
こは、いかに?


  


「貴為和以」聖徳太子十六歳の似姿らしい。
しかし、反対側の側面には、昭和43年に建てられた
東淀川区の戦没記念者のための碑であり、よく観ると
「碑下に有縁の遺髪を納め永く世の安泰を願う」とあった。
人の和、社会の和、世界の和なくして平安は訪れない。



思えば戦乱の世に生まれなければ、哀しい死を迎える事もなかった細川ガラシャ
明治維新後も絶えず戦乱は庶民を脅かし、
廃仏毀釈で多くの神社仏閣が壊されたのは勿論、
軍国主義の政治下、戦乱で十把一絡げに人の命も物も何もかも粗末に扱われた。


静かな寺の昼下がり、私は一人で境内を徘徊する。
出張がなければ観に来る事もなかった崇禅寺
様々なことを思い出させてくれ、考えさせられた時間。
貴重な昼休みを終えて、仕事に戻る。

細川ガラシャ―散りぬべき時知りてこそ (ミネルヴァ日本評伝選)

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細川ガラシャ夫人―Lady Gracia

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