Festina Lente2

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幸せの雨傘

通院時、気晴らしが欲しいもの。
昨日は『幸せの雨傘』(原題POTICHE)を見てきた。
ひとえに、あの『シェルブールの雨傘』名女優、
カトリーヌ・ドヌーブに会いたいがため。と言っても、
私の記憶の中にある彼女の姿は『昼顔』の方が強烈なのだけれど。
(最近見たのは深夜TVで『ストーン・カウンシル』)
今回はどんなものか、娘は興味を持ってくれたものの、
一緒に見に行く時間はなく、近所のシネコンでは見ることができず
家人からはそっぽを向かれ、通院時に気分転換映画。


年は取っても往年の大女優。時代設定は20世紀後半とはいえ、
赤いジャージ姿で森の中をジョギングする姿からオープニング、
ブルジョワの奥様然とした雰囲気、よく見るとジャージにエプロン、
おまけに料理しながらエプロンで手を拭いている、あれまあ。
父親に似て権威主義の、少々右翼がかった娘。
芸術家肌の左翼がかった息子、その対照的なバランスもさることながら、
こんな横暴な専制君主の下で、「お母さんみたいな人生は歩みたくない、
飾り壺の人生なんか」と娘に言われている、その奥様の大変身。
これがこの映画のみもの。


心臓を病んで倒れた夫に代わって、自分の持参金代わりと称していた、
父親譲りの雨傘工場再生に乗り出す、その展開もさることながら、
かつての情事の相手との交渉、ちょっとしたデートなど、
いかにもフランスらしい恋愛至上主義的な演出が滑稽。
そのお相手がかのジェラール・ドパルデューとあっては。
彼に関しては、『グリーン・カード』の頃から知っているが、
将来を望まれていた息子を失い、どうしていたかと思っていたので、
銀幕での姿に色々考え重ねて見てしまい、複雑な心境。
話の中で、情事の相手の息子が自分の息子かもしれないと、
うきうきしたりがっかりしたりするシーンは、ちょっと酷な気も。


女性として母として強く逞しく生きるドヌーブの姿と、
もしかして自分の息子かもしれないと期待して若者を見つめている、
ドバルデューの姿に、役者としての演技以上に現実が重なる。
そんな見方をしてしまうのは、自分が年を取ったせいだろう。
役者の私生活と映画の中での役柄と、自分の人生とを、
何がしかの接点、類似点、気になること、あれこれ見つけてしまう。


生活や責任が重い、役目や期待から逃れることは出来ない。
親子の葛藤、世代交代、遠ざかる青春、自らの老い、
自分は何をして生きてきたのだろう、何を残せるのだろう、
為したと思っていたはずのことは幻影であったり、
信じていたと思っていたはずのことに裏切られたり、
蓋をして忘れたはずの出来事が蘇って来たりと、
なかなか考えさせられる。
楽しい映画のはずなのに、後味は苦い。


だって、人生は素晴らしいなんて歌っているエンディング。
それはある意味、苦味があるからこそ甘い。
甘いからこそ苦い、そんな意味だもの。
人生は素晴らしいなんて、素晴らしくあるためには、
悲喜こもごも、そこから逃れることはできないのだから。
「家にいて、綺麗に着飾り、詩でも書いていろ」とお飾りの存在に
耐えられなくなる自立を目指すブルジョア女性の人生と、
21世紀になった今の時代との共通点があり過ぎて、
余りにも隔たりがなさ過ぎて、哀しくなってしまう。


政治も経営も一部の女性がようやっと手に入れているだけで、
世間ではそんなに表立って活動できているわけではない。
女性の活躍や快挙が今でもニュースになるのは、
そういう活動や成功がごく一部の人のものだから。
そのことを否が応でも意識させられてしまう、映画。
となれば、今日のレディスデーの女性の観客の多さよ。
そして、この映画を見ている男性の少なさよ。

Potiche

Potiche



年を取っても素敵なカトリーヌ・ドヌーブ。
ジョギングし、若い頃の情事の相手としんみりしつつも、
大事なことは忘れず駆け引き、しっかり交渉。
母、妻、仕事を持つ女性として色んな表情を見せていて楽しかった・・・。


いかにもブルジョワの調度品や服装もさることながら、
色恋沙汰のエピソードが「青春の思い出」として片付けられていて、
もっとスキャンダラスな大ごとになってもいいはずなのに、
さすが恋愛の国、この展開はフランスの映画だと再認識させられる。
『昼顔』のイメージが鮮明な私には、物語のキワドイエピソードにドキドキ。
とてもじゃないけれど、あっさりと「青春の思い出」という一言で、
済ませられるレベルじゃないけれどと、お堅く考えてしまう。


「飾り壺」という原題も映画のラストでは、
空っぽの壺じゃなかった、
中身が詰まっていたと称されているけれど、
ユング的には壺はもともと女性だし、空だろうが詰まってようが、
本人の問題と見るか、見る側の周囲の問題と取るか、
女性自身の問題と女性を取り巻く問題は根深い。
そんな意味深なものを、あっさり片付けてよいものだろうかと。


見ようによってはなかなか迫力のある、一人の女性の成長譚。
「素晴らしき人生」そんな風に歌える、歌って終わるエンディング、
シャンソンで締めくくるフランス的結末?
リセットした自分の在り方を「素晴らしき人生」と鼓舞する、
そういう生き方、年齢の重ね方をアピール?


少しく真似をしてみたいものだとは思うけれど、
自分には出来そうに無いなあと、改めてしみじみ。
昨日はそんな映画を見た。
それにしても、人生に雨は付き物。
人生の上に広げる雨傘を、幾つ人は持っているだろうか。
新しい雨傘を、古いものを? そんな風に思いながら。
雨傘を開くのは誰、作るのは誰、繕うのは。


そんな風に考えながら、昨日の今日。
相変わらず、口の中には違和感。仮歯に違和感。

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