Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

藍の館で藍染め体験 

徳島での朝は、いつもの「旅人の宿」から始まる。
勝手知ったるお遍路さんも愛用する旅の宿。
四国を巡る若者や1人旅の強い味方の宿だが、私たち家族の定宿だ。
書道のたしなみのあるオーナーの額、季節の雛飾り。
心華やぐ心遣いとその思い。
素直に旅の感動を受け止める気力や体力が、今の私にはあるか?


              


ここに初めて来たときは保育園児だった娘も、今や中学入学を迎える。
思い出深い定宿。しかし、年月は疾く過ぎゆく。
娘の幼い日の姿を探すように旅する私は、感傷的なのか。
幼い娘を守り育て、家族であることの喜びの多かった日々。
今は、何を考えているのかわからなくなった娘との接点を探す日々。

 
藍の館は初めて。娘と家人は2度目。
前回とは異なる作品を作るのだと意気込んでいる娘。
勝手がわからず思うような作品が作れずに気落ちする私。
何だか私はいつも同じようなことを公私共々繰り返している気がする。
出藍の誉れ」という言葉が好きだった。そんな自分でありたかった。
そんな娘を持ちたかった。娘の未来は未知数だが、私は知れている。


            


見本のようにできればいいが、どっと団体客が来て説明もおざなりに、
適当に作品を作る羽目になってしまった。手作業で行う体験のベルトコンベアー式は、
空いている時間帯を狙って来た意味がない。(この後殆ど誰も来なかったのに)
とりあえず綿マフラーを染めてみた。娘の手ぬぐいの模様はきれい。
あれ? アイロンを扱ったことのない娘は火傷してしまった。やれやれ。


         


藍染で財を成した豪商の生活ぶりを今に残すこの施設は、体験学習にもってこい。
郷土の歴史、日本の産業の歴史を知ることができる。
そして、贅を尽くした商家の権勢ぶりに驚かされる。
部屋のしつらえ、天井の張り方、特注で取り寄せられた建材、柱や欄間、
床や掛け軸、建具の一つ一つに至るまで、藍屋敷に込められた思い、
当時の暮らしぶりをほうふつとさせる調度品に魅せられる。


        


地味な色、藍、されど藍は貴重な財源であり、財力であった。
農民の色とされていたが、藍染でもって華やかな衣装を作り上げた。
多くの労働力と丁寧な手作業に支えられた藍の栽培、相場、染め。
地味派手な装い、藍染の型、技術、細やかな縫い仕事、
それらは全て過去のものになってしまったのだけれど。



ナマの尺八の演奏という者を、30年ぶりぐらいに聞いた。丁寧に屋敷のこと、調度について、
歴史も含めて、演奏付き。ボランティアの方だろうか、有り難いことである。



どんな御仁が住まわれたのだろうか。部屋のふすま紙の絵柄一つ見ても、
異国でウィリアム・モリスの壁紙デザインを見た時同様、ドキドキする。
階段、障子、日が差して翳る畳の部屋、作業場になる庭先を見下ろす格子窓。



とうに私たちが忘れてしまっている日本家屋の美しさを、
「陰影礼賛」の世界を彷彿とさせてくれる美しい世界。
この佇まい、この静けさ、この日差し。
どうして、どこに置き忘れてきてしまったのか、今の私たち。


 

小さな人形たちがせっせと往事を忍ばせる手作業を見せてくれている。
最近こういう展示はどんどん減ってきている。
京都の府立文化博物館も、リアルな雰囲気を醸し出してくれていた
ミニチュア芸術の粋であった展示を全て取り払ってしまい、
歴史の一コマを見せてくれていた様々な小さな人形たち、模型は見られなくなってしまった。


[  ]      


藍の館の展示、昔の人の細やかな手作業。藍色をふんだんに使った日常の着物、
産着や野良着に対して、表を地味に裏を派手にしたお洒落の心意気。
ハレの日の思い切り豪華な装い、藍で染められた絹の着物。
染めと折りで演出される当時の手仕事。細やかな作業。
小紋のための膨大な染めの型紙。今では到底作ることが出来ないものばかり。


        


本当はもっともっとゆっくり眺めていたかったけれど、ここで丸1日を過ごすことは出来ない。
それにしても、これだけずらりと並んだ型紙を今はもう使うことが出来ない。
手仕事の業が機械化された今、「プリント」はどこまで精緻に人真似が出来るのか。
転写・再生された様々な絵柄図柄を思う時、少し哀しくなる。
それは、単なる感傷に過ぎないとしても。


          


ささやかなお土産物やさんの店先には、お年寄りのほっこりした姿の大きな人形。
体験教室の団体さん以外、殆ど人がいなかった藍の館
名残惜しく後にして、次の目的地に向かう。

NHK 美の壺 藍染め (NHK美の壺)

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つくって、あそぼう〈26〉藍染の絵本 (つくってあそぼう)

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日本の藍―伝承と創造

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