Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

故人を偲ぶ茶会

社中集まってお茶会、同窓会。
懐かしい人の顔を見たいと思い出かけた。
されど、師に不義理、不孝不忠の弟子、
たいしたお稽古もせずやめてしまった人間が、
そのような故人を偲ぶ会に顔を出してよいものかどうかと悩んだが、
せっかく声を掛けてくれた人の思いを無碍にしてはならじと
意を決して出向いた。結果的には来て良かったと心から思ったが、
それでも肩身の狭い思いは消えはせぬ。


ここで供養の意味も兼ねた会に誘われていて出ないというのも、
ある意味申し訳が立たぬと思い、久しぶりにかつて通った道を辿った昨日。
下見を兼ねて出掛ければ、もう20年余の歳月が流れ、場所を探すのに苦労。
かつてミニバイクで走った細い道。車は通れない。
駐車場も含め、家からの所要時間を確認したのは休日出勤後の気分転換。


そして本日、出向いてみれば確認しておいた駐車場は満杯。
動揺するも、やや離れた第2候補の駐車場へ。
ガンガンの日差しのもと、てくてく歩いてかつての師匠のお宅へ。
すっかり建て換えられてモダンな一軒家となり、
朝茶事や夜咄の茶事を習った頃の面影は無い。
招き入れられた後も、瀟洒で趣味の良い内装、調度の配置された
美しい洋風建築の館に唖然としながら皆が集まるのを待つ。


かつてお花を習った部屋もない。
が、奥まった仏壇を配置した場所に二間続きの小さな和室。
ここがお茶室だったかと、その記憶を辿る。
どの辺りに炉を切っていただろうか。
天井には弥生3月の釣釜のために打たれた蛭釘(ひるくぎ)が。
その季節、その時期だけの茶の作法を細々と何年習っただろうか。
仕事に追われ、さっぱりも上達しないまま、
茶の心を知ることも無く中途半端に放り出したまま、
恩知らず常識なしの小娘、不甲斐無い弟子よと
思われていただろうと思うと、消え入りたい心境。
いよいよもって来たことを後悔した。


10人ほどの顔見知り。されど、名前と顔が一致しない。
師の助手を務めていた方々も、無論ひとかどの茶の師匠なれど、
今は「教える」ことからは引退されているのだとか。
さもあろう、もう30年ほど前の話、私が習い始めた頃。
師匠存命なれば、卒壽を超えるか超えないか。
居並ぶかつての助手の方々も傘寿前後か。皆々ご健在で何より。



共に習った元同僚、先輩等などは師範を取るまで精進した人ばかり。
その中にあって、お手前そのものも忘れ果ててしまったような人間、
未だに仕事も私生活も混沌としてけじめ無く、
「重いものを軽く、軽いものを重く」扱う姿勢、一期一会の心構え、
涼やかな人生の達人には程遠い齷齪する日々。
辛いことがあっても笑い飛ばし、
つまらないように見えることにも誠心誠意向かい合う、
そんな自由闊達、日々精進の気構えには程遠い日々。
自分がこの場にあっていいものかと自問しつつ、
きょろきょろと辺りを見回しながら、座に付いている。

  


回される菓子鉢、季節を感じさせるかわいい干菓子、
程よく泡立ったお茶、「懐かしいこのお茶碗」と声を上げる人々。
お手前を習っていた頃を思い出させる品々。
この私でさえも、お釜の湯の音を聞き、お手前する人の袱紗を扱う様子を見、
茶筌のかすかな音を感じ、お茶の色を見ていると不思議な気分。
何もわからず毎回言われるままおっかなびっくりお道具を扱い、
お茶を立てていただけの人間だったが・・・。


  


家族で彦根城を3度も訪れ、名勝玄宮園(回遊式庭園)の茶室 鳳翔台で
銘菓「埋もれ木」を頂き、一服を味わった思い出。
赤い緋毛氈とお茶の緑にしみじみと出来る自分を作ってくれたのは、
無頓着な自分を受け入れてくれていた師匠と過ごしたお稽古、
お茶との時間だったのだなと改めて実感。
一対一で人に導かれる、教えを受けさ諭されるとの有り難さを
何も知らずに過ごした数年。
もはや二度と師の指南を仰ぐことの無い今を思って胸が痛んだ。



恩師在りし頃の思い出話に花が咲き、その声音をまねた会話に笑い声。
「天然だった」師匠の、面白おかしくぐっさりくる一言一言に、
ああそうだった、そんなこともあった、そんなことを言われたのと、
一同懐かしさに浸った。習った年月が短く、
後足で砂を掛けるようにぷつんと辞めてしまった人間には
共有できる思い出が少ないものの、それでも懐かしくしみじみとしたのはご愛嬌。


師の娘さん、お孫さんたちが「こうして集まれたのも茶のご縁」と話されたが、
それは師の人徳、一期一会の茶席を愛し、
真剣に茶の世界に向かい合っていたからこそ。
社中の端くれというには忍びない恥ずかしさではあるが、
ご縁に連なっていたことは確かで、
この不肖の弟子をこの年齢にしてこの場に呼び戻すことも、
師の遠大な計らいの一つであったかとそんな心持さえして、帰途に着いた。

  

1 入門 割稽古・客の心得 (裏千家茶道 点前教則)

1 入門 割稽古・客の心得 (裏千家茶道 点前教則)