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ピアノ調律

スポーツクラブのオリエンテーションを受けて、
大急ぎで施設見学後、帰宅。過密スケジュール。
昨日の作業の続き、ピアノの周囲の様々なものをどける作業。
何しろ、ピアノ周辺は物置状態だ。飾り棚という手合いではない。
収納場所の少ない昔ながらの日本家屋。
そこに無くてもいい応接セット、使い勝手の悪い机、
炬燵、書棚、何でもありの昔の間取りの応接間、
そこに壁の花もどき、鎮座ましましているピアノ。
この実家のピアノは、小学校1年の時に我が家にやって来た宝物だった。


子供時代の10年間、苦楽を共にしたヤマハのアップライト。
その当時ピアノは高級品。社宅に住んでいると、どの家からもピアノの音。
どんな曲を練習しているか丸わかり。進度もわかれば上手下手も。
門前の小僧習わぬ経を読む。人の弾く曲を聞きながら覚えた日々。
レコードは高級品で、カセットテープもCDも無かった頃だ。
他人の練習は何度も繰り返して聞ける録音に等しい。
社宅の無言で雄弁なライバル意識に支えられていた、ピアノ。


何しろピアノのセールスが、「お宅のお嬢様の情操教育に最適」という
中流意識を煽り立てる殺し文句。あの家もこの家も、狭い社宅や団地に
なけなしの財布をはたいてピアノを買い求めた、
そんな高度経済成長期、万博を控えた日本の、
小市民の光景を象徴するピアノの一台。


そのピアノが本格的に日の目を見る。
一体、何十年ぶりの調律?
音は出ることは出る。しかし、どれくらい?
子どもの頃、調律は馬鹿にならない値段。
老父は3、4度は頼んだが・・・とのこと。
それって、私が習っていた最初の頃ってことだよね。
いやあ、恐ろしい。骨董品のピアノ。
およそ、45年前のピアノということになりますね。
果たして、調律師さんに何と言われる事か恐ろしい。


おまけに、もっと深刻な問題。ピアノが無事かどうか。
この都会の田舎、山の中の家。常時ねずみがいる。
ゴキブリもナメクジも、野良猫も防いでも防ぎようが無い。
外部からの侵入者に泣かされ続けた家。
ピアノだけが無事で済むはずも無い。
ゴキブリほいほいに掛かるのは、ねずみだったりするのだから。


そんな私の杞憂の中、調律師さんがやって来た。
!!! どう観ても、スポーツ選手のような、
いや、タレントと言ってもいいかもしれない。
今風のイケメンの体格のしっかりした20代のお兄さん。
何なんだ、嘘でしょう、かーちゃんびっくりどっきりだ。

さて、いよいよ禁断の魔法の箱。
40年ぶりに行われる実家のピアノ調律。
何が出てくるかご覧じろ。

ピアノと平均律の謎―調律師が見た音の世界

ピアノと平均律の謎―調律師が見た音の世界

ピアノ調律師

ピアノ調律師


「古いピアノですね。日本楽器って書いてありますよ」
YAMAHA ではなくて日本楽器? 当時はそうだったらしい。
ブランド名を統一したのは結構最近の話?らしい。
ちなみにあのおなじみのマークは音叉が3つ交差したもの。
そういわれてまじまじ見ると、確かに音叉。


ピアノが解体、いや、バラバラにばらしているわけではないけれど、
どんどん中が見えるようになっていくのが不思議。
(スケルトンではないですよ)写真とかグランドピアノとかで、
ピアノ線が張ってあって、フェルトがあって、
ハンマーがずらりと並んでいて・・・のイメージがあっても、
まじまじと見ることなど滅多に無いピアノの中。

 


「齧られていますね」ねずみが齧った跡が残るフェルト。
予想通り、低音部のキーの上には白いティッシュでねずみの巣が・・・。
むろんねずみはいなかったけれど、過去に住んでいたのは確か。
「ねずみは暖かい所を求めてピアノの中に来るんです。
しょっちゅう弾いている時は来ないですが、物置状態になると駄目ですね」
何故かセロファンや薄いビニール袋まで巻き込んでいる。
保温のための断熱材代わりか!?


ねずみも「たち」の悪いものはそこらじゅう食い散らして、
汚い巣を作りピアノの中をぼろぼろにするらしいが、
お行儀の良いねずみはそれほど汚さないらしい。
ちなみに糞は殆ど無い。ねずみは巣の中は汚さないらしい。
ちゃんとお外にトイレ、本当? 
「40年前のピアノと聞いてもっとひどいかと思っていたのですが、
かなり良好な状態ですね。思っていたよりずっといい状態です」
って・・・、これよりひどい状態のピアノも見たことあるわけね。


掃除機で内部を掃除して、全体を見回し、調律前の点検。
お値段の交渉。何もかも一気に元通りというわけには行かない。
今回は何処までやるか、少しずつ按配よくしていくらしい。
ハンマーにやすりを掛けてもらい成型。ねずみの痕跡を最小限に。
あんまり削りすぎると音色が変わってしまうとのこと。
それにしても年数の割りにフェルトが傷んでいないこと、
昨夜の大雨にもかかわらず、予想以上に湿気の影響を受けていないこと。
古い割にはまあまあの状態であるらしい。

 


部外者は、調律師さんの言葉を信じるしかない。
とにもかくにも今よりもいい音で弾ける様に、
音が濁る所は、部品を修理・交換するしかない。
休憩を挟んで説明を受けながら4時間ほど掛けて調律は終わった。
その間、鞄から取り出される様々な道具をこどものように眺め、
この仕事に使う小道具を作る人もいるのだなあと考えた。
帯状の赤いフェルト、小さなミニ音叉、ドアストッパーのような形の木材。


調律師がピアノカルテを書いて入れておくという紙。
そういうものがあることさえ知らなかった。
新しいピアノを買うことは出来ない。この古いピアノで・・・
この古いピアノで・・・。エエーーー!?
調律が終わった後のピアノの音のどでかくなったこと。
こんなに音が大きくなるものなの? ずれていた音には気付いていたが、
それよりも何よりも、音質以前に音の響き具合が違う。


「一度に調整はきかないんで、心持ち高音部が高めでキンキンしますが、
そのうちに少しずつ落ち着いてくるので・・・」
まるで大阪城の石垣である。100年後には石も土も締まって角度が・・・。
そういう問題じゃないか。
とにかく、モノに囲まれて埋もれていたピアノを救い出すという、
長年の懸案事項は一つ解決。娘にも私の昔のピアノを見て貰えたし。


かーちゃんと殆ど年齢が変わらないピアノ。
娘よ、いたわって弾いてくれたまえ。
・・・少し弾いてみたら、昔取った杵柄、中学生の頃弾いていた曲は、
指が何とか動いたのでした。拙いながらも練習しただけあって、
次はどの位置か、楽譜を見ながら指が動く。
かーちゃんも古いピアノもまだまだ捨てたもんじゃないわねえ。
そんな感慨に浸った今日の夕べ。

世界の調律 サウンドスケープとはなにか (平凡社ライブラリー)

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