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海街diary 1

土砂降りの仕事先から帰ってきて、気分転換に久しぶりに読書。
と言っても、アマゾンで漫画本を取り寄せるようになるとは、
だんだん生活が・・・。本屋に行く暇が無い訳ではないが、
探す時間が無いというのが。とにかく、久しぶりの漫画。


で、吉田秋生の新作を読んだ。何というか・・・、
本来なら文学の世界で描かれるような描写が、
さらりと映像化されている。本当に自然な形で。
昔から、こういうオムニバス形式の作品の上手な人だったが。
惜しむらくは、「BANANA FISH]「YASHA」「イブの眠り」の
一連の流れのせいか、男性が美しく女性が今一つ。
キャラは問題ないのだが、やたら目の大きな体型の崩れた
コミカルな描写があざとく感じられて・・・。
ちょっとだけ引いたかな。


でも、「ラヴァーズ・キス」とリンクしているだけあって、
抱えている問題は深く暗く、闇に根ざしているものが多い。
というか、常に吉田秋生の作品は社会派・硬派・懐疑派であり、
無垢で斬新な天使と悪魔が同居しているようなキャラ、
破滅と再生をより合わせたような伏線と展開が見ものなのだが、
絵柄とは裏腹に、しっかりと従来の流れを押さえていたのが見事。


それは、例えば虐待・離婚・いじめ・不倫・難病・同性愛・異性愛
近親相姦・強姦・薬物中毒・制裁・勢力争い・術数策謀・殺人・死。
フィクションでありながら、強い思い入れを持って
登場人物の生い立ちから成長を追いたくなるような、そんな世界。
ああ、もちろん、誰の日常生活にも楔のように抜けない「とげ」が
沢山刺さっているのは当たり前のことなのだけれど。


ありとあらゆる日常生活の陥穽を、当たり前の日常として切り取る力。
その複雑なストーリー展開に魅せられ、残酷な事実、現実、
そのただ中にあって、運命に翻弄されながらも
たくましく生きていく主人公たちが、救いとしてある。


海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

ラヴァーズ・キス (小学館文庫)

ラヴァーズ・キス (小学館文庫)

ハナコ月記 (ちくま文庫)

ハナコ月記 (ちくま文庫)


幼児教育学(だったと思うが)のレポートで
ラヴァーズ・キス」を題材に書いた頃が懐かしい。
その頃から普段の会話の中に、虐待・ネグレクト・アビューズ
そういう言葉が当たり前のように出てきて、
不思議な世界が展開していった。


しかし、あれから10年も経つと、
そういう言葉は会話の中にあるのではなく、
日常生活の範囲内で、何気ない言葉のやり取りの中にあると、
実感できるようになった。
そう、心がささくれ立ったりすると、
「トラウマの種」を蒔いたり、受け取ったりするのは簡単。

自分自身が立ち直りの早い、ふてぶてしい大人ではなく、
単に場慣れしているだけで、不器用なまま、
年をとっていっているのが分かる。
何かミスしたり失敗したりしても、若い頃よりカバーするのが
上手くなったかというと、決してそういう訳ではない。


自分の中の大人子供が、バランスが取れず揺らいでいる時、
海街diary 1」のような作品を読むと、
大人として至らない自分、子供として扱われてきた自分、
その贅沢さに気付かされる。
大人が弱いこと、優しくて頼りないこと。
子供がその分、色々背負わされて泣けないこと。
色んな意味で、子供であることを奪われていること。
大人は土壇場で逃げてはいけないこと、などが
さらりと読める、そして、少し泣ける。


何よりも、不規則不定期な家族生活を営む中で
何かと風当たりを感じる中、
色んな形の家族のあり方、結び付きを肯定して、
作品の中に描く、吉田秋生の感性が好きだ。
血が繋がっているからこそ、哀しくてやりきれない時もある。
血が繋がっていないからこそ、乗り越えていかなければならない
様々な条件を用意して、連帯感を高める時もある。
思い出ばかりではなく、憎しみや後悔という負の感情が
支えている部分が・・・大きい時もある。


でも、どんな場合でも共にあろうとするためには
そのための犠牲や心の痛みを、
自分で抱えていかなければならない。
夫婦であろう、親子であろう、友達であろう、同僚であろう。
何も考えず、何も配慮せず、当たり前に存在することはできない。
自然に見えて、実は自然ではない、
目に見えない努力を必要とする、当たり前のギブ・アンド・テイク。


ただ、そこには、「無私」の自分がいる。
相手の為に、「無私」になれる自分がいる。
だから、色んなものを抱えていても寄り添うことができる。
色んなものを抱えながら時に寄り添い、
抱えさせられたことで離れ易く、結びつき易くなることも。
と、こんな風に「海街diary 1」1冊で、
取り留めなく、過ごす小一時間の貴重なこと。

河よりも長くゆるやかに (小学館文庫)

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夢みる頃をすぎても (小学館文庫)

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カリフォルニア物語 (1) (小学館文庫)

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