Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

『僕の大事なコレクション』

画面にバルチック・アンバー(昆虫入りの琥珀)が映っている。
何だろう? あれ?何かの映画だ。あれ? どこかで見た顔。
イライジャ・ウッドじゃないの? これ何の映画?
転寝から目覚めてみれば、仕事部屋。BS付きっ放し。
深夜映画の画面には、大好きなバルチック・アンバー大写し。
指輪物語』以来、久しぶりに見るイライジャ・ウッド。 


これ何の映画だあ? 途中から観たので全くわからない。
舞台はロシアらしい。一緒に居る俳優も余り見たことないし。
何だかギクシャクした3人組と、一匹の犬がおんぼろの車で旅。
いったい何を探しているのだか。何を求めているのだか、
分厚い眼鏡をかけて、なまっちろい異様な雰囲気でイライジャ。
ただでさえ目力のある人なのに、さらに強調されている目。
何を見ようとしているんだか。


途中から観て何の予備知識もなく、それでもいきなり眼前に広がる
第2次世界大戦の傷跡生々しい銃器の類が散乱する荒地。
こりゃ、やばい。何かあるぞ、やばい。
だんだん目が覚めてくる。
ロシア語? 英語? 訳のわからない会話の中で、3人の旅。
ポンコツ車、これはトラバント? 運転手の老人、
孫らしいが随分ぶっ飛んだイカレタ英語を話す通訳のにーちゃん。
そして、イライジャ扮する収集癖があるらしい堅苦しい雰囲気のにーちゃん。
一体どんな映画なんだろう。


転寝の目が冴えて、途中から観始めたものの何が何だかかわからない。
先ほど映った虫入り琥珀のペンダントが何なのか。
封じ込められた何かの暗示か、バルチック・アンバーが気になる。
ジュラシック・パーク」だって元はそれが始まり。
過去に封じ込められた何か、野原の戦争の後。
その先にあるのは?
トラキムブロド? 何だそれ?

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丑三つ時にTV画面に広がる景色。
ここはウクライナらしい。
彼らが探しているのは、トラキムブロド。何だそれ?
この土地で観光客に見られたくない、
英語をしゃべるなとアメリカ人の客に切れている通訳のにーちゃん。
そしてサミーディビス・Jr.Jrという犬に当たる。
俺の犬に当たったと切れて孫の青年に怒るじーちゃん、
何なんだこの映画は。
どぎまぎしているイライジャこと、主役のジョナサン。


そして、おんぼろ車はとある場所に着く。
広い広いひまわり畑。そしてそこにぽつんと立つ小屋のような家。
その家に続く道と家はまるでひまわり畑の中の十字架のよう。
その景色はまるでひまわりの墓標のよう。
否が応でもソフィア・ローレンマルチェロ・マストロヤンニの悲恋、
『ひまわり』の映画を髣髴とさせる。
あの物悲しいメロディーも、第2次世界大戦で引き裂かれた愛も、
何もかもが一瞬のうちに、ひまわり畑と一緒に思い起こされる。


『ひまわり』へのオマージュ。連想を明らかに狙った演出。
それならば、この映画は反戦映画。
シーツ? カーテン? 洗濯物にしては余りにも多い白布。
この小屋に住む老女と、その部屋の壁に山と積み上げられた小箱。
そして、それはこの地で虐殺されたユダヤ人の遺品。
遺されたもの、埋められたもの、全てが遺品の山。
「トラキムブロド」はユダヤ人虐殺で消えた村の名前。
旧ソ連ウクライナで行われたホロコースト


そこで明らかになる老運転手の過去。封印された記憶。
ユダヤ人として処刑された際、どういう弾みか生き残り、
ユダヤ人としての過去を忘れ、いや捨てて生きてきた。
生き残ったというよりも、死んだまま生きてきた人生。
今自分自身のルーツを取り戻す老人。
祖父の恋人だった写真の女性は、小屋の老女の妹だった。
ジョナサンの大伯母だった。


老女は呟く。「妹が何故指輪を埋めたかわかった。発見してもらうため」
そこに居る全ての人が発見する。自分のルーツを、隠されていた過去を、
知らされなかった世界を、闇に葬られた歴史を、虐げられた人々を。
写真の女性の「指輪」に導かれたように集う人々。
指輪物語』ではないけれど、これにイライジャ・ウッド演ずる
ジョナサンが難を逃れて渡米したユダヤ人祖父母の思いを伝えるべく、
指輪の地を目指して旅をしたことが印象的。
フロド役を演じた彼ならではの、うってつけの役。


死者の形見の指輪、アメリカ人の青年が収集癖を持っていたのは、
血の為せる業(わざ)、それともユダヤ人としての歴史が背負わせた業?
川辺で多くの死者の声を聞くように、集う老女、老人、青年二人。
ブロークンな英語を話す青年は、初めて自分がユダヤ人だと知ったのか?
琥珀のペンダントを大伯母に渡すジョナサン。
彼の祖父が死んだ恋人の思い出として持ち続けた形見の品は、
故郷の地に戻った。指輪に呼び戻されるように。


妹がどうして指輪を埋めたかわかった。
発見してもらうため。見つけてもらうためよ。
そう語る大伯母の人生、生活は、見出してもらうための品々、
虐殺された人々の形見の品々でちりばめられ、
戦争から時が止まったまま凝縮され、
思い出が封じ込められた琥珀のよう。


自分の隠してきた過去、偽りの人生を取り戻したと思ったのか、
耐え切れなくなったのか、見出したことで満足したのか、
自殺してしまう老運転手。そしてユダヤ人として葬られる墓地の景色。
壮大で凄惨なルーツ探訪となった、自分探しの旅を終えて
アメリカに戻ったジョナサンに手紙を書く通訳の青年。
途中から半分弱しか観られなかった映画なのに、
その凝縮されたような最後の部分が心を揺さぶる。


この映画の原題は EVERYTHING IS ILLUMINATED
全てが照らし出される、明らかになる。なんて意味深。
照らされるまで闇の中にあるもの。
そこに存在するけれども明らかにされないまま在るもの。
強い光があるからこそ影も濃く、封じ込められた形になる。
全てが光の中で明らかになるのではない。
輝き返すもの、照り返すものはその理由を内に持つ。
それが明らかになる「さだめの時」まで秘められている。


そんなことを考えさせてくれる。
それにしても、EVERYTHING IS ILLUMINATEDに誰が邦題を?
よりにもよって『僕の大事なコレクション』とは。
おまけに、どうしてこの映画について全然知らなかった?
ああ、家人の入退院ですったもんだのの2005年から2006年まで、
私の頭と心は空白。
転寝でふと目覚めた私の心にやっと光が届いたって訳か。


時間を作って、この映画を探してじっくり最初から観なくては。
ユダヤに詳しいチカさんならきっと知っているだろうな、
この映画。“EVERYTHING IS ILLUMINATED”
また、少し仮眠をして朝になって1日が始まる。
父の入院7日目の朝。

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