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舟を編む

久しぶりに家族揃って映画鑑賞。話題作『舟を編む』。
家族全員ちゃんと原作を読んでいたので、話の流れに付いて行きやすかった。
それにしても、原作のいい所はやっぱり映像化できていなくて残念。
パンフレットにわざわざ脚本を全部載せているのは、何のこだわり?
この映画を見に来る人は、文字が好きだから?
辞書に興味があるから?


転勤したてで新しい職場の勝手が分からず、人間関係も一から築き直し、
外側からは似たような職場でも、扱う物事が類似していても、
扱い方は全く異なる、モチベーションが上げやすい条件が整っている分、
人間関係のさや当てがキツイ、横並びを強調する、
個性を認めるようで認めない、
他人のキャリアを無視してかかる様な言動の多い、
神経を逆撫でする環境で一ヶ月、つくづく因果な仕事、
何故辞めもせず働いているんだろうと懐疑的になる一瞬、
そんな鬱屈した物思いを抱えている自分には、
原作よりも軽く仕上がったこの映画はちょっと物足りなさ過ぎた。


それだけに志し半ば、完成を見ることなくこの世を去ることになった者、
ほんの少ししか顔を出さないその俳優の久しぶりに見る顔、
痩せて年老いた顔立ちを見るにつけ、胸が痛んだ。
そして、今や私は仲間を失い、冗談を言い合う相手も時間もなく、
新しい職場でこの年で値踏みされている時期なのかと思うと、
たとえようもなくやるせなく、主人公である二世俳優、
息子の活躍を見ることもなく若くしてこの世を去った俳優の、
昭和の時代を思いやったりして、一人落ち込んだ。


舟を編む。いい題名だと思う。
私に必要なのは、この世の中を渡っていく、世渡りのための舟だ。
家族という仲間を乗せている家庭という舟ではなく、
仕事場を基本に据えた舟は、穴が開き、あちこち浸水しながら、
目的地を目指しているのか、いないのか。
誰も曳航はしてくれない。そんな年齢ではないのだ。


映画 舟を編む オリジナル・サウンドトラック

映画 舟を編む オリジナル・サウンドトラック


訊いても、訊かなくても同じ事なのだろうか。
それとも、訊いてもどうしようもないことを訊くことは出来ない。
何かを尋ねるということは、それが改変可能な期待を元に行う行為。
動かない変わらないだろうと思えることを、あからさまに訊く、
そういう道化たことをするには余りにも疲れている毎日。
知らないで済まない、そんな年齢。
分からないで教えを乞う、逸れも無様な年齢。


人生を、世渡りをするにふさわしい舟、
その舵取りを辞書で引いて調べるが如く、
納得して意味を理解することが出来るのならば、
どんなにか心強いだろう、などととりとめなく思いながら、
些末な仕事を押しつけられながら何年もかかって辞書を編纂する、
主人公達の若さを羨ましく思う。


そう、定年まで時間がそれほど残されていない私には、
前向きに仕事をするモチベーションを高めるよりも、
足を引っ張る要素が多い職場で、暗に、早期退職を、
離職を勧めているのかと勘ぐったり、うんざりしたり、
それでいて、どうしてここまで呆れるほど平均年齢が高い職場で、
皆こき使われていて呆れてみたり。
(年齢が高くても仕事が出来るということは有り難いことなのだが)
当たり前の福利厚生を享受せずとも、有り難がる年齢ばかり集めたのかと、
うんざりする現職場を思い出してしまい・・・。


原作や映画の世界がさらりと省いた悪戦苦闘の年月を思いやって、
自分の仕事と重ねて落ち込む自分を客観視して、情けなくなり、
素直に映画にのめり込むことが出来なかった。
強いて言えば、残照、映画のラストシーンは心に残った。
しかし達成感を得て後、見ることの出来る残照にはほど遠い、
今の私の毎日、悪戦苦闘ではあるが。
形の残る仕事が出来る人はいい。
そうではない自分の仕事の拠り所を求めて生きていくのは、結構大変。


舟を編む

舟を編む

文庫 裏読み深読み国語辞書 (草思社文庫)

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