Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

ツーリスト

旅に出たいのは私。
家族を捨てたいわけではないが、旅に出たい。
とにかく仕事から離れたい。うんざりしている。
この年になっても年度末はしんどい。
新年度を迎えるに当たって、新しい希望、夢、期待、計画、
色んなものを抱えてモチベーションをあげようとするのだが、
今年ぐらい低くなった年も、近年稀と言わざるを得ない。


肝っ玉の据わった同僚は、何でもドンと来いタイプ。
残業はしない、定時上がり、
決して煙草を吸うための時間を惜しまない、休憩休息を絶対取るタイプ。
その代わり寸時の時間を惜しむことなく、
整理整頓はお手の物、仕事はバリバリこなすタイプだ。
真似したくても出来ない重機並みの仕事振り。
なのに、時間が空くと気軽にすぐに人の手伝いもする。
何故、そんな風に次々とこなせるのかと不思議になるくらい。


自分は平凡にあくせくしながら、螺旋階段を遅々として上れず、
そんな感じの仕事振り。そして小さな壁を乗り越えられずに
ふうふう言ってばかり。体だけではなく、精神的にも肥満体、
余計なコレステロールが付きまくって、気持ちの切り替え下手。
動きが鈍くなり、心が硬直?
毎日疲労困憊で帰宅しているかーちゃん、
バーちゃんの誕生日の甘いケーキを食べても、
なかなか機嫌が直らずしょんぼりしているかーちゃん。
(甘いもので元気になるのが通常のかーちゃんなのだが)


今の所、娘の卒業旅行にどこか二人で宿泊旅行をするのが夢。
それは1年先の話で、まだまだ実現は先の話。
ミステリアスな旅をしたいわけではない。
のんびりと日常(特に仕事)を忘れて、頭の中を空っぽにしたいだけ。
そんな日常からの逃避行を夢見ているかーちゃん、
仕事の現実、ニュースの紙面や画面に溢れる記事に辟易。
たった2時間余りの気分転換は、非現実の世界のベネチア旅行。
本日の映画は「ツーリスト」。


「エロイカより愛をこめて」の創りかた

「エロイカより愛をこめて」の創りかた


スパイ戦と思われる冒頭の張り込みシーン。
思わず往年のスパイ漫画『エロイカより愛を込めて』を思い出す。
それぐらい、漫画チックなリアル、とでも言えばいいだろうか。
何とも魅力的な衣装、モンローウォークではないが、
上品な衣装に尻尾のように揺れる飾りベルト、艶めかしい後ろ姿が美しい。
化粧の仕方が派手? 却って老けて見えるのだが・・・。
どんな女優だって年を取る。昔のイメージではいられない。
ミステリアスなヒロインが、現実的な立ち居振る舞いをするわけではない。


パリのカフェや駅、車内が諜報部員の暗躍する拠点だというのは、
物語や映画のお約束だが、それにしても下手な尾行と操作。
最初から滑稽さが滲む。おまけに必死になって追跡する側と、
その指令を受け取って動くイタリア側のインターポールとの温度差、
その下のイタリア警察の対応、何とも言えぬだるさ気だるさと小狡さ。
それに反してぴりぴりしているギャング達。

アクターズ・スタジオ ジョニー・デップ [DVD]

アクターズ・スタジオ ジョニー・デップ [DVD]


ジョニー・デップは好きな俳優の一人だ。
役者である自分の顔を極端にデフォルメする役柄にもためらわず、
汚らしい役から迫力・ユーモア、悲惨さ溢れる演技はもちろん、
時には美声も披露する。エキセントリックな役柄が多いが、
今回は普段の彼? を連想させるような、ざっくりもっさりした衣装。
旅行中のアメリカ人数学教師フランクという設定。


ただのツーリストのはずが、警察にインターポールに、
はたまた今回の騒動の原因になる相手と間違われ追われる羽目になる。
そのことを知らずに、問題の彼女、ミステリアスで豪華な美女に出会う、
国際列車の車内。そこでの会話がまた一捻りも二捻りもあって面白い。
ただの平凡な「ツーリスト」だったはずの彼が、
もう一人の謎めいた「ツーリスト」である彼女によって、
そのもっさりダサい雰囲気を引きずったまま、ベネチアへ。


水の都、ベネチアは多くの橋と迷路で成り立つ。
たった一度しか訪れたことはないが、死ぬまでにもう一度行きたい場所。
その波の上にたゆとう揺らめく不安定な物思いにも似て、
登場人物、組織、それぞれの様々な思惑が交錯し、
町を背景にしたアトラクションまがいの冒険活劇が繰り広げられる。


カフェ、地下鉄、国際列車、船、ホテル、ボート、空港、舞踏会、
人が行き交う点と線を、ロードムービーと水上アドベンチャー
銃撃戦、息詰まる謎解きまで後半のワクワク感は前半の停滞を
取り戻すかのような勢いで、ラストのどんでん返しになだれ込む。
罠に掛けたと思っていたはずの彼女は、彼の術中にはまっていた。
それは、なぜなら・・・。

ツーリスト [DVD]

ツーリスト [DVD]


主人公がダブルキャストである場合、双方が同じ強さを持たないと、
役柄どころか映画のストーリーそのものがずっこける。
活動的なイメージが強いアンジェリーナ・ジョリーが、
気だるい訳あり風の有閑マダム然として、トロくさいようでいながら、
要所要所は決めてさくさくと行動する辺り、奇妙な違和感を漂わせながら、
点から線へと異動し、思わぬところから現れ、信じられないほど行動力を駆使し、
ある時は強引に旅行客を自分の知り合いのように見せかけながら魅了し、
偶然を装って再開、豪華なホテルに招きいれ、食事を共にする。


ある時は優しく誘い、憂いに満ちた表情で、
また突然情熱的にキスを交わし、男を翻弄する。
引き寄せ、いきなり消え、表れ、救い出し、一方的に別れを告げ、
華やかに装い、究極の選択を迫られ、最後の最後まで、
かつて自分を「仕事」から「恋愛」に、ただの女にした男を待つ。
複線となるヤヌスの神話。二つの顔。
今回はそれが通奏低音だったのかと、これもラストで気付かされるが。


このミステリアスな女性の違和感を醸し出しているのは、
彼女の行動理由が心からのものなのか、誰かからの指示だけによるのか、
フランクを利用した良心の呵責からの行動なのか、
はたまた秘密の任務を帯びているせいなのか、
どうしようもなくありがちなたびの上でのアバンチュールにも似た恋のせいか、
様々な理由があるだろうが、どれをとっても一つに限定しきれない、
その背景がはっきりしないもやもやした所が、一つの見所だともいえる。


今回のヒロインの名前はエリーゼ
日本人には同じみの「エリーゼのために」のエリーゼを連想する人もあれば、
エリス、森鴎外の『舞姫』の薄幸のヒロインを思い出す人もいるかも。
しかし、このタフでしたたかで謎めいた哀しみを秘めている美女は、
仲間の元へも戻れず、愛する人をそれ以上とどめることもできない、
自分自身の立ち位置を失いかけている特別な諜報員。
諜報員に停職中も減ったくれもないような気もするが、
ターゲットに恋をしてミイラ取りがミイラになった設定。


本来ならばありえない、任務遂行失敗。
エリーズを、彼女を落とした男は誰か?
そんな嫉妬に駆られて組織も金もインターポールも動いているような、
一人の男を血祭りに上げるために、ベネチアに集結する熱気、
その中に平凡なフランクも巻き込まれた形で、
いつの間にかばっちり衣装を決めて格好よく登場?


舞踏会がクライマックスになると思いきや、最後の場所は、
複線よろしく金庫の模様がヤヌスの顔のレリーフ
エリーズの抱える恋のジレンマ、愛の行方を解決すべく
颯爽と現れ、そこで明かされるフランクの正体。
結局、ラストまで来て納得させられる。
少々予想されたことではあったけれど、敵を欺くには味方から。
この鉄則が、最大限に生かされた形でストーリーは大団円。
愛した男の行方は知れない。似た男を捜せと指示される。
自分を信じているならば、そうするようにという雲隠れしていた男から、
実は試されていたのは自分だったと気付いた時、物語は終わる。


女は港、男は船。そういうつもりはなかったのかもしれないが、
水の都の上で女を待たせて迎えにくる男の、
その登場の仕方がずるい。
長いブランクを経ても、まだ彼女が自分を愛しているかどうか、
試すために仕掛けた罠のような今回の旅行。
本当のツーリストは誰だったのか。
ツーリストの仕掛け人は?
二重にも三重にも網目を張り巡らされた作品の仕上がり。
異国情緒と冒険と謎解き、なかなか楽しめた。

迷宮都市ヴェネツィアを歩く―カラー版 (角川oneテーマ21)

迷宮都市ヴェネツィアを歩く―カラー版 (角川oneテーマ21)

世界ふれあい街歩き イタリア ベネチア [DVD]

世界ふれあい街歩き イタリア ベネチア [DVD]