乗り遅れた夢
夜中に物凄い頭痛で目が醒める。
何と言うことだろう、寝ていて頭痛で目が醒めるとは。
首か? 寝違えか? ガンガンするのはどこ?
後頭部? わからないが痛い、痛いがもう腹をくくるしかない。
これだけ痛ければ、何か取り返しの付かない頭痛かも。
自分がじたばたしても間に合わないだろう。
そんなことを朦朧とした頭で考えていたら、
手も動くし、足も動くぞと思い当たり、少しばかり体を動かしてみる。
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気が付くと夢の中だ。
何度も来たことがある場所、強いて言えば大きなキャンプ場のような、
しかしながら街中からは離れてるものの、
安普請の瀟洒な建物のような、ホテルのような、
大宴会場のような場所に向かって進んでいる。
大勢の人が集まっているようだ。
きっと一昨日結婚式に出向いた影響から来る夢なのだろうと、
意識の底でチラチラ思う。
とにかく顔見知りが沢山いる。前の職場の、その前の職場の人間、
バスや自転車、自家用車、沢山乗り付けているようだが、天気は雨だ。
きっとこれは昨日の天気の影響かな。
いや、外に聞こえる雨の音のせいか。
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夢の中でも外の音が聞こえている不思議な世界。
目で見えているものと耳から聞こえてくるものは、
別々の刺激なのだな。そんなことを思いながらも、
宴会場のような盛り上がりを前に醒めている夢の中の私。
ああ、ここでも誰も味方や仲間は居らず、独りで居るのだな。
妙に納得しながら、辺りを彷徨う。
景色は真っ暗。夜なのか夕方なのか、還るバスにみんな乗るはず。
自分もここにいつまでも居るわけにはいかぬ。帰らねば。
されどいずこへ? 帰らなければと焦るが、
迷路のようなその場所で、バス乗り場がわからない。
行けば自分の乗るバスがわかるだろうと思ったが、
あいにく、生半可な気持ちで、
自分の乗るべきバスを探すことは出来ないような、闇の深さ。
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先ほどまで、沢山の食事がバイキング形式で供されていたと思ったのに、
夢の中の私は空腹。自分の食べたい料理はさっぱりも見当たらない。
というか、食い散らかされた残骸のようなものばかりが並んでいる。
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ああ、そうか。
何もかも出遅れているのだな。私の食べる物はもうない。
何も私のために用意されているはずがない。遅れてきた人間に。
独りで居る人間に。存在価値のない人間に。
仲間はずれにされている人間に。
そんなこと、当たり前じゃないか。
お腹いっぱい食べたり飲んだり、そんなこと、
許されるはずが無いじゃないか。何を期待していたんだろう。
夢の中でも諦めと絶望がない交ぜになって、現実の仕事と変わらない。
何もしたくないし、誰にも会いたくない。
しかし、食べる物もないというのは。
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こだわっているのは、私が食い意地の張った人間だから?
いや、一昨日の結婚式の時、私の前にお口直しのデザートが運ばれてこなかった。
私の席にだけ運ばれてこなかった。
「お口直し」が出来ないまま、次の料理を待つ?
どうしてこれだけ沢山の人間が出席していて、よりによって、
私の前に「お口直し」は運ばれてこないんだろう?
こういう貧乏くじを引くのはやっぱり私なんだなと、あの時も、
いつかも、いつもいつも思っていたら、
夢の中でもやっぱり食いっぱぐれる。
どんどんいじけていく私。
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顔見知りの人たちが乗るバスを見つける。
もうとっくに発車して、どんどん遠ざかっているはずなのに、
何故かそのバスの中に乗っている人間たちの顔が一人一人、
はっきり見えてしまうの、嫌になるくらい。
そして、決してそちら側の人間ではないのだ、私は。
そう思ういながら、納得している自分が自分で哀しく、
これからもずっとこうやって、
こんな気持ちで生きていくのだろうなあと思うながら、目が醒めた。
頭痛は消えていたが、心は更に寂しく哀しいものになっていた。
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当然、仕事が出来ようはずもない。
自分は必要とされていない人間、やって来たことは何もかも無駄だった。
そんなふうに思えて、「人間の振り」をして休みの連絡を入れ、
ひたすら寝直すことにした。これで今日一日、休める。
まだまだ休み足りない自分なのだと、心底実感。
人間どれだけ寝ても寝られるのだなあと、我ながら感心するぐらい眠い。
今までどれだけ眠っていなかったのだろうか。
インフルエンザの1週間、かなり眠ったと思ったのだが、
まだまだ足りなかったらしい。
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昔、帯状疱疹が悪化して入院した時、余りにもよく眠るので、
周囲から「眠り姫」というあだ名が付いた、あの6人部屋。
あの時の隣のおばあちゃん、もうこの世にはいないだろうな。
生きていれば、90はとっくに超えているだろうから。
そんなことを思っていたら、結構こちら側ではなくて、
あちら側の方に近い感覚の自分に、納得していることに少し驚く。
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とすると、バスに乗り遅れた自分は正解なのかな。
今、生きているということは。
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