幸せのレシピ
題名からして「そそる」。
何しろ私は食い意地が張っている。作るのも好きだけれど、
食べる方がもっと好きという、面倒くさがり屋ではあるが。
食べたら幸せになれる、そんなレシピがあるなら欲しい。
映画館で観たかったけれど見逃してしまった作品。
民間でCM混じりにTVで観るのは口惜しいが、鑑賞。
主人公。仕事は出来るがなかなか突っ張って生きている。
仕事場が自分の聖域。そして戦場。この感覚、わかるわかる。
でも、ある意味そういう緊張感から離れたい時が増えてきた今日この頃。
私自身、仕事で「脂ののっている」、そういう時代はとっくの昔かと。
何気ない日常の会話。そして、いきなり知らされる事故。肉親との別れ。
自分の目の前にいる、姪っ子。
母を突然失い、心身共に傷ついた小さい女の子にどう接していいのか、
まったくわからず戸惑うヒロインの前に、ライバル出現。
仲間と見なしていいのか、自分のシェフの地位を脅かす敵なのか。
ここからすったもんだあるのだけれど、イタリア的な要素をふんだんに取り入れ、
『月の輝く夜に』を連想させるように、おおらかで明るい展開も交え、
お決まりのように険悪になり、「人を信じようとしない」と罵られつつも、
結局は姪っ子が鎹(かすがい)、手に食のある人間は強い。
彼と二人で店を開いて、彼女の親代わりとなりハッピーエンド。
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親を失った子供の前に、黒い目玉付きの大きな魚をどんと料理して、
食べろというデリカシーの無さ、子ども向けの料理を作ろうともしない、
好物を聞いて食べさせようともしないで、「何も食べないの」と嘆く。
その辺の「ずれた感覚」は仕事人間にありがちな、視野の狭さを露呈。
放って置かれること、ひとりぼっちが寂しいこと、山のようなぬいぐるみ、
ベッドの下に潜り込んで独り言、自分の居場所がわからずにいる女の子。
そんな女の子に戸惑う主人公に、思春期の娘を前に戸惑う私が重なる。
傷ついている子どもに対して、叔母として、女性として、人間として、
どのように接していいのかわからずに距離を取っている。
自らも姉を失った「喪中の哀しみ」を味わおうともせず、
大人だからと割り切って仕事に集中しようとする。
人が休みを取ることを勧めているにもかかわらず。
自分の基準、決めたこと、約束事、ディシプリン、決して曲げようとしない信念、
理想のスタイル、味、盛りつけ、毎日はかくあるべし。
そういうものをことごとく崩す所から、新しい生活は始まる。
アメリカらしいセラピーの風景もさることながら、
自分がセラピーを受けるよう言われている意味もわからずに、
セラピーを受けに来ているということ自体、病んだ完璧主義を露呈。
精神分析医にかかることが、いまだに一種のステイタス?
であるアメリカの側面をよく表している。
みんなが病気の世界だったら怖くない?
ちっとも幸せではない人が作る料理が、人を幸せに出来るのかどうか。
料理を背景にした、それもイタ飯、お袋の味のイタリア料理を得意とする男性と、
お袋の味が作れない女性の望まぬコブ付き生活、そしてラブコメ。
やれやれ、という保護者気分ではらはらしながら見守ってしまう。
食べること、共にあること、その素晴らしさ切なさやりきれなさ、
ごたごたすったもんだ。全てが生活の中にある。
煩わしさから逃げて定番の日々に逃げ込むことは出来ない。
まあ、スタンダードに臨床を勉強する人間には初歩的な映画か。
あちらこちら、色んな角度から分析することが出来るし。
しかし、よくもまあ原題の「NO RESERVATIONS」を『幸せのレシピ』と訳したこと。
確かに女性受けする題名。そそられる。
私としてはあの『シカゴ』で派手な歌とダンスと演技を披露した、
キャサリン・ゼタ=ジョーンズが観たかった話題作。
でも、ちょっとショック。彼女も年を取ったなと。
厨房で働くきりりとした姿もダンスしている時と同様、
綺麗だなとは思ったけれど、年齢は隠せない。
親子3人、TVの前で寛ぎながら、夜のティータイム。
6月に入って初めての親子3人で過ごす夜は、『幸せのレシピ』。
この映画から。私たちの側にはコンビニの「うちカフェ」。
安上がり。映画館にも行かずに、映画鑑賞。
この毎日、3時間以上残業してやっと辿り着いた週末の夜。
外は大雨。また台風が来たかのような、夜。
私たちの未来のレシピを、どうしたためようか。
- アーティスト: サントラ,ルチアーノ・パヴァロッティ,レイ・ジェラート,リズ・フェア,マイケル・ブーブレ,レナータ・テバルディ,ジョーン・サザーランド&カルロ・ベルゴンツィ,パオロ・コンテ,ジョセフ・カレヤ,フィリップ・グラス
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