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ロビン・フッド

ロビン・フッド。今日の映画は本日限りの上映だった。
おそらく絵本や世界の名作文学で読んだような、
緑の森の奥深く、シャーウッドの森のアウトローとして生きる
ロビンフッドを思う人には、当てが外れた映画だろう。


ロビンフッドは伝説の人だ。
伝説になった人の伝説の時代を描こうとしたのが、この映画。
緑の森で仲間と一緒に悪代官と王に反抗する、庶民の味方ロビンフッド
そんなレベルでは自分の望む映画は作れないというのが、
リドリー・スコット監督の映画の姿勢だったといえる。
私が入れ込んだ前作、「キングダム・オブ・ヘブン」でも
父と息子の絆は入り組んだ形で随分強調されていた。
物語の通奏低音といってもいい。


その関係は、親子のみならず仲間・兄弟・パートナーにも通じていくのだが、
「運命が結びつけた抗いがたい血の繋がりにまつわる物語を
壮大に描きたい、出来うる限りの想像力を用いて」というのが、
終始一貫した監督の製作姿勢だということは、十分に見て取れた。


おそらく週の初めに『宇宙戦艦ヤマト』のリメイクである、
『スペースバトルシップ ヤマト』を見たから、尚更そう感じるのかもしれない。
リメイクされた、或いは歴史的な史実の側面を照ら直して
浮き上がってきた像を想像力で補って結ぶ・・・という
製作者の意図が、自分のイメージと異なるからと、
真っ向から否定的に扱う気持ちにはなれなかった。
(無論、リメイクした挙句、ズダボロスプラッタ映画と化し、
 存在するのも許しがたくなる映画もあるのだが)


このロビンフッドは今の時代にあって、
このように動ける人物が「あらまほしい」という、
時代の要請・願望にも似た形で作られているので、
当然こうなってしまったのだろう。
だから仕方がないか、この演出や設定は・・・という感じで、
淡々と眺める形で映画館に座ることになった。
当時の戦法や甲冑姿、フランス語での会話、作法、
庶民の姿、生活の様子などを垣間見る気持ちで。


ラッセル・クロウという包容力と荒々しさを併せ持つ俳優、
一見ホームドラマにも向きそうな暖かさを醸し出しているにも拘らず、
その体臭むせ返るような男くささが、
強靭でエネルギッシュな側面を際立たせる、そんな俳優が
今までの作品のイメージを背負ってロビンフッドを演じるのだから、
その個性に負けない配役(悪役)というのは、なかなか難しいだろう。


グラディエーター』の時もそうだったが、
作品世界は決してハッピーエンドには終わらない。
それは一見そう見えるだけで、
歴史の世界に「原因と結果」が連綿と続いていく限り、
平和な時、幸せな時間というのは一時的な仮そめの時間、
乱世にあって間隙の泡沫の夢。
しかし、庶民が求めるのはその一瞬、その一瞬にこそ価値があるのだから、
彼に戦う意味があるというならば、このロビンフッドの生き様は正しいのだ。


父に捨てられたのではない、
父によって果たせなかった夢を背負わされた人生、
託された生、使命、運命。
リチャード獅子心王の元で十字軍の遠征、
その間に死なずに生き残るということは、どれ程の強者(つわもの)か、
最前線の戦いを血肉に刻み込んで帰国し、母国の有事に立ち向かう。
その能力を鍛え上げるためにも、遠征軍配下にある設定が重要だったのだろう。
仲間も同様、単にお尋ねもの、森の中の反逆者レベルであってはならなかった。

ロビン・フッド 特別編集版 [DVD]

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ROBIN HOOD

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それぞれの登場人物の個性は大きく変えられているわけではなく、
微妙な軌道修正。
しかし、歌の上手なアラン、生臭坊主のタック、
どんな登場人物がいたっけなあ・・・。
TVドラマシリーズ、ERで有名な男優が出ていて、
医師以外の彼の演技を見ているのも楽しかった。


でも、全て伝説上の人物ではっきりしているのは、
何でも記録を取らせたという、世界史で習ったキング・ジョンだけ。
マグナ・カルタとセットで覚えた彼、いつもにーちゃんのリチャードセット。
高校時代の名物教師の口調も思い出す。
できの悪い弟が棚ボタで王冠を得たものの、やることなすことろくでもなく、
周囲から総すかんを食って、マグナ・カルタを認める形になった。
何だかその言葉をありありと思い出すくらい、
映画の中のジョンはお馬鹿な演出。
というか、フランス王フィリップもそんな風に見えてしまうが。


最初から歴史上の悪役は固定されていて、
ロビン・フッドを如何様にも変幻自在に扱える
想像上の余地のある映画の演出は、
ある意味換骨奪胎かつ便利で面白いが、逆に白けるものでもある。
制約のたががを外せは外すほど、客観的に距離を置いて見ることになるから。


「義を見て為ざるは勇なきなり」の世の中だから、決断力に富み、
野趣溢れる、それでいて知性と勇気と武力に優れた男を、
中世のスーパーマンのように描き出す。
虐げられた今の時代の私たちの声よ、為政者に届けと言わんばかりに、
家族や財産を守る自由を声高らかに叫ぶ人物を望む時代が作ったロビン・フッド。
これはこれでありなのだろう、
そんな風に醒めてシネコンから戻る深夜。
プレミアスクリーン、レイトショーの夜。

ロビン・フッド物語

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