Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

音楽を思い出せない

娘の熱が36度台に下がるのを確認して、午後から出勤。
こんな風に心配して傍にいるのも久しぶり。
しかし、今日は木曜日。ボランティアの日だ。
今日は意識して仕事を切り上げ、定時でバス停へ。
駅は各駅停車。大阪市内までは近いようで遠い。


相変わらず仕事は殺伐としている。
埋まらない穴を埋めている、そんな気がする。
心を許せる人間が休暇を取って海外に。
それはそれでこの時期、少々羨ましくもある。
会議に次ぐ会議は非効率的。ため息混じりに時間が過ぎる。
春先だというのに、あちこちに隙間風が吹いているよう。
出来ないことは出来ない。そう正直に言うと風当たりはきつい。
自分のキャパシティ以上のことを引き受けていると思う。
事実、本来ならば誰かがやらなくてはならないことを、
二重に引き受けている。
それで、あれもこれもと言われると、きつい。


度量が無い、肝が据わっていない、サービス精神が無い。
何と言われようと、請け負っている範囲と量が違うとしか言えない。
私がわがまま? できないことをできるとは言えない。
できることをできないとは言えない。
できるかどうかわからない。
やり遂げる決心よりも不安の方が大きい事を、正直に口に出す。
それは大人気ないことなのか。
鬱屈した思いを引きずったまま、再び夜のボランティアへ


帰宅後、目にした寂しいニュース。
ジェネシスのドラマー兼ヴォーカルだった、
あのフィルコリンズが音楽会から引退。
二人の幼い小学生のよき父親でありたいと言う。
もっとも最近の彼は脊髄を痛めて術後、ピアノやドラムの演奏が難しくなったそうだ。
彼の20代からの演奏を知っているだけに、余りにも残念なニュース。
10代の終わり、高校3年の受験勉強と恋愛との間を行ったり来たりの悩み多き頃、
『幻惑のスーパーライブ』というLPは私の心の支えの一つだった。

セカンズ・アウト(眩惑のスーパー・ライヴ)(紙ジャケット仕様)

セカンズ・アウト(眩惑のスーパー・ライヴ)(紙ジャケット仕様)

ザ・ラム・ライズ・ダウン・オン・ブロードウェイ

ザ・ラム・ライズ・ダウン・オン・ブロードウェイ


ピーター・ガブリエルが中心だった頃の初期ジェネシスは、
演劇的で神秘的な、そのミステリアスな舞台で有名だった。
無論音楽も素晴らしかったが、ダーク・サイドカラーが強くて、
ピーターが抜けた後のフィル・コリンズがジェネシス・カラーになり、
明るくエネルギッシュな世界が開け、リズムが弾け、
かつ繊細なキーボードと静かで渋いギターが脇を固めていた。


私は18だった。このLPから遡ってデビュー曲まで、
そして、同時進行でフィル・コリンズのジェネシスを聞き続けた。
ELPと同じく、ドラムス、ギター、キーボードの3人組。
ツアーの時にはダブルドラムスで演奏、ヴォーカルも務めた。
あの頃、私は音楽が自分の周りにあると信じていた。
外国に出かけてミュージカルを聞くのも、
日本でツアーコンサートを聞くのも、ひたすら楽しかった。


ELPは滅多に来日しない。プログレは下火だった。
でも、フィル・コリンズはソロでもヒットを飛ばし、
何度も来日して素晴らしいコンサートを聞かせてくれた。
あれから何年、いいえ、何十年。
気が付けば自分の人生も50年を超えて、フィルは還暦で引退。
そんな私は、音楽の「オ」もない生活の中、受話器を取り、
暗闇を覗き込むように話を聞き続ける。
人の心は漆黒の闇よりも深い。
そんな心の奥に響く音楽もあるのだろうか。


筆を置くようにスティックを置き、全盛期の声を封印して、
ツァーもコンサートもやめて、よき父親である生活を選ぶ。
私は何を選び何を諦め、何を得ることができるだろう。
音楽を聴く時間も心の余裕もなくしてしまって、
静寂の中を、すとんと心の暗闇の中に落ち込んでいる。
闇、静寂、闇、昔聞いた音楽、闇、静寂、懐かしいメロディ、
闇、静寂、心の底に響いた、リズム、歌声、コーラス。


思い出の中でフィルの歌声を聴いた。
でも、思い出の先っぽはどういうわけか遥か昔まで遡る。
『幻惑のスーパーライブ』2枚組を当時大好きだった彼に
貸した頃まで。あの頃18・9歳、
ELPジェネシスが大好きだった頃まで。
錯綜する、記憶と時間。あれから何年経った?
いいえ、何十年。


フィルは引退するって。
・・・私の定年はまだ先だ。10年は切ったけれど。
ねえ、聞こえている? 昔の曲を思い出せた?
音楽を忘れてしまった自分がいるなんて、
そんな自分が未来にいるなんて想像もできなかった。
今の私。LP世代はCDが苦手。
針を自分の手で置かないディスクから、遠ざかってしまった。
針からも、針を置くその瞬間からも、音楽そのものからも、
音楽を聴く自分からも、どんどん遠ざかっている。
あの頃の自分からどんどん。
ドップラー効果のサイレン。遥か、遠ざかる青春の音。

そして3人が残った(紙ジャケット仕様)

そして3人が残った(紙ジャケット仕様)

フィル・コリンズ 2(心の扉)

フィル・コリンズ 2(心の扉)