Festina Lente2

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守り、伝えたいもののために

金曜日の研修に引き続き、講演者の名前を今朝の新聞に見出した。
あの日、木原雅子 京都大学准教授は厚生労働省も一目置く
「WYSH」プロジェクトの紹介に来ていた。
演題は「子どもを取り巻く人間関係の回復について」
 ― 今、にたりないもの、我々大人にできること ―


そして、今朝の読売新聞の「病原体の警告 3」の内容は
ネットで「広まる」性感染症。何てタイムリーなんだろうか。
11月はオレンジリボン、児童虐待防止キャンペーン期間だったし、
12月1日は世界エイズデー、レッドリボンキャンペーン、
そして現在人権週間、様々な催しが連動してリンク学習の感。


残念ながら世間の、教育の現場での反応は鈍い。
ごく一部の熱心な、ある意味問題意識を抱える者が、
批判や好奇の目に晒されながら、物事を推進しているのが実情。
携帯電話の普及は爆発的なのに、啓蒙的な必要事項となると、
牛歩の歩みとなってしまうこの国の体質。


国家百年の計を失った営利企業化の激しい社会では、
滅びるものは勝手に滅びよが原則で、今流行の下流食い。
弱肉強食、知らずに潰されるのが悪いという下克上。
所詮世の中は金さ、学歴も地位も人間関係も、
何もかも手に入れる事ができるのは、金さという、
漫画の世界よりもベタな価値観のまかり通る社会。


携帯電話の普及率とメールの回数は増加、反比例する学習時間、
学力の低下はこの間のOECDPISAの結果でも明らか。
1日40通以上メールを送る高校生の性経験率は
0〜5通の高校生の20倍以上高い。
性経験の多い者ほどコンドームは使わない傾向。
高校3年の出会い系サイトの利用は1割を超え、
若い女性のクラミジア感染率は14%を超える。


この発表は、一体なんなのだろう。この数字は、このデータは。
現実の深い裂け目を前に、それでもなお、しなければならないことは?
そう、その為に仕事を続けているようなもの。
その為に、勉強や研修を重ねている。
守り、伝えたいものがあるから、できることをするため。

10代の性行動と日本社会―そしてWYSH教育の視点

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医学的研究のデザイン―研究の質を高める疫学的アプローチ

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木原雅子のプロフィールにある、
22万人にも及ぶ対処者から分析される
子どもの現状に応じた効果的な教育の開発。
それは、実に魅力的な世界だ。
特別な授業、小学生から高校生まで、1年に1度、特別な日。
たった一度の授業でも心に深く残るのならば、
一生影響を与える事ができる。
確かにそうだが、非常に困難な取り組み。
連続性を重視する現場に、1回性(実際は2回)、
一期一会に近い形で投げ込まれる授業の在り方は、
マレビトの降臨のようなもので、
それをどう周囲は引き継いで行けばいいのかという課題が残る。


現在の子どもが抱える様々な問題(性・いじめ・自傷行為・万引き等)の
背後に共通して見られる現象、人間関係の希薄さ。


世の中の便利さと引き換えに、現代社会から失われた
「人間関係の回復」を教育の根底にすえて、
各種予防教育の開発普及を全国展開中だという。
その一環として、金曜日の講演会があったのだ。
この講演は私には意味深かった。
仕事を持つ人間として、女性として、娘を持つ母親として、
この時代、この社会にどう関わっていけばいいのか。
不安ばかりが募る今の状態を、どうにかできないものかと。


現場のモチベーションの低さに押しつぶされそうになりながらも、
知らないできないでは済まされないし、
自分の子供が巻き込まれていくだろう
その社会の一歩手前、学校での人間関係。
自分自身にとっても過去、子ども時代、鬼門だった人間関係。
そういう場所に、どんなプロジェクトを導入して行けばいいのか。
これが興味を持たずして、何としよう?


WYSH―Well-being of Youth in Social happiness
当面の目標は、危機管理教育 + 人間基礎教育
危険から身を守る(病気も含めて)、そして社会性を身につける
→集団の中で適切な時期に適切な人間関係が築けること
最終目標は、生と立ち一人一人の中に眠っている可能性を見つけ、
それを磨き、将来に夢を希望を持てる児童生徒を育てること


私も、そういう授業が受けて育ちたかったものですね。
模擬授業のデモビデオを見せてもらったけれど、なかなか。
BGMに若者や子どもの好きな音楽を使っていたけれど、
千と千尋の神隠し」の中の曲が入っていたかな。
いずれにせよ、ちょっと感動でウルウル来る内容。
でも、小田和正の曲が流れる某生命保険会社のビデオクリップに
似ていないでもない。 訴えたい内容が似ているからだろうが。


しかし、この人間性教育社会教育的なプロジェクトは、
WYSHのHPを見るとわかるように、厚生労働省や保健教育の一環から
為されている。だから、これは何を意味しているか・・・。
実は、木原氏は医学博士で、国連エイズ共同センター長、
厚生労働省若者のエイズ予防研究班主任研究者だ。
文部科学省性教育の指導に関する実践推進事業・
効果的指導方法の実践研究責任者でもある。

Quiet Storm 静かなる嵐―HIV/エイズとたたかう人々の勝利のために

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自分自身の体も心も十分に守りきれず、付き合いが終わったら、
何もかもリセットできるようなゲーム感覚で人間関係を持つ。
そんな若者は多い。ケータイ感覚で、見も知らぬ人間と
あっという間に深い関係になりあっという間に別れて、
自分も相手も大事にすることの意味を失っている人たち。
実は、大事にされる経験も希薄なまま育っている。


心と体の問題を話し合う上で、社会生活訓練や言語訓練、
コミュニケーション教育は行き渡ってはいない。
実際的な知識についても、少子化を推し進めるつもりかという
場違いな批判が行われ、日本は性感染症を含めたHIV/AIDS感染率が
増加する一方なのに、教育現場では相変わらず血液製剤関連の授業のみ。
中・高生の性に関する意識や行動にそぐわない感覚の教員・PTAも多い。


だから、携帯電話の遣い方一つでも、親子の間で約束もなく、
決まりごともなく、おもちゃ感覚で持ちたいだけ持ち、
複数を使い分けて、希薄な関係に拍車をかける。
ケータイに支配されて、生身の関係を持ち、育てていくすべ、
忍耐、努力、楽しさ、難しさを経験する前に、
お手軽で便利な使い捨て感覚だけを身に付けていく。
自分がそういう存在になっていることも意識せずに。


木原氏の試みる授業・プロジェクトは、過激な性教育反対論者に対して
ソフトに対応できる戦略であり、小学校から準備できるもの、
中学・高校でも実践できる柔軟さ・可能性を持っている。
親が、自分の息子や娘をどのように成長させたいかではなく、
彼ら自身がどのように成長していきたいかを「夢見る力」を
羽ばたく翼をそっと用意することは必要だろう。
明日に希望を持たない人間は自分を大切にしない。


私達が育てたいのは明日に希望を持てる人間。
自分と同様に他人を大切にできる人間だ。
私は自分の娘の向こうに、繋がる(はずの)存在を感じ取る。
それは自分自身に繋がるもっとも近い娘、家族、それから。
・・・伝えたい事が沢山ある。守りたいものが沢山ある。
木原氏の講演は、その思いを後押ししてくれるものだった。
(ちなみに、ユーモアと授業内容は一歩間違えば暗くなる話を
 引っ張る上で大切。そういう意味でも、いい講演)


最後に、高校生に命の授業を行う映像の中で、
妊娠中の姿、出産直後の赤ちゃんを囲む家族の場面、
様々な写真が使われていた。
その中にあった、死に行く人の姿を映したもの。
それは、誰からも資料を得られなかったので、
木原氏の、昨年なくなられた父君の写真を用いたとのこと。
自分の仕事の中に、父親の姿を見出す形で「生と死」を
教える授業に取り組まれている姿勢にも、感銘を受けた。


医師だからこそ、病院で生まれ病院で死ぬ、
そのことが、何を意味しているのか、
考えることも多いだろう。
自分も相手も大切にできないで、治らない病気にかかっても、
不妊が何を意味するかもわからずに、時間をやり過ごすだけの
そんな存在になってしまう前に。
医師として考え、行動する側面。


病気は予防が大切だと言うのならば、心の教育は医療の中に含まれる。
教育の現場は医療と結びつく。心と体の問題は、表裏一体。
そして、私にはそれが出来ているか?
仕事でも、家庭でも、きちんと出来ているか。
自分に対しても、家族に対しても。
私は未来に希望を持って、生活してるだろうか。
毎日繰り返される自問自答。

国際誌にアクセプトされる医学論文―研究の質を高めるPOWERの原則

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