ドクちゃんの双子の話題から
ニュースで聞いた。
ベトナムで双子が生まれたこと。
父親はかつて結合双生児だったドクさん。
私達の世代はベトナム戦争に直接関わったわけではないけれど、
小学校の時からホーチミン・北爆・枯葉剤とう名前を耳にした。
思春期真っ只中のころ、シルベスター・スタローンが主演したシリーズ、
『ランボー』もベトナム帰還兵が絡んでいる。
ベトナム戦争は、日本を本土決戦に追い込んで(追い込まれたのは、
ひとえに時代の流れを読めなかった政策のまずさにあるだろうが)
世界の勝者となったアメリカが負けた戦争、だ。
アメリカでさえも決定的な勝利を得ることが出来なかったのだ、
そういうぼんやりとしたイメージが頭の中に焼きついた。
ミュージカル『ヘアー』がどれほどみずがめ座の時代を歌い上げ、
愛と知性と友愛の溢れる新時代を夢見たとしても、
戦争を忌避した人々は非国民的、ヒッビー文化の担い手をみなされ、
麻薬と逃避的な自己覚醒の陶酔を掲げる危険思想の中に囲い込みされた。
ベトナム戦争は、遙か海の向こうの戦い、見も知らぬアジアの国での泥沼、
かつて日本を叩き潰した時のように簡単に勝利が待っているという幻想は、
何時になっても決着の付かぬ情勢に、明るい力強い未来を信じなくなった、
退廃的な気持ちにならざるを得なかった若者層を大量生産した。
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でも、その時代は私の時代ではなかった。
私よりも10年がた年長者の思春期。
私は、何となく木漏れ日を感じるように時代の動きを知るだけ。
まだまだ頼りない子供の感性で、ベトナムを受け止めていたに過ぎない。
少女雑誌には、ベトナムからやってきて里子になったQちゃんの話が連載され、
アオザイという民族衣装の名を知り、当時の名称で『シャム双生児』と言われた
(現在ではこの名称は使わない、結合双生児)の話題の中で、
もっとも有名だったのが、ベトちゃんドクちゃんの双子だった。
成人してから『母は枯葉剤を浴びた』を、読んだ。
ダイオキシンの問題がクローズアップされた頃だ。
広島の原爆が封印している、放射能の影響下、闇に葬られた多くの命、
それとは対照的に、大々的に奇形・後遺症・枯葉剤の影響が書かれていた。
「ベトちゃんドクちゃん」の話題は、常にベトナム戦争と枯葉剤とセットになり、
いつも戦争に対する嫌悪感を含んだ記憶を新たにさせた。
日本での戦争の話題が風化していくのとは裏腹に。
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シャム双生児、結合双生児として有名なのは、
私のようにリアルタイムの黄金期の少女漫画を読んで育った人間、
私の世代ににとって忘れられないのは、男の双子ではなく、
一卵性双生児の女の双子を扱った『半神』だ。
ベトちゃんドクちゃんとは異なり、腰の所で繋がっていたが、
戦争とは異なっていても、自分の半身と共に生きていかなければならず、
その生命的な極限に達した時、分離手術が行われたのは、彼らと同じ。
切り離された片方はいずれ弱って、枯死するように亡くなった。
ベト・ドクの双子は腰は一つで上半身は二つ。
『半神』とは全く状況は異なるが、お互いがお互いの事を、
どのように思いながら生きてきたのか私たちには知るよしも無い。
異なる人格を持ちながら、自分だけの自由を物理的には持ち得ないまま成長し、
必然的にどちらかを犠牲にしなければ自分が生きていくことが出来ない状況、
究極の選択、周囲が仕方が無いと分かっていても、
感情的に全面的に割り切れるかどうか難しい、
成功したとしても全面的に100%受け入れるのは難しい、分離手術の結果。
仕事でほぼ徹夜明け。TVをBGM代わりに付けていると、
弟に当たるドクちゃんに、子どもが生まれたというニュースが流れた。
男の子と女の子の双子だそうだ。
分離手術を乗り越えて、自分の半身の死を乗り越えて、
連れ合いを持ち、新しい命を授かる。
その命が、偶然双子であるとは・・・。
遺伝学的に双子が生まれる家は、双子が多いと聞く。
まさか、その通りになるとは。
私の個人的な感想として、男の双子ではなく、
男と女の異性の双子で良かったなと思う。
男の双子であれば、自分と亡くなった兄の事を否が応でも
重ね合わせて思い出し、あれこれ比較してしまい易いから。
(そんなふうに感じるのは、私だけかな・・・。)
新しく授かった命は、新しい人生を生きている彼を
祝福するように、男女別々の性で生まれてきた。
枯葉剤で影響を受けたとされる遺伝子は、ちゃんと生命を育み、
新しいアダムとイブを生み出すことが出来た。
そんなイメージが心の中を駆け抜ける。
『半神』では、失った妹の美しい外見を鏡の中に見出し、
ボーイフレンドも出来て、満ち足りた生活をしている姉が、
自分の幸せが何の上に成り立っているのか、
やるせなく思い出す情景が描かれる。
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だが、現実の世界では人は結婚し、新しい命を授かり、
永遠に凍結された「物語の世界」を通り越して、物事が進んでいく。
人は失う。愛する半身を。人は失う。憎むべき半身を。
人の世は何かを得るたびに何かを失う。何もかも得ることは出来ない。
戦いに勝ったことで失うものもあり、戦いに負けたことで得るものもある。
その狭間で、翻弄されるように生きていかざるを得ない、
その時代その時代の私たち、彼ら彼女ら、全ての人間。
戦いなど無ければいいが、大なり小なり人生は悪戦苦闘。
その大会に漂う小船のような私たち、嵐に翻弄される我々に、
いつも希望を与えてくれるのは、新しい命だ。
新しい命が生まれてくるということだ。
そんな事をチラリと考えながら、今日もまた1日。
10月の最後の週が始まる。
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