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「おひさま」の花嫁

何でこんなに切ないんだろう、朝の15分だけなのに。
通勤時間、車のラジオから聞こえてくる「おひさま」。
でもこれも、デジタル放送になると聞けない。
今だけ、今だけの車の中で聞く朝の連続テレビ小説
切ない切ない、戦争の時代の花嫁。
今週は一夜妻の花嫁となる主人公。


戦争を知らない子どもたちの世代のはずなのに、どうしてこんなに切ない
実際に戦争を体験し、飢えや渇きに学徒動員に、
墨を塗った教科書に、徴兵された父親、戦死した兄弟、
そういう辛い経験をしたのは両親の世代だったのに、
生の戦争経験を持たない私なのに、どうしてこの物語がこんなに切ない。


毎日、このドラマは大震災の東北でも人気で・・・。
ご当地はもちろん、朝からテレビの前に座ることの出来る世代にとっては、
なかなか懐かしい時代の話なのかもしれないが、
世代的にはずれがあるはずの話に、どうしてこんなに惹かれてしまうのか。
父と娘、兄と妹、女学校の親友、教師と生徒、舅姑と嫁、
そして、妻と夫。あらゆる人間関係の背景に戦争がある。


戦争を知らない子どもたち。それは私。
灯火管制も空襲警報も原爆投下も、何一つ経験していない。
バケツリレーや隣組防空壕に防空ずきん、もんぺに金属供出。
そういった日本が苦しい時代、非常時の頃を何一つ知らないはずなのに、
文献や歴史、小説やドラマの中でしか知らないはずだというのに、
その中の一つに過ぎないというのに、どうしてこんなに切ないんだろう。
今週のテーマは「今日だけの花嫁」

おひさま サウンドトラック

おひさま サウンドトラック

NHK連続テレビ小説 おひさま 上

NHK連続テレビ小説 おひさま 上


高齢出産の私は、ジューンブライドだった。
大雨の前日にホテルに泊まり、曇天の中結婚式を迎え、
梅雨のない爽やかな季節を満喫できるヨーロッパならいざ知らず、
どうしてこんな鬱陶しい時期に、縁起を担いで結婚式を? と、
思って13年が過ぎようとしている。
6月水無月紫陽花の頃、日本ではもっとも昼間が長い頃、
私は結婚記念日を迎える。


6月の思い出にここかしこ、重なる所があるというのか。
白無垢が、角隠しが、慌ただしくてあっという間に終わってしまった、
人生のひとときが余りにもあっけなかったので、
無意識のうちに再体験しようというのか、
似ても似つかぬ時代の結婚前後のエピソードに、聞き耳を立てる朝。
毎朝のラジオは、あずかり知らぬはずの時代に私を連れて行き、
両親の青春時代を夢想空想妄想する。ハンドルを切りながら。


TV録画の時代というけれど、のんびり見る時間を持たない忙しさ。
6月の半ばは、お客さんを多数迎えて気骨の折れることこの上ない時期。
一人一人に向き合うことも難しい、何をどうしたものか悩ましい。
梅雨空に押しつぶされてしまわぬよう、湿りがちな気持ちを、
ともすれば疲労の余り、バタンキューと、ろくに夕食も食べぬまま、
倒れるように床に崩れている自分を、どうにかして欲しい。


でも、TVの向こう、遙か昔の戦時中、花嫁衣装に袖を通すことさえ、
贅沢だと思われていた時期。
夫の出征前日に婚儀を挙げた花嫁は、日本に沢山いたことだろう。
その目眩のするような切ない哀しみを思いやりながらも、
浸りきることの出来ない日常が、ありがたくも恨めしい。


仕事だけに押し流されていく、かつての花嫁は、
注文したブーケを受け取りに行くことさえ忘れていたかつての花嫁は、
あの頃よりも忙しい6月に、仕事に埋没してしまいそうな、
既に埋もれてしまっている6月に、どう対処したらいいものやら、
開き直る以外にすべもなく、走り続けている。
倒れるまで止まれそうにない、そんな感じの危なっかしさで。


別居結婚の単身赴任生活歴は13年、これが家族の形かと問われれば、
こういう形もあって然るべきと。
「おひさま」のように、家人を戦争に取られたわけでもなし、
帰る当てのない戦地に赴いているわけでもなし。
平和ぼけで震災後の非常時も機能していないという、
先進国とは名ばかりの、かつての神国日本の意気込みや、
旭日旗の心意気を知らぬ世代のザワザワと棲息する、
そんな日本を、どんなふうに照らす「おひさま」


太陽の陽子という物凄いネーミングで、主人公。
今週は全くもって100%のヒロイン。
戦争ではなくて、原子力の脅威にさらされている日本。
黒い雨ではないけれど、梅雨の湿気に震災から3ヶ月を迎えようとしている、
そんな日本の、どこをどう照らすのか。
朝の連続テレビ小説「おひさま」。
ただただ、切ない気持ちになる今週。

連続テレビ小説 おひさま (NHKドラマ・ガイド)

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