Festina Lente2

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さようなら、和田慎二

今日、七夕に知った、和田慎二逝去。虚血性心不全
もしも私が倒れたら、最も自分の死因としてふさわしかろうと思う病の一つ。
ああ、まだ61歳だったとは。若すぎる、早すぎる、その死。
デビュー当時から知っているだけに、その死が痛ましい。
漫画の中でよく描かれていた美食・喫煙。
それは、確実に氏の健康を損なっていたに違いない。
健康上の問題を抱えている人間にとっては、他人事ではない。
それにもまして、自分の思春期に影響を与えた漫画家がこの世を去る、
その事実が、重苦しい苦痛だ。


  


思えば、漫画本一冊が別世界への入り口だった頃、
SF・サスペンス・ヒーローもの、探偵・推理もの、
ダイナミックなアクション、優しく柔らかなメルヘン。
様々な様相を呈した幅広い作品に、わくわくしながら読んだ和田慎二の漫画、
通称「クマさん」の世界。
授かった娘に読ませたのは『クマさんの四季』1冊だけだ。
その他の漫画は、まだ年齢的にどうかなという気もして読ませていない。

スケバン刑事 (7) (MFコミックス)

スケバン刑事 (7) (MFコミックス)

傀儡師リン 3 (ボニータコミックス)

傀儡師リン 3 (ボニータコミックス)


スケバンものもそうだが、ダイナミックで非情なストーリー展開。
実は苦手。ハッピーエンドにならない世界に擬似的なトラウマを抱いてしまい、
あとあと悩まされるという、やっかいな精神構造。
作品世界に入れ込むと、出てくるのが大変だった思春期。
それ故、意識して距離を取ってきた作品群が多い。

ピグマリオ (1) (MFコミックス)

ピグマリオ (1) (MFコミックス)

銀色の髪の亜里沙 (花とゆめCOMICS)

銀色の髪の亜里沙 (花とゆめCOMICS)


かといって、メルヘンチックな「ピグマリオ」系が好きなわけではなく、
どちらかというと『超少女明日香』『怪盗アマリリス』シリーズが好みだったのだが、
政治や暴力が絡むのはどうしても受け付けたくない時期と連載時期が重なり、
読者としては結局遠ざかってしまったというのが実情。
最近の連載内容はおぼろげには知っていても、読まずにいた。

超少女明日香 (第1巻) (白泉社文庫)

超少女明日香 (第1巻) (白泉社文庫)


後にも先にも、初期の家庭ものの、ほのぼのした雰囲気。
古くさいホームドラマと言われそうだが、その雰囲気が好きだった。
切なくて懐かしくて涙が出そうな、そういう家庭の雰囲気に憧れていた。
だから、今でも大切にすぐ手に取れる所に置いてある。
デビュー当時から知っている和田慎二だが、代表作とされることは少なくとも、
私にとって最も大切な本、娘にも読ませた名作童話と同じぐらい大切な本。
それが、『クマさんの四季』だ。


  


ウラルの森、肩を寄せ合い厳しい冬を乗り切るために協力して生きる動物たち。
そこに描かれたのは、様々な動物たちの思い、弱肉強食を超えて、
生き物として繋がり合おうとする姿、若者の野心と恋愛、
厳しい時代を生き抜いてきた高齢者の嘆きと呟き、
狡猾にいい訳がましく生きる犯罪者、他人を信じることが出来ない弱さ、
友情のために何も言わずに去る者、濡れ衣を晴らすために辛い思いで残る者、
誰彼無く暖かく受け入れる存在、無邪気に成長する子ども達、
「生きる」「生きていく」ことをテーマに綴られた小編の美しさ、
ほろりとさせられるストーリーに、愛蔵本としてベッドサイドではや幾とせ。


  


仕事で辛い思いをした時、対人関係で悩んだ時、
ささくれだった心で毎日を過ごしていた時、ふと手にして、
自分の中の「童心」を呼び覚まし、心柔らかくして明日に望んだ日々。
硬派の物語、荒唐無稽なアクションストーリーがどれだけ展開されていても、
私にとっての和田慎二紫煙薫らす「くまさん」だったのだが、
ひげクマさんこと、和田慎二、彼が星になったのは七夕の2日前。
今日知った訃報に、心は重い。
ただただ、ゆっくり休まれることを祈る。
今はまだ、動揺して、ただ動揺して無念な思い。
まだまだ活躍して欲しかった。描いていて欲しかった。


    
  


私が一番思い入れを持っていたのは、銀ギツネと黒オオカミの友情だ。
誤解されやすい銀ギツネと黒オオカミに、周囲になかなか馴染めない、
そんな自分を重ね合わせてみていた思春期半ばだった。
彼らを見守るクマさんの包容力とリーダー性、子ども達への優しさ。
異性に対するほのかな憧れ、兄貴が欲しかったという幼い思い、
友なればこのような友情あらまほし等、あれこれ思った思春期後期。
残念ながら本は初版ではなく、いつかわからないが古本屋で入手したもの。
社会人になってから忘れることの出来なかった、和田慎二の名作は、
今では入手困難な幻の1冊だという。



七夕。もう6年生になった娘と笹飾りを作ることは無くなってしまった。
せめて、星を見上げて(曇り空なのだが)冥福を祈ろう。
物語の最後の台詞を噛みしめながら。
「ぐっすりおやすみ・・・、春になったらまた会おう ・・・クマさん。」
ゆっくりお休み下さい、和田慎二さん。お疲れ様でした。

神恭一郎事件簿 1 愛と死の砂時計 (MFコミックス)

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忍者飛翔 絆の章 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

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