Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

物語に浸る夜

DAWNには程遠い内容だった。夜明けは遠いよ。
みんな、暑い夏の午後、DOWN 落ち込んじゃったよ。
大勢の専門の同業者と、虚しさを噛み締める形で終わった研修後、
毎晩真夜中にしか食事を取れない家人に、陣中見舞い。
好物の穴子寿司を差し入れ。もちろん冷たいお茶も一緒に。
出張ついでに、夕食でも一緒にできれば良かったんだけれど。


昼、家人のデジカメを修理センターから受け取り、
3軒隣のトルコ風ファーストフード店で遅めの昼食。
市内は世界陸上競技の影響で、外国からのお客様が多い。
お店、地下鉄、ファッションビル、観光客ではなくて、
仕事(試合)で来たと明らかにわかる身分証明証を下げて、
スポーツウエアで皆さん町を闊歩されているからね。
店は府立体育館の向かい。トルコの方がお店の人と
母国語で話しながら、何やら色々食べていた。


そう、市内に出ると各国料理が食べたくなる私。
本日、結構気分はマイナーなので、景気づけに散歩がてら
「1人でもどうぞ大丈夫です」とわざわざ道路メニュー横に書かれた?
スペイン風居酒屋に入る。どう見ても奥まったビルの一室。
私は一見さんで店を探すことにかけては、勘がいい方だと思う。

ジェネラル・ルージュの凱旋

ジェネラル・ルージュの凱旋

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光


タパスの盛り合わせ(4種)、ピンチョス(2串)、
アボガドの明太子チーズ乗せ焼、果物は凍る程冷たくて
どれも美味しかった。もう少し早くお料理が出るともっと嬉しい。
駅から車なので飲めないが、軽い夕食には十分。
やや薄暗い店内、ジャズ、中年男性客2人、少しオタクがかったマスター。
私は本日の読書(出張時は必ず車内読書必携)、
ジェネラル・ルージュの凱旋」をどうしても読み切ってしまいたかった。
ほんの少しハードボイルドな気分に浸れる場所でくつろぎたかった。
幸いなことに、ぴったりのお店。


ナイチンゲールの沈黙」「螺鈿迷宮」ではどうしてもすっきりしなかった
舞台裏が見えてくる今回の「ジェネラル・ルージュの凱旋」に、うっとり。
ダダ漏れじゃないのかなと不満に思えた所も、こういう形で補われるのなら
前作を認めることができるなあと、1人悦に入っていた。


自分には手が届かない存在に憧れて、そして結局何もできない。
肩透かしを食らったように、無視されて、疎外感を感じてしまう。
ずっと見つめ続けてきた存在が、自分だけのものでは無いと
重々わかっていながら、空の高みに舞い上がろうとしている存在に、
いつまでも最前線に生き続ける人に、尊敬と嫉妬と怒りをない交ぜにしたくなる。
どうしてマイナスの感情が芽生えてしまうのか、
自分でもわからず、わからないままに虚しく、自らを葬りたくなる気分。


登場人物の様々なシチュエーション、立場や性格、言動に、
それぞれ色んな角度で思い入れしてしまう私。
こんなふうに読める読書は滅多に無い。
まるで舞台の中に立っているように、その世界に引きずり込まれる読書は。
駆け引きや美辞麗句、思惑や裏取引、理想と打算。


医療の抱える問題を様々な角度で網羅しながら、その中で呻吟しつつ
生きる人々のドラマ。台詞に肉声がある。ストーリーに現実味がある。
物語に訴えたい理想やメッセージがある。
読了後に、哀しくも癒されている自分。
貰いたくても貰えない一言を、貰えない登場人物に重ね合わせて
心の痛みを噛み締める。自分の独りよがりな思いに終止符を打つために。


ヒーローにもヒロインにも脇役にもなれる。登場人物、誰にでも。
孤独なツワモノに、危なっかしいドミノに、正義感の強いレディに、
眠っているようで全てを見透かしている千里眼に、
仕事優先で生きられないオンナに、
飲んだくれてそのまま逝ってしまおうとしている歌姫に、
ここ一番の勝負に強い主役らしくない主役の、もっさりとしたカレに、
暑苦しくも出張ってくる歩く地雷のような奴に。


しばし、薄暗い居酒屋で、地下鉄で、ホームで物語の大部分を読み倒し、
お土産のケーキを持って帰宅。娘とデザートを共に食べ、
お休みなさいをしてからの静寂の中、最後をじっくり味わうために読む。
何度も読み返す。
本当は掛けて欲しかった一言を、物語から貰うために。
あらゆる場面、あらゆる立場で、
本来なら、自分が欲しかった一言を探すために。

ナイチンゲールの沈黙

ナイチンゲールの沈黙

螺鈿迷宮

螺鈿迷宮